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いきなり乗り込んできたリンゼは周りが全く見えていないらしい。
何をしにきたのか、ご機嫌な様子で口が軽い。
「どうしてカールストン公爵だと?確かに今来ていたけれど、仕事の話だと思わなかった?」
「カルに、あの家にいた男にね、子供が欲しい男が誰か聞いても教えてくれなかった。産むのは痛そうだから内緒で身代わりを立てたいって言ったら渋っていたけど、何度か抱かせてあげる約束をして協力してもらったの。
私が協力する代わりに、高位貴族の夜会に出てみたいってことも相手の男に伝えてもらったの。
そうして招待されたのがカールストン公爵家の夜会だったわ。
疑いを持つには十分でしょ?カルの家に来るところは見かけなかったから、確信は得られなかったけど。」
ここに来たから、彼だと確信したのね。
「私にシャンパンを飲ませたのはあなた?」
「そう。侯爵家なら絶対に招待されていると思って。眠らせてカルに運んでもらったの。」
「それで?わざわざそれを言いに来たのかしら?」
「まさか。公爵様の子を産んだことの口止め料。もちろん、あっちからも貰うけど。」
リンゼは金を要求しに来たらしい。
ブランシェはリンゼの斜め後ろにいる男たちに話しかけた。
「騎士様、誘拐犯が見つかりましたわ。」
騎士は苦笑しながらリンゼに近寄った。
「え?!何、なんで?王国騎士がいるの?」
エメック侯爵家の騎士ではなく、国の騎士がここにいる。
そのことに、リンゼはひどく驚いて動揺し始めた。
「なんでって、カールストン公爵家の夜会で私は攫われたのだから、騎士と一緒に公爵様からあの日の話を聞いていたのよ。公爵様は先にお帰りになられて、騎士様もお帰りにって時にあなたが乗り込んで来ただけよ?」
リンゼに、ブランシェのお腹にいた子供の父親がカールストン公爵だと教えてあげる必要はない。
彼女は今から捕まって、犯罪者になるのだから。
「リンゼ・ソイベル。拉致・監禁と脅迫の罪で捕らえる。あ、殺人未遂もか。」
左右の腕をガッチリと確保されたリンゼはもう逃げられないだろう。
ブランシェの拉致は、状況的にはリンゼとカル・イーストの犯行で間違いなかった。
でも証拠がなかった。
それなのに、リンゼは騎士の前で自白してくれたのだから、言い逃れはできない。
「そんな、噓でしょ?私が悪いわけじゃないわ。悪いのは子供を欲しがった男でしょう?」
「あなた、代理母を頼まれた時にお金も受け取ったんじゃないの?勝手に契約違反して身代わりを立てておいて、悪くないって本気で言っているの?」
リンゼは魔術で胎児を移されるということは知らなかった。
カールストン公爵とカル・イーストは、そのことを知られないように、そして相手が誰かも知られないように、リンゼもブランシェのように眠らせるつもりでいたはず。
リンゼは自分の子を産むと思って契約し、でも痛い思いをしたくないからブランシェを身代わりに立てた。
前金もリンゼが受け取ったままであるはず。
それって詐欺じゃない?
「お金なんて、もうないわよ。使っちゃったし。後金、貰い損ねたし。」
「詐欺罪も追加だな。」
騎士の言葉に、リンゼは目を丸くした。
「待って、待ってよ。依頼者に罰は?」
「……本来、代理母契約は罪にはならない。庶子を嫡子と偽れば罪に問われることもあるが、それは子供を入れ替えた場合に適用されるくらいで、あとは忖度で問題にはならないな。」
貴族だからね。
愛人の子だとわかっていても、妻が受け入れていれば嫡子になってしまうから。
リンゼが身代わりなんて立てなければ、カールストン公爵の罪は明らかにならなかったと思う。
リンゼは暴れながら、連行されて行った。
誘拐の罪は重いため、もう会うことはないと思うとホッとした。
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