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しおりを挟む恋愛や婚約の話が大好きな夫人や令嬢方によって『縁』の話はどんどん広がる。
「ココミア様たちの婚約なのに私の評価まで上がってしまっていいのかしら。」
それを困ったことのように語る公爵令嬢ラフレンツェ。
しかし、ラフレンツェとココミアは上手くいったと内心では喜んでいる。
ココミアは、デントとの婚約を進めるにあたって浮気疑惑が残らないようにしたかった。
密かにラフレンツェに相談し、自然な形でデントと交際できるようにラフレンツェが取り持ったという形にしたのだ。それがあの『縁』という言葉になった。
ラフレンツェは王太子争いをしている自分の婚約者の第二王子を少しでも優勢にしたかった。
ラフレンツェの評価は第二王子の評価にも繋がるからだ。
側妃から生まれた第一王子と正妃から生まれた第二王子。
第二王子が優勢ではあるが、婚約者であるラフレンツェの名声は後押しになるからだ。
ちょっとしたキッカケが評価を上げ下げする。
第一王子の婚約者である侯爵令嬢カサンドラは、第一王子の従兄妹でもある。
国王の側妃がカサンドラの父と姉弟だった。
側妃と第一王子とカサンドラは極度の平民嫌い。
侯爵家がそういう方針であるからだ。
しかし、これは王族になる者にとっては良いことではない。
側妃もカサンドラも隠してはいるが、第二王子派には伝わっていた。
ラフレンツェの名声により第二王子の評価が上がった今、最後の仕上げにかかった。
王家主催の夜会で騒動は起こった。
「どうして平民がここにいるの?私のドレスに触れないで!」
第一王子の婚約者カサンドラが思わずあげた声とパシッという音が響いた。
ウエイターがカサンドラとぶつかってドレスの裾に倒れこんだのだ。
慌てたその男は田舎訛りの言葉で謝罪した。
それにより、カサンドラは平民と判断したのだろう。
もちろん、この男は第二王子派の仕込である。
「カサンドラ、どうした?」
「ウェイターが平民なの。おかしいわ。平民は貴族の目に触れるべきじゃないわ。手も汚れたし。」
「カ、カサンドラ。声が大きい。」
第一王子殿下は周りの貴族が眉をひそめるのが目に入った。
カサンドラを退出させようとする前に、王妃がその言葉に反応した。
「カサンドラ嬢、今、何と言いましたか?平民は貴族の目に触れてはいけないと?」
「ええ。当然ですわ。貴族の視界に入るなど、あってはならないことです。」
「あなたは第一王子の婚約者として、王族の心得も学んでいますね?その上での発言ですか?」
カサンドラが答える前に、国王の側妃で第一王子の母であるカミーラが止めに入った。
「王妃様、カサンドラ嬢は動転しているようですので下がらせます。」
「いえ、少し待って。簡単な質問です。
カサンドラ嬢、あなたは平民を我が国の大切な国民として慈しむ心があるかしら?」
「………………ええ。もちろんですわ。」
「では、あなたが叩いた彼の目をみて謝罪しなさい。
ぶつかったのはあなたです。彼は仕事をしていただけなのですから。」
「………無理だわ。私は侯爵令嬢です。いずれは王妃になります。
平民に頭を下げるだなんて、有り得ないわ。
どっちが悪いかなんて関係ないの。平民は貴族に従うだけの存在。
私の前に平民が姿を見せてはいけないの。考えただけでおぞましいわ。」
開き直ったようにカサンドラは王妃に言った。
第一王子や側妃は、貴族の前でのこの発言はよくないとは思いながらも内容的には同意らしい。
王妃はチラっと国王陛下の様子を見た。
国王陛下はカサンドラの発言を否定しない第一王子や側妃を呆れた思いでため息をつき、言った。
「お前たちが平民嫌いだということは薄々気づいていたが、ここまでだとはな。
王太子は第二王子とする。これは最終決定だ。」
「そ、そんな。なぜ……」
「お前たちは、自分たちがどんなに平民に支えられているかがわかっていないからだ。」
国王陛下の言葉に王妃が言い足した。
「毎日食べている食事の一つひとつの材料、それは平民が作っているのよ?
今着ている服も、生地になる前の材料は平民が作っているのよ?
このお城も、照明も家具も食器も何もかも、平民が作っているのよ?
化粧品や石鹸もね。
あなたたちが今その姿でいられるのは、平民がいてこそなのよ?
平民と関わるのが嫌なら、服や靴を脱ぎなさい。食事も食べれないわね?
平民がいてこそ、国が成り立つのです。感謝すべきなのですよ。」
王妃の言葉に、側妃と第一王子、カサンドラの3人は、自分たちの顔や体を触り、服を触った。
3人揃って真っ青になったかと思うと、突如、肌の見えている部分にブワッと蕁麻疹が現れた。
体の中も外も平民でつくられているように思えて拒絶反応をおこしたのだ。
今にも倒れそうな3人は退場させられ、何事もなかったかのように第二王子を王太子として祝う夜会になった。
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