9 / 13
9.
しおりを挟むビアンカが言い放った言葉に反応したのは、公爵令嬢ラフレンツェだった。
「結婚?あら。いいのではないかしら?2人とも婚約が無くなったばかりだものね。
同じ伯爵家同士だし、これも何かのご縁かもしれないわよ?」
デントとココミアの婚約を勧めるかのような発言に周りは驚いたが、面白がって同意する者もいた。
「そうよね?浮気疑惑の後始末ってとこかしら?
疑われたことがきっかけで婚約しましたっていうのもいいんじゃない?」
「浮気した相手と婚約なんて非難されるだけだから普通はしないもんな。
むしろ、やましいことなんてないって証明になりそうだ。」
そんな周りの祝福するような雰囲気に戸惑っていると、デントがココミアに言った。
「確かに、きっかけはどうあれ『縁』と言われればそう思いたくなってしまうね。
僕は婚約を前提にもっとお互いのことを知り合いたいな。どうかな?」
「はい。よろしくお願いします。」
照れたような2人のやり取りに、周りはワァっと盛り上がった。
悪者が去り、被害者2人が結ばれる。
まるで観劇を見ているようだと面白がっていた。
中には、少し前までココミアに非難の目を向けていた者もいる。
調子のいい者たちだと呆れはするが、実害を被らなければそんなものだろう。
結局、ビアンカは学園をやめた。
侯爵への無礼な発言の数々がビアンカの両親に報告され、侯爵本人から咎められる前に籍を抜いて厳しい修道院へと送られたようだ。
いずれ、こんなことになるのではないかとココミアは思っていた。
ビアンカとの出会いから、そう思っていた。
1年と少し前………
ココミアは誰も知らない教室で、自分から声をかける気はないので本を読もうとしていたところ、話しかけられた。
『私、ビアンカ。子爵令嬢よ。婚約者は伯爵令息なの。あなたは?』
『ココミアよ。家は伯爵家。婚約者も伯爵令息ね。』
そう告げると、ビアンカは少し顔を引きつらせた。
おそらく、ココミアを男爵令嬢くらいに思ったのだろう。
声をかける相手を誤った。
そんな態度だったが、おとなしそうなココミアならまぁいいかと思ったようだ。
『そう。将来は伯爵夫人同士ね。仲良くしましょ。』
『ええ。』
ビアンカの感情の動きは読み取れそうなほどで笑いそうになったけど、心の強い子だなぁと思った。
自分に自信がある。……少し方向が怪しいけれど。
間違った方向についていく気はないけれど、ビアンカはココミアが進んで話をしなくても気にしないだろうと思った。従っていれば楽。それで良かった。
ココミアは自分の意見を言うのが苦手だった。
なぜなら、毒舌だと言われたことがあるから。
正論をズバッと言いがちで、言葉を選びなさいと叱られてからは無口になった。
真面目で面白味のないココミアとなった。
一人でも平気だけれど、令嬢はグループを作りたがる。
どこかに入ることになるなら、ビアンカの思考を間近で見るのも面白いと思ったからそばにいた。
結果、ビアンカは自分に同調してくれる令嬢を上手く集めた。
自分で考えるのではなく、言われたことが正しいと従う令嬢たちを。
……ココミア以外は。
彼女たちが巻き添えになるとまでは考えていなかったが、ビアンカが将来の伯爵夫人になることはないだろうとは前から思っていた。
紹介されたデントがビアンカと婚約解消するつもりでいると感じたからだ。
ビアンカに伯爵夫人は無理だと思った。
そして、思った通り侯爵家でやらかしたのだから。
182
あなたにおすすめの小説
虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~
***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」
妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。
「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」
元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。
両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません!
あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。
他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては!
「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか?
あなたにはもう関係のない話ですが?
妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!!
ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね?
私、いろいろ調べさせていただいたんですよ?
あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか?
・・・××しますよ?
【完結】婚約破棄の代償は
かずきりり
恋愛
学園の卒業パーティにて王太子に婚約破棄を告げられる侯爵令嬢のマーガレット。
王太子殿下が大事にしている男爵令嬢をいじめたという冤罪にて追放されようとするが、それだけは断固としてお断りいたします。
だって私、別の目的があって、それを餌に王太子の婚約者になっただけですから。
ーーーーーー
初投稿です。
よろしくお願いします!
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
君を幸せにする、そんな言葉を信じた私が馬鹿だった
白羽天使
恋愛
学園生活も残りわずかとなったある日、アリスは婚約者のフロイドに中庭へと呼び出される。そこで彼が告げたのは、「君に愛はないんだ」という残酷な一言だった。幼いころから将来を約束されていた二人。家同士の結びつきの中で育まれたその関係は、アリスにとって大切な生きる希望だった。フロイドもまた、「君を幸せにする」と繰り返し口にしてくれていたはずだったのに――。
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった
有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。
何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。
諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。
【完結】可愛いのは誰?
ここ
恋愛
公爵令嬢の私、アリドレア・サイド。王太子妃候補とも言われますが、王太子には愛する人がいますわ。お飾りの王太子妃にはなりたくないのですが、高い身分が邪魔をして、果たして望むように生きられるのでしょうか?
私と婚約破棄して妹と婚約!? ……そうですか。やって御覧なさい。後悔しても遅いわよ?
百谷シカ
恋愛
地味顔の私じゃなくて、可愛い顔の妹を選んだ伯爵。
だけど私は知っている。妹と結婚したって、不幸になるしかないって事を……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる