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しおりを挟む侯爵夫人は、離婚しても実家の公爵領の片隅の家でおとなしく過ごすことが条件と兄の公爵に言われて、離婚することを踏みとどまった。
つまり、セピアから提示された金額で過ごすことを余儀なくされた。
それに、既に着ていないドレスは邪魔であると百着ほど売られてしまった。
生地が良いものばかりなので、デザインを変えて再利用して売るドレスメーカーが買い取ってくれて、標準的な身長とサイズの婦人のドレスは貸衣装にもできると喜ばれた。
自分のドレスが下位貴族令嬢のものになる。
夫人にとっては屈辱的であったが、セピアが言った一言で気分が良くなった。
「慈善事業だと思えばいいのです。下位貴族や平民の役に立つのですから。
それに、タダであげたんじゃなくて売ったのです。これも今では恥ずかしいことではありません。
売ったお金で新しいドレスが買えるのですよ?
高級品なら1枚、品位を保てるものであるなら2~3枚は買えます。」
また華やかなドレスを買えると喜んだ直後、夫人は落ち込んだ気分にさせられた。
「夫人は高級品に拘っておいででしたが、せっかくの生地をゴテゴテと飾りつけては無意味です。
しかも、若い令嬢向けの色やデザインがいつまでも似合うとお思いですか?
同年代の夫人方のドレスを思い出してください。落ち着いて品のあるものばかりです。
結婚相手を探しているのではないのですから、目立つ必要はありません。
おそらく周りの方々は痛々しく思っておられたでしょう。
公爵令嬢であった時間よりも侯爵家に嫁いだ時間の方が長いのですよ?
いつまでも過去にしがみつきすぎです。
令嬢ではなく夫人。しかも今は財政難の侯爵夫人です。
私が言いたいことが分かりますか?」
「……高級なドレスは必要ない?」
「その通りです。
それに、夫人がご贔屓にされているドレスメーカーは今は落ち目です。
ここ数年、夫人はぼったくられていたと言ってもいいです。」
「ぼ、ぼったくられて?」
「ええ。生地は良いものです。大量に仕入れていたのでしょう。
ですが、流行りのものではありません。ベーシックな生地なので問題があるわけではないですが。
売れ残りをお得意様の夫人にふんだんに使って料金を嵩増しして、侯爵家の財政を圧迫。
おわかりいただけましたか?」
「……今ドレスが買えないのは自業自得なのね。」
「今度、私のドレスを頼んでいるデザイナーの方にお願いしてみませんか?
最初は全部お任せでその人に似合うと思われるものをデザインして下さいます。
何度かデザインをお願いすると、意見も取り入れてくれます。
似合わなければバッサリと却下されますが。
本来、デザイナーとはそうあるべきだと思います。違いますか?」
「……そうね。自分の好みが似合うとは限らないのよね。
高いものが良いものとも限らない。そういうことよね。
わかったわ。お願いするわ。」
侯爵夫人は40歳を過ぎて、ようやく人の意見に耳を傾けることができるようになってきた。
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