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しおりを挟む「では、婚約式は予定通りってことで。その後、都度対応を考えていこう。」
王太子殿下の言葉を最後に退席しようとジークのエスコートで立ち上がったが、思い出したことがあり、
マリエルはまた座った。
「思い出しましたわ。アダム様に現在付かれている侍従や侍女あるいは乳母の方は適任でしょうか?
夢のアダム様がリリーと不仲になるのはまだ先ですが、婚約後のリリーがアダム様とお会いした時の
話の内容やマナーが引っかかり、甘やかされすぎているのではないかと思った記憶があります。」
「なるほど。早急に確認しよう。……他にも何かないか?」
「少し先のことですが、勉強を教えて下さる先生方の中にも悪意を感じるような記憶があります。
あからさまにリリーを褒めて持ち上げて、アダム様の間違いを覚えが悪いと貶すことが…」
「わかった。すまないが、思い出せる教師の名前を纏めておいてくれないか?精査が必要だな。」
「かしこまりました。婚約式にお持ちします。」
応接室から出たマリエルとジークは、王城の出口に向かって無言で歩いていた。
思った以上に重い話が頭と肩に乗っかっている気分だった。
「疲れただろう?やっぱり付き添って帰ろうか?」
ジークはこのまま仕事に行く予定だったが、マリエルが心配だった。
「大丈夫よ。馬車ですぐじゃない。お仕事頑張ってきて。」
既に準備がされていた公爵家の馬車に乗り込み、ジークと別れて帰宅した。
部屋着に着替え、子供たちと昼食を取り、王太子殿下と約束した教師の名前を書きだそうとしたが、
ふと、王城の書庫にある伝記には夢の出来事が記されていると聞いたことを思い出した。
ならば、たとえ未来を変えようと夢の出来事は詳細に残しておく必要があるはずだ。
ということは、始まりの婚約式の場面から最後まで事細かに書き出してしまおう。
そうすれば教師の名前も自ずと出てくる。
……傲慢な王子が出てくる夢の伝記の取り扱いがどうなるかは私の知ったことではないのだ。
リリーベルの心と体の健やかな成長と幸せ……絶対に守ってみせる!!
…改めて思い出しながら書き始めたが…
「婚約から学園入学前までを書いてみたけど、王子の周りの人達、やっぱりおかしいわ。
王子とリリーを不仲にさせて、婚約解消させたいのかしら?
その場合、リリーに代わる新たな婚約者を用意できる貴族が裏にいるってこと?
侍従や教師は、その人物に指示されてる?…う~ん…
頭が悪い王子を傀儡の王にして、自分が牛耳る??
でもそれだと、既に王太子殿下の身近にいないと無理よね。
…一番身近にいるのがジークなのよね。
今、国王陛下の身近にいる宰相や大臣の令息が王太子殿下の身近にいるって人はいるのかしら?」
と思い付いたこともついでに書き出していると、笑い声が聞こえて頭にキスされた。
「探偵みたいだね。疲れていないようでよかった。夕食の時間だよ。」
「びっくりしたわ。お帰りなさい。
…小説の読み過ぎかしら?頭の中でいろんな陰謀説がグルグルしてるわ。」
廊下を歩きながら恥ずかしくなったが、
「いや、いろんな視点から考えるのは無駄じゃない。
調べた先のいずれかが真実に繋がる可能性はあるんだから。
…『傀儡の王』案以外にもあるのかい?」
小声で聞かれたので、小声で答えた。…確かにヤバい内容だわ…
「そおねぇ。あとは『リアナ女王』案とか『リリーが欲しい』案とか。」
「うわっ!どれもくだらないって一蹴出来ない案だな。内容に想像はつくが、寝る前に聞こう。」
既に着席していた子供たちと楽しく会話をしながら夕食を食べる。
ジークは朝か晩、なるべく家族と食事をしながら子供たちの話を聞く。
テーブルマナーをマスターし終えた子供たちは会話しながらでも下品さを感じない。…さすが公爵家。
一日の出来事、学んだことや遊んだことを楽しそうに話す姿は、本当に愛おしい。
おやすみの挨拶を済ませ、子供たちと別れて部屋に戻った。
風呂に入り寝室へ行くと、ジークが先程書いた夢の内容を読んでいた。
「これを読むと、確かに王子の周りは怪しいな。
これをうまく対処することで、二人の仲はある程度まで良い方向に進展できるんじゃないか?」
「そうよね。入学前までに相思相愛になるのが理想だわ。
令嬢に見向きもしなければ、私達のように問題なく学園生活を楽しんで卒業出来るわ。
…そういえば、ルナの夢の令嬢は誰だったのかしら…私達は会ってるはずよね?」
「…誰だ?さっぱり思い当たらない…」
「今更だけど、ちょっと興味があるわ。幸せに暮らしててほしいわね。」
「さて、さっきの『リアナ女王』と『リリーが欲しい』案のことだけど、説明してくれる?」
「『リアナ女王』案は、アダム王子のダメっぷりを知らしめて王太子にならないようにするの。
そして、隣国の王太子と婚約しているリアナ王女が婚約解消して女王になるためには、王国内で
王配を探すことになるでしょ?自分の息子とか甥とか?
王女の相手なら、5歳くらい上までの令息が候補に挙げられてもおかしくないし…
『リリーが欲しい』案は、そのままよ。
あの子の可愛さにメロメロになったどこかの誰かが、王子との婚約解消を狙ってるの。
息子の嫁にしたい!ってね。どこかの誰か本人ってこともあるけど、考えたくもないわね。」
「なるほどね。どの案も荒唐無稽とは言い難い説得力がありそうだ。
さっきの『傀儡の王』案と一緒に纏めておいてほしい。
さあ、そろそろ寝よう。おいで。」
そう言って手を伸ばしてくるジークの腕に囲まれて、眠りについた。
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