裏切る前提の結婚は、心が痛かった

しゃーりん

文字の大きさ
29 / 30

29.

 
 
リオンが部屋から出て行き、ジョエル様にちゃんと謝罪を、と思っていたところにジュリが言った。
 

「旦那様、失礼ですが、その身なりでレティシア様に触れられるのはちょっと……」

 
そうね。
ジョエル様は泥だらけだったわ。
雨に濡れながらも二日の道を一日で駆けてきたのではないかしら。


「ジョエル様、お体が冷えています。湯浴みを。」

「そうだな。すまない、汚してしまった。」

「着替えがあるので大丈夫です。」 


ここにもう一泊かしら。
ジョエル様は眠っていないようだから。
 
温かい食事と飲み物の手配を頼み、着替えを済ませた。


憂い事のなくなったレティシアの心は明るくなっていた。

もう、ジョエル様に隠し事はしない。

悪い方向にばかり考えていたけれど、ジョエル様はまだ私を愛してくれているとわかったから。 



湯浴みを終えたジョエル様は少し眠そうだった。


「食事をとられてから少し休んでください。」

「ああ。君も一緒に。」

「私も?」

「君を抱きしめた方がよく眠れる。」


レティシアもそうだった。
ジョエル様の温もりがなかったこの旅は、それだけで心を暗くしていたように思う。


「ジョエル様、愛しています。離婚したくありません。」


謝罪をしなければならないし、話さなければならないことは他にもあるが、これが一番重要で真っ先に言いたいことだった。

ジョエル様は驚いた後に笑顔になった。


「私も愛しているよ。離婚しても君を諦めないつもりだった。」

「え……?」


この話はまた後で、と食事をパクパクと平らげたジョエル様はレティシアを抱き込んですぐに眠ってしまった。 

レティシアも、温かい腕の中で眠りについた。
 

 

王都に戻る馬車の中で、ジョエル様が言った。


「レティシアは何が何でも三年で離婚しなければと頑なだったから、一度離婚してまた再婚しようと思っていたんだ。」
 

ジョエル様が離婚届にサインしたのは、レティシアにはそれが必要なことだと感じたからだという。


「リオンとの話し合いで決着がついて戻ってきたら、もう一度説得しようと思っていたし。まだ侯爵夫人という立場にある状態の君をリオンが領地に止めることなどできないし?」

 
同行の騎士たちにも、レティシアが戻って来ない場合は『アーノン侯爵夫人を監禁している疑い』として乗り込む指示を出していたらしい。

レティシアはとことんジョエル様に護られていたのだ。


「本当に、ごめんなさい。婚約前から裏切るようなことをしてしまいました。」

「リオンが悪いんだ。自分が子種を絶ったと嘘をついて君にも妊娠しないよう強いたのだから。罪悪感や償い、真面目な君を追い詰めた。
ルチアの姉としての責任、伯爵家のこと。全て君に圧し掛かるような婚約を強いた私も悪いんだ。」


ジョエル様は他にもいろいろなことを隠していたと謝罪した。

ルチアが亡くなった経緯を知っていて教えなかったことや、勝手に部屋を漁って避妊薬がないか捜したこと、他にもレティシアを見続けるリオンにレティシアとの体の相性がよくて毎晩のように愛し合っていると伝え、イライラしたリオンが性欲を発散させようと女性を誘うように仕向けたりしていたと言った。 

まさか、リオンが夜会で女性と休憩室に消えていたのがジョエル様のせいだとは思っていなかった。

 
「領地で彼が囲っていた女性、そのことは?」


ジョエル様が仕掛けた?


「あぁ、それは初めから仕組んではいないよ。でも途中から使用人を買収して報告はさせていた。
妊娠したのは彼女の意思だし、強要はしていない。ただ、安定期までリオンに気づかれるなとは助言させたけどね。」

 
リオンは女性が妊娠六か月になるまで気づかなかったらしい。

『男の子を産むわ』と言った女性に、リオンは何も言えなくなったとか。
  
産まれた男の子が庶子のままでは可哀想なので、その女性と結婚してルネットと四人で家族になってほしいとレティシアは思った。


 
 

あなたにおすすめの小説

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

学生のうちは自由恋愛を楽しもうと彼は言った

mios
恋愛
学園を卒業したらすぐに、私は婚約者と結婚することになる。 学生の間にすることはたくさんありますのに、あろうことか、自由恋愛を楽しみたい? 良いですわ。学生のうち、と仰らなくても、今後ずっと自由にして下さって良いのですわよ。 9話で完結

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】どうか私を思い出さないで

miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。 一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。 ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。 コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。 「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」 それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。 「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」

【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド