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しおりを挟むビアンカが言い放った言葉に反応したのは、公爵令嬢ラフレンツェだった。
「結婚?あら。いいのではないかしら?2人とも婚約が無くなったばかりだものね。
同じ伯爵家同士だし、これも何かのご縁かもしれないわよ?」
デントとココミアの婚約を勧めるかのような発言に周りは驚いたが、面白がって同意する者もいた。
「そうよね?浮気疑惑の後始末ってとこかしら?
疑われたことがきっかけで婚約しましたっていうのもいいんじゃない?」
「浮気した相手と婚約なんて非難されるだけだから普通はしないもんな。
むしろ、やましいことなんてないって証明になりそうだ。」
そんな周りの祝福するような雰囲気に戸惑っていると、デントがココミアに言った。
「確かに、きっかけはどうあれ『縁』と言われればそう思いたくなってしまうね。
僕は婚約を前提にもっとお互いのことを知り合いたいな。どうかな?」
「はい。よろしくお願いします。」
照れたような2人のやり取りに、周りはワァっと盛り上がった。
悪者が去り、被害者2人が結ばれる。
まるで観劇を見ているようだと面白がっていた。
中には、少し前までココミアに非難の目を向けていた者もいる。
調子のいい者たちだと呆れはするが、実害を被らなければそんなものだろう。
結局、ビアンカは学園をやめた。
侯爵への無礼な発言の数々がビアンカの両親に報告され、侯爵本人から咎められる前に籍を抜いて厳しい修道院へと送られたようだ。
いずれ、こんなことになるのではないかとココミアは思っていた。
ビアンカとの出会いから、そう思っていた。
1年と少し前………
ココミアは誰も知らない教室で、自分から声をかける気はないので本を読もうとしていたところ、話しかけられた。
『私、ビアンカ。子爵令嬢よ。婚約者は伯爵令息なの。あなたは?』
『ココミアよ。家は伯爵家。婚約者も伯爵令息ね。』
そう告げると、ビアンカは少し顔を引きつらせた。
おそらく、ココミアを男爵令嬢くらいに思ったのだろう。
声をかける相手を誤った。
そんな態度だったが、おとなしそうなココミアならまぁいいかと思ったようだ。
『そう。将来は伯爵夫人同士ね。仲良くしましょ。』
『ええ。』
ビアンカの感情の動きは読み取れそうなほどで笑いそうになったけど、心の強い子だなぁと思った。
自分に自信がある。……少し方向が怪しいけれど。
間違った方向についていく気はないけれど、ビアンカはココミアが進んで話をしなくても気にしないだろうと思った。従っていれば楽。それで良かった。
ココミアは自分の意見を言うのが苦手だった。
なぜなら、毒舌だと言われたことがあるから。
正論をズバッと言いがちで、言葉を選びなさいと叱られてからは無口になった。
真面目で面白味のないココミアとなった。
一人でも平気だけれど、令嬢はグループを作りたがる。
どこかに入ることになるなら、ビアンカの思考を間近で見るのも面白いと思ったからそばにいた。
結果、ビアンカは自分に同調してくれる令嬢を上手く集めた。
自分で考えるのではなく、言われたことが正しいと従う令嬢たちを。
……ココミア以外は。
彼女たちが巻き添えになるとまでは考えていなかったが、ビアンカが将来の伯爵夫人になることはないだろうとは前から思っていた。
紹介されたデントがビアンカと婚約解消するつもりでいると感じたからだ。
ビアンカに伯爵夫人は無理だと思った。
そして、思った通り侯爵家でやらかしたのだから。
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