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しおりを挟むソランジュはウラノス王太子殿下が言った言葉の意味がようやく全部わかった。
『そっか、そうかぁ。そういうことかぁ。おかしいと思っていた。してやられたよ。夫人の勝ちだな』
あの言葉は、ソランジュがオーリオに忠告していた『超えてはならない一線』の言葉によって、いつまで経ってもなぜかサミア様に触れることのないオーリオを疑問に感じていたから出たのだろう。
何があっても触れることがなかったために、誤解される場面を作ることもできなかったからだ。
そして白い結婚だと思っていたのに妊娠していると示したソランジュにしてやられたと思った。
オーリオを罠に嵌める日は近かったのかもしれない。
要するに、ギリギリのところで私は勝った。
オーリオは無事で、マーズ伯爵家も無事だ。
「オーリオ様、サミア様に好意を抱くことはあなたの自由です。心の中でなら。
ですが、貴族夫人とは違い妃殿下なのですから、不貞が発覚した場合の処罰は非常に重くなります。
今後は遠くから眺めたり記憶の中のサミア様で我慢してくださいね。」
「いや!もうサミア様のことはどうでもいい。僕にはソランジュと子供がいる!」
「どうでもいいって……思うのは自由ですから構いませんよ?」
「違うんだ。話を聞きながら思い出した。ハンカチは男を虜にする手口の一つだったんだ。」
オーリオは、学園で王太子殿下の側近になっていたもう一人もハンカチがきっかけだと言っていたことを思い出したという。その時は、サミア様は意外とそそっかしいのかと微笑ましく思ったが違ったと。
「落としたハンカチを渡すときに手が触れた。それもワザとに違いない。お礼にと万年筆をもらった。
微笑み方、悲しそうな表情、約束の仕方、さりげない触れ方、全部が全部、演技くさい。」
「それはそうでしょう。公爵令嬢で王太子妃なのですから。自分の魅せ方は完璧でしょうね。」
「それでもっ!特にあの上目遣いなんか、キスを誘うかのようで……」
「それは誘っていた可能性もありますね。自分はした方ではなくされた方になれば無理やりだと言い訳したことでしょう。おそらく、そのような手段がいくつか報告されていたのだと思います。王太子殿下に。
婚約者時代から見張りをつけているのでしょうね。それで殿下はサミア様が嫌になった。
サミア様は自分にチヤホヤしてくれる好意的な視線が好きなのでしょう。だけど自分からできることは、さりげなく触れることくらい。あとは相手が行動を起こしてくれるのを待つのでしょう。
オーリオ様の自制心のお陰で生き残れましたね。」
誘われたと感じるのは男側の主観で、サミア様はそんなつもりはなかったと言うだろう。
衝動的にできることはせいぜいキスか抱きしめることくらいになる。
躱せる行動は躱して焦らし、強引な行動は男の破滅を意味する。
「……一線は大事だった。」
手が届くはずもない女性と何度も会える関係になると、男というのは自制心が揺らぐ時があるという。
王太子殿下もサミア様も、オーリオにその揺らぎを期待していた。
王太子殿下はサミア様を処罰して、シャノン様を正妃にするために。
サミア様は、じれったく焦がれて見つめるだけの男を落とす楽しみのために。
代わりになる男など、いくらでもいると遊んでいるのだろう。
ある意味、他力本願なのは似ている王太子夫妻だと思った。
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