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アマーリエとスコッティ伯爵が去った後、セオドアとフィオナの婚約披露パーティーは何事もなかったかのように行われ、二人は招待客から祝福を受けた。
二人の婚約は公表していなかっただけでとっくに結ばれていたらしい。
そのことを知らなかったアマーリエは、セオドアとフィオナがこの場で婚約の署名をするものだと思い、止めに来たのだ。
招待客たちも、もう婚約は結ばれた後なのだと気づき、アマーリエ・スコッティは自ら一人喜劇を演じて貴族社会から去ることになったのだとわかった。
ドリステル侯爵もマーティン公爵も、強引にアマーリエをこの場から追い出すことは可能だった。
しかし、それをせず、彼女の道化っぷりを見届けた。
温情と見せかけて、一人の令嬢を貴族社会から追いやったのだ。
それは、もうこの二人の邪魔をする者は許さないと言っているようなものだった。
招待客たちは主役の二人を見る。
寄り添い、顔を見合わせて微笑み合い、今にも口づけをしそうな甘い空気が二人には漂っている。
どう見ても相思相愛で、昨日今日の関係ではない。
しかもこれは、わざと自分たちに見せて牽制しているのだと招待客たちは理解した。
ドリステル侯爵とマーティン公爵ならば、一人の伯爵夫人、一人の令嬢をもっと早く排除することもできただろう。
しかし、彼女たちを放っておいたのは、アマーリエという障害があった方がセオドアとフィオナの仲がより強固で深い絆で結ばれるからではないだろうか。
それともう一つ。
特にマーティン公爵は愛妻家で、子供も5人いる。
彼にしてみれば、フィオナの婚約を揺るがそうとする者や結婚後のセオドアを誘惑する者などいてはならない。
セオドアが揺れればフィオナが不幸になるからだ。
病弱を装い近づいて来る者も、都合よく思い込んで勘違いする者も、愛人を狙おうとする者も許さない。
それでも近づいて来る者は、アマーリエのようになるのだと。
アマーリエは見せしめだったのだ。
だから、彼女たちの排除は今日だった。
スコッティ伯爵は、妻と娘を切り捨てて難を逃れた。
情に流されてはならない。
判断を誤れば、家門ごと潰されることになる。
そのことも、万が一の参考例として示していたのだ。
静かな圧力が、やはり一番恐ろしかった。
修羅場になるかと面白がって見ていた婚約披露パーティーは、招待客の中にも身につまされる者や焦燥感に駆られる者がいたことだろう。
その者たちは、今後の身の振り方を考えるいいきっかけになったのではないだろうか。
それも狙いの一つだったのだろう。
いろんな思惑が込められていた婚約披露パーティーだった。
何はともあれ、幸せそうなカップルが一組誕生した。
二人の愛が生涯続くことを願って、招待客たちは祝福の言葉と拍手を贈った。
<終わり>
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