25 / 30
25.
しおりを挟むレティシアは実家から連れて来ていた侍女ジュリと共にリオンのいるトレッド伯爵領へと向かった。
トレッド伯爵領までは王都から四日かかる。
二日目の宿でジュリが体調を崩した。
「レティシア様、申し訳ございません。」
「いいのよ。顔色が悪いわ。熱はなさそうね。」
だけど、眩暈と吐き気がある。
同じ物を食べてきたので、食あたりでもない。
「……ジュリ、お付き合いしている方がいるの?」
ジュリはレティシアの五歳上で独身。
男爵家の二女で結婚するつもりはないとレティシアに仕えてくれていたけれど……
「えっ……そんな、まさかっ……」
ジュリは下腹部に手をあてて、自分が妊娠している可能性に気づいたらしい。
そういう反応をするということは、身に覚えがあるということ。
「アーノン侯爵家で働いている方?」
「はい。申し訳ございません。」
「私に謝る必要なんてないわ。医師に診てもらいましょう。」
レティシアは宿の者に医師の手配を頼んだ。
ジュリは妊娠三か月であることがわかった。
「ジュリはここで休んでいて。私一人でリオンのところに向かうわ。」
一人といっても、本当に一人ではない。
ジョエル様は馬車も御者も騎士も手配してくれていた。
「そんなっ、ダメです。誰か代わりの侍女を呼んでください。」
ジュリはジョエル様から、レティシアとリオンを二人きりにしないように厳命されていた。
「ジョエル様をこれ以上、頼ることなんてできないわ。」
大丈夫。
リオンに絆される気はないし、万が一、襲われるようなことになっても妊娠することもない体だし。
心を伴わず、体だけ手に入れても、リオンが満足するのは最初だけ。
そう思い、ジュリの懇願を振り切って出発しようとした。
が、……
「土砂崩れ?」
「はい。今日辿り着く宿から先の道ですが、長雨による土砂崩れで道が塞がっています。なので、その町も先に進めない人で溢れていて、今から向かっても宿に泊まれません。」
「ここで足止めってこと?」
「はい。そうなります。」
なんだか気が抜けた。
リオンの元に行ってはいけないと足止めされたようにも感じた。
それから二日経っても雨が降り続いていて、道は復旧していないらしい。
一度王都に戻って仕切り直すべきかとも考えたが、ジュリはまだ具合が悪いので戻るに戻れない。
どうしようかと悩んでいた。
「役立たずな侍女で申し訳ございません。」
「そんなことないわ。ジュリの具合が悪くならなかったら、町で泊まる宿がなくて引き返すことになっていたのだもの。馬車の中で眠るしかなかったでしょうね。」
馬を換えて夜中に馬車を走らせることになっていたか、雨で道がぬかるんで身動きが取れなくなっていたか。どちらにせよ、馬も御者も騎士も大変なことになっていた。
「そう考えることもできますね。」
ジュリは納得したように頷いた。
「あの、レティシア様。私、気になっていたのですが、月のものが遅れていますよね?」
「そうだけど……離婚を決めた精神的なものだと思うわ。」
だって、私は妊娠することはないから。ジュリには言ってない。
「ですが、もし妊娠していたら離婚する必要なくなるじゃないですか。」
万が一にもないと思うけれど、妊娠していたとしても、もう離婚届にサインはした。
ジョエル様も離婚に同意してくれた。
もう夫婦には戻れない。戻ってはいけない。
しかし、ジュリの様子を診に来た医師にジュリがレティシアも診てほしいと頼み、診察してもらった結果、妊娠二か月だろうと言われた。
どうして?
883
あなたにおすすめの小説
皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》
私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか
れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。
婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。
両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。
バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。
*今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m
【完結】どうか私を思い出さないで
miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。
一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。
ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。
コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。
「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」
それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。
「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた
玉菜きゃべつ
恋愛
確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。
なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる