恋心を利用されている夫をそろそろ返してもらいます

しゃーりん

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その後、オーリオは、ウラノス王太子殿下の側近という名の雑用係が首になったことでマーズ伯爵家の跡継ぎとしての仕事に真面目に取り組み始めた。
 
後の時間は、ソランジュのお腹の子供のことに夢中になっている。

男の子の名前、女の子の名前。
部屋の壁紙や家具。
おもちゃは山。
乳母の目星。

子供に話しかけながらソランジュの膨らんだお腹を撫でまわしているのはいつものこと。

オーリオがこんなに子供に夢中になるとは予想外のことだった。 



ちなみに、サミア妃殿下は外交で訪れた遠い国の王子に一目惚れされ、公の場で熱烈な求婚をされた。
王太子妃だからと断ったが、いかにも本当は断りたくないのだというような思わせぶりな態度に、周りはいっそのこと嫁がせてやろうとサミア様を友好の証として差し出すことに決めた。

ウラノス王太子殿下とはもちろん離縁。婚姻白紙とも言える。
なぜなら初夜を迎えていないため、正式には成立していなかったのだとか。
だが、記録は残した。確かにプルート公爵家から王家に嫁いだという証明のためだ。

断ったはずなのに、いつの間にか遠い国の王子に嫁ぐことに決まっていることにサミア様は一人焦っていたらしいがどうしようもない。 

側妃シャノン様の懐妊がわかり、シャノン様を正妃に、という雰囲気で盛り上がっていたからだ。

サミア様の両親も、全く相手にされていない王太子よりも望まれて嫁ぐ方が幸せになれるだろうし、国のためになるのであれば誉れであると賛成していた。

こうしてウラノス王太子殿下の願いは意図せず叶い、サミア様と王子を満面の笑みで見送ったという。



サミア様のその後のことは知らない。
国に来ていたのは、第18王子だったという。つまり、ハーレムのある国なのかもしれない。
一夫多妻なのだろう。一妻多夫であればサミア様の望む暮らしを得られただろうが………。
この国であれ他国であれ、王族に嫁ぐのであればまだまだ一夫多妻の国が多いため文句は言えない。

ただ問題なのは妻の人数よりも子供の人数。
多すぎて財政が破綻したり、下克上を狙う争いが起こりかねないからだ。

かの国にそのような問題が起きないといいけれど………




月日が経ち、ソランジュは男の子を出産した。
 
子煩悩な父親になったオーリオは息子を非常に可愛がる。
まぁ、無関心よりはいいことだと思うけど、オーリオに似て鈍感な子にならないようにしないとね。


「ソランジュ、そろそろ……その、夫婦の寝室を使わないか?」

「もう一人、子供が欲しいのですか?」

「いや、そうじゃなくて、いや、子供も欲しいけど、仲良くしたいなって。」

「仲良く…………つまり、子作り以外でも閨を共にしたいと?」

「うん。ダメかな?」

「…………いいですよ。」


オーリオはぱぁっと嬉しそうに笑った。
頭はよくないが顔はいいこの夫は、日に日にソランジュに纏わりつく子犬みたいになっていた。

元々、政略結婚でも仲良く過ごせるに越したことはないと思っていた。
夫もそう思ってくれるのであれば、夫婦仲は良い方が子供にもいい影響を与えると思っているのでソランジュに異論はない。


その後、ソランジュは2人子供を産んだ。
子供は2人でいいと思っていたので、2人目を出産後、夫に避妊を任せたのに3人目を妊娠。
夫に任せていると何人子供を産まされるかわからないので、ソランジュが避妊薬を飲み始めた。


 
オーリオとソランジュは60代まで生きたが、お互いに『好き』とも『愛してる』とも言ったことがない。

オーリオは妻にサミア様への恋心を知られていたことが恥ずかしくもあり、申し訳なくもあり、言う資格がないと思っていたのと、意外と口下手な男だったのだ。
だが、いつもソランジュに構ってほしくて纏わりついている態度でわかるだろう?と言いたげだった。

なので、ソランジュも何も言わなかった。好きか嫌いかと言われれば、好きに入る。
でなければ、子供を産んだ後は触れ合いたくもなかっただろう。

相思相愛かと言われれば、微妙。思わず眉間に皺を寄せてしまうのは許してほしいとソランジュは思う。


子供や孫から見れば、家庭内権力は圧倒的にソランジュが上の、あくまでも政略結婚の夫婦。
 
ソランジュの歓心を買おうと何年経っても必死のオーリオ。

それでも2人は幸せそうに見えたと言ってくれた。

政略結婚は、妻より夫の愛が大きい方が上手くいくに違いない、と。



<終わり>


 
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