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しおりを挟むリオンが部屋から出て行き、ジョエル様にちゃんと謝罪を、と思っていたところにジュリが言った。
「旦那様、失礼ですが、その身なりでレティシア様に触れられるのはちょっと……」
そうね。
ジョエル様は泥だらけだったわ。
雨に濡れながらも二日の道を一日で駆けてきたのではないかしら。
「ジョエル様、お体が冷えています。湯浴みを。」
「そうだな。すまない、汚してしまった。」
「着替えがあるので大丈夫です。」
ここにもう一泊かしら。
ジョエル様は眠っていないようだから。
温かい食事と飲み物の手配を頼み、着替えを済ませた。
憂い事のなくなったレティシアの心は明るくなっていた。
もう、ジョエル様に隠し事はしない。
悪い方向にばかり考えていたけれど、ジョエル様はまだ私を愛してくれているとわかったから。
湯浴みを終えたジョエル様は少し眠そうだった。
「食事をとられてから少し休んでください。」
「ああ。君も一緒に。」
「私も?」
「君を抱きしめた方がよく眠れる。」
レティシアもそうだった。
ジョエル様の温もりがなかったこの旅は、それだけで心を暗くしていたように思う。
「ジョエル様、愛しています。離婚したくありません。」
謝罪をしなければならないし、話さなければならないことは他にもあるが、これが一番重要で真っ先に言いたいことだった。
ジョエル様は驚いた後に笑顔になった。
「私も愛しているよ。離婚しても君を諦めないつもりだった。」
「え……?」
この話はまた後で、と食事をパクパクと平らげたジョエル様はレティシアを抱き込んですぐに眠ってしまった。
レティシアも、温かい腕の中で眠りについた。
王都に戻る馬車の中で、ジョエル様が言った。
「レティシアは何が何でも三年で離婚しなければと頑なだったから、一度離婚してまた再婚しようと思っていたんだ。」
ジョエル様が離婚届にサインしたのは、レティシアにはそれが必要なことだと感じたからだという。
「リオンとの話し合いで決着がついて戻ってきたら、もう一度説得しようと思っていたし。まだ侯爵夫人という立場にある状態の君をリオンが領地に止めることなどできないし?」
同行の騎士たちにも、レティシアが戻って来ない場合は『アーノン侯爵夫人を監禁している疑い』として乗り込む指示を出していたらしい。
レティシアはとことんジョエル様に護られていたのだ。
「本当に、ごめんなさい。婚約前から裏切るようなことをしてしまいました。」
「リオンが悪いんだ。自分が子種を絶ったと嘘をついて君にも妊娠しないよう強いたのだから。罪悪感や償い、真面目な君を追い詰めた。
ルチアの姉としての責任、伯爵家のこと。全て君に圧し掛かるような婚約を強いた私も悪いんだ。」
ジョエル様は他にもいろいろなことを隠していたと謝罪した。
ルチアが亡くなった経緯を知っていて教えなかったことや、勝手に部屋を漁って避妊薬がないか捜したこと、他にもレティシアを見続けるリオンにレティシアとの体の相性がよくて毎晩のように愛し合っていると伝え、イライラしたリオンが性欲を発散させようと女性を誘うように仕向けたりしていたと言った。
まさか、リオンが夜会で女性と休憩室に消えていたのがジョエル様のせいだとは思っていなかった。
「領地で彼が囲っていた女性、そのことは?」
ジョエル様が仕掛けた?
「あぁ、それは初めから仕組んではいないよ。でも途中から使用人を買収して報告はさせていた。
妊娠したのは彼女の意思だし、強要はしていない。ただ、安定期までリオンに気づかれるなとは助言させたけどね。」
リオンは女性が妊娠六か月になるまで気づかなかったらしい。
『男の子を産むわ』と言った女性に、リオンは何も言えなくなったとか。
産まれた男の子が庶子のままでは可哀想なので、その女性と結婚してルネットと四人で家族になってほしいとレティシアは思った。
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