裏切る前提の結婚は、心が痛かった

しゃーりん

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レティシアは実家から連れて来ていた侍女ジュリと共にリオンのいるトレッド伯爵領へと向かった。

トレッド伯爵領までは王都から四日かかる。 

二日目の宿でジュリが体調を崩した。


「レティシア様、申し訳ございません。」

「いいのよ。顔色が悪いわ。熱はなさそうね。」
 

だけど、眩暈と吐き気がある。
同じ物を食べてきたので、食あたりでもない。


「……ジュリ、お付き合いしている方がいるの?」


ジュリはレティシアの五歳上で独身。
男爵家の二女で結婚するつもりはないとレティシアに仕えてくれていたけれど……
 

「えっ……そんな、まさかっ……」


ジュリは下腹部に手をあてて、自分が妊娠している可能性に気づいたらしい。
そういう反応をするということは、身に覚えがあるということ。


「アーノン侯爵家で働いている方?」
 
「はい。申し訳ございません。」

「私に謝る必要なんてないわ。医師に診てもらいましょう。」 


レティシアは宿の者に医師の手配を頼んだ。

ジュリは妊娠三か月であることがわかった。 


「ジュリはここで休んでいて。私一人でリオンのところに向かうわ。」


一人といっても、本当に一人ではない。
ジョエル様は馬車も御者も騎士も手配してくれていた。


「そんなっ、ダメです。誰か代わりの侍女を呼んでください。」


ジュリはジョエル様から、レティシアとリオンを二人きりにしないように厳命されていた。
 

「ジョエル様をこれ以上、頼ることなんてできないわ。」
 

大丈夫。
リオンに絆される気はないし、万が一、襲われるようなことになっても妊娠することもない体だし。

心を伴わず、体だけ手に入れても、リオンが満足するのは最初だけ。

そう思い、ジュリの懇願を振り切って出発しようとした。

が、…… 
 

「土砂崩れ?」

「はい。今日辿り着く宿から先の道ですが、長雨による土砂崩れで道が塞がっています。なので、その町も先に進めない人で溢れていて、今から向かっても宿に泊まれません。」

「ここで足止めってこと?」

「はい。そうなります。」
 

なんだか気が抜けた。
リオンの元に行ってはいけないと足止めされたようにも感じた。
 

それから二日経っても雨が降り続いていて、道は復旧していないらしい。
 
一度王都に戻って仕切り直すべきかとも考えたが、ジュリはまだ具合が悪いので戻るに戻れない。

どうしようかと悩んでいた。

 

「役立たずな侍女で申し訳ございません。」

「そんなことないわ。ジュリの具合が悪くならなかったら、町で泊まる宿がなくて引き返すことになっていたのだもの。馬車の中で眠るしかなかったでしょうね。」


馬を換えて夜中に馬車を走らせることになっていたか、雨で道がぬかるんで身動きが取れなくなっていたか。どちらにせよ、馬も御者も騎士も大変なことになっていた。


「そう考えることもできますね。」


ジュリは納得したように頷いた。


「あの、レティシア様。私、気になっていたのですが、月のものが遅れていますよね?」

「そうだけど……離婚を決めた精神的なものだと思うわ。」


だって、私は妊娠することはないから。ジュリには言ってない。


「ですが、もし妊娠していたら離婚する必要なくなるじゃないですか。」


万が一にもないと思うけれど、妊娠していたとしても、もう離婚届にサインはした。
ジョエル様も離婚に同意してくれた。

もう夫婦には戻れない。戻ってはいけない。


しかし、ジュリの様子を診に来た医師にジュリがレティシアも診てほしいと頼み、診察してもらった結果、妊娠二か月だろうと言われた。


どうして?
 


 
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