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しおりを挟むあの侯爵家の夜会では驚いた。偶然見た出来事で全てが一気に進んだのだから。
奥の庭園が逢引き場所になっているのはテラスから見ていたらわかった。
明らかに照明が少なく、警備の者が立っていれば誰も近づかない。
だが、警備の者に令嬢が何かを言ってから通されて、その後にザッカリーが通った。
『嘘だろ?侯爵邸で伯爵令息が逢引きするのか?』
侯爵またはココミアに知らせたらどうなるだろうか。
そんな誘惑に駆られていた時に、ココミアにザッカリーの居場所を聞かれた。
知らないと言うことも出来たが、こんなチャンスを逃すわけにはいかなかった。
ココミアにザッカリーの居場所を教えてから、自分も後を追った。
キスくらいは想像していたが、まさか見えるところで本気で交わっているとは想像以上だった。
固まって動かないココミアを誘導して歩いてきた道を戻った。
しかし、彼女はあまりショックを受けていなかった。
『婚約解消したかったから丁度良かった。証人になってくれます?』
ココミアはあの庭園でそう言ったのだ。
『もちろん』
そう答えた。
『もう結婚できないわね。でもあんな浮気者と結婚するよりも一人の方がいいわ』
そう言って寂しく微笑んだココミアに、デントは言ってしまった。
『僕もビアンカ嬢と婚約解消したいんだ。その後は君に婚約を申し込みたい。君に惹かれてるから』
『……本当に?』
『ああ。だから待っていてくれないか?なるべく早く婚約解消する。
その後に君と婚約すればビアンカ嬢が辛くあたるかもしれない。
友人でいられなくなるかもしれないが大丈夫か?それでも僕と婚約してくれるか?』
『ええ。とても嬉しい。ビアンカに何を言われても平気よ。あなたを待ってるわ』
そう言ってココミアは涙を流して微笑んだ。
取り出したハンカチが落ちたので拾おうとした時、視界の端にビアンカを捉えた。
ハンカチを拾いながらココミアに言った。
『今、ビアンカ嬢が見ている。いい機会だ。彼女が誤解するように仕向けるから僕に合わせて』
デントのハンカチでココミアの涙を拭った。
直接、肌には触れていない。だけど、親密な距離で。
単純なビアンカは、思った通り騒いだ。愚かだな。
後は簡単だった。
侯爵も、デントの気持ちがわかったのか婚約解消を勧めてくれたお陰で、翌日には手続きを終えた。
親にはココミアに婚約を申し込みたいことを伝えておいた。
賛成してくれたが、さすがに少し時間を空ける必要があった。
いつ頃、ココミアに近づこうか。
そんなノン気なことを考えていたのでビアンカの起こした騒動に気づいていなかった。
知った時にはココミアは既に公爵令嬢のグループに守られていてホッとした。
『下の学年のお前の元婚約者が原因でまた騒動が起きているぞ』
ホッとした数日後、そう伝えられて行ってみるとビアンカがココミアを責めていた。
ココミアは関係ない。前から婚約解消は考えていたとビアンカに伝えた。
さすがに驚いて更に醜態を晒してくれた。
だけど、ビアンカは最後にいい仕事をしてくれた。
『ココミアと結婚したらどう?』
なんと良いタイミングで言ってくれたんだろう。
公爵令嬢がそれを『縁』と言ってくれたお陰で、思ったよりも早くココミアと交際することができた。
この婚約は偶然が重なった最高の結果だった。
ビアンカが疑った浮気疑惑は、あながち間違ってはいない。
ビアンカの婚約者のまま、ココミアに婚約を申し込む約束をしていたのだから。
しかし、誰かが言った『浮気疑惑の後始末』はデントとココミアの婚約で綺麗に回収された。
そして僕たちの婚約は、社交界で好意的に受け入れられている。
ビアンカが言ったような笑い者にはならず、笑い話になるのだから。
もちろん、笑われるのはビアンカだ。
僕たちが浮気したとは誰も思っていない。
ただ愚かな元婚約者をもった被害者同士が公爵令嬢が言った『縁』という言葉によって結ばれた美談として語られるだけだった。
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