裏切る前提の結婚は、心が痛かった

しゃーりん

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レティシアは自分が妊娠していることが信じられなかった。

リオンに渡された薬を確かに飲んだ。

三年間、毎月毎月絶望を味わい、自分のしたことを悔やんできた。

それなのに、離婚を決めた途端、妊娠がわかるなんて。

これはジョエル様を裏切り続けた報いなのだと思った。 
別れを決めたのだから、一人産んで育てろと言われている気がした。
 
どこに住んでこの子を育てようか。
実家の領地?
それとも、平民として?

ジョエル様に引き取ってもらった方がいい?

レティシアは不安を覚えながら、土砂降りの雨を眺めていた。
 



翌朝には雨も上がり、ジュリが元気な様子で言った。

 
「さあ!王都に戻りましょう、レティシア様。」

「え……?具合は?」

「大丈夫です。レティシア様の産むお子様の乳母になれるなんて嬉しくって。」

「え……?乳母?」

「はいっ!ひと月違いなのですからっ!」

 
ひょっとして、ジュリは私とジョエル様がよりを戻すと思ってる?

そうしたい。

だけど、そうできない。

リオンに言われた、三年での離婚は守るべきだと思っているから。


ジュリにどう説明すればいいのか、わからない。

荷物をどんどん纏めて、騎士や御者にも出発の指示を出して、え、本当に王都に戻る?


レティシアが混乱していると、ジュリが慌てて部屋に戻って来た。


「リオン様に見つかりました!部屋から出ないでください。」

「え……?リオンがここに?」
 

もう、わけがわからない。


しかし、扉がノックされて、聞こえてきたのは確かにリオンの声だった。


「レティシア?いるんだろう?まさか、ここで会えるなんて。開けてくれ。」


ジュリは首を横に振っている。

しかし、元々リオンのところに行くはずだったのだ。
手間が省けたと言える。

レティシアは覚悟を決めた。
 

ジュリが扉を開けると、リオンは抱き着くような勢いでレティシアのところに来た。
ソファに座っていたので抱き着かれることはなかったが。


「レティシア、僕のところに来るつもりだったんだろう?離婚したんだな。よかった。アイツがゴネるんじゃないかと思って迎えに行くところだったんだ。」


リオンは領地から王都に向かっているところだったらしい。
昨晩は同じ宿に泊まっていたようで、気づかれなくてよかった。


「土砂崩れは?」

「あぁ、一昨日解除されたよ。そうか。ここで足止めされていたんだな。行き違いにならなくてよかった。」 

 
確かに。
トレッド伯爵領に着いても本人がいなければ待たなければならなかった。


「ひとまず王都に行って、結婚の手続きをしようっ!あ、三か月は再婚できないのか。じゃあ、領地の方に……」

「リオン、私はあなたと一緒になれないわ。そう言いに行こうとしていたの。」

 
リオンが勝手に話を進めようとするので、レティシアは言葉を遮った。


「一緒になれない?どういうことだ?まさか、ジョエルに絆されたか?」

「私は、あなたと一緒になると言った覚えはないわ。」


リオンが一人で勝手に決めたこと。


「どういうことだ?君はルチアの姉として、僕に責任をとる必要があるだろう?」

「そうかしら。あれはあなたの過失でもあるわ。侍女を部屋から出したのはあなたなんだから。
姉なのだからあなたに責任をとらなければならないというのはおかしいと思うの。」


リオンは『ハルシネ』という幻覚剤のことを知らない。
酔った自分が追い出したと思っていることをレティシアは利用して、リオンの過失だと指摘した。


「何を今更。……僕は君と結婚して子供を作って育てる希望を失ったんだぞ?」

「貴族の結婚よ。私は納得していたの。」
 

そう。  
納得していたのに、リオンが自分の子種を殺したと言ったから絶望感に苛まれて、避妊薬を飲むような愚かなことをしてしまった。
 


 
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