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しおりを挟むダイアナは、ダニエルに何を聞きたかったのかを話した。
「ご存知の通り、わたくし、記憶を失ってしまって、誰のこともわからずにおりました。自分のことも家族のことも、婚約者やクラスメイトのことも。
そんな中、”ダニエル・ストーンズ”という、あなたのお名前だけ、記憶にあると気づきました。
もしかして、わたくしが記憶を失う前に、ストーンズ様と何かございましたでしょうか?」
何か手掛かりがあれば、とダイアナは祈るような気持ちでいた。
「僕の名前だけ?それは……すまないが、何も心当たりはない。僕は特に令嬢とは最低限の言葉しか交わさないよう心掛けているし、あなたは常に忙しそうだったから。」
「そう、ですか。」
記憶を取り戻す手掛かりがなくなり、残念に思った。
「あなたが僕に気がある様子もなかった。視線を感じたことはなかったから。」
「視線、ですか?」
「ああ。僕に意識を向けていると感じる視線はなかった。最近は感じていたから、素っ気なくして悪かった。」
ダニエルは人の視線に敏感らしい。
そのダニエルがダイアナの視線は感じていなかったというのだから、以前のダイアナが彼を密かに思っていたから名前が記憶に残っていたという線もなさそうだった。
そしてもちろん、徹底して令嬢を避けていたダニエルに、ダイアナが告白されたという線もない。
となれば、いつも彼が試験で1番だったからというあまり意味のない理由で彼の名前が記憶に残っていた線しかなくなってしまった。
「記憶を失う前に、最後に考えていたこと、悩んでいたことは何だったんだ?でもまぁ、それに僕の名前が挙がるのもあり得ないことだと思うが。」
最後に考えていたこと、悩んでいたこと。
「思わず何だったかしらと考えてしまいましたが、そこはもう、記憶にない範囲ですから。」
「そう言えばそうだった。何を聞いているんだよな、僕は。」
医者も、こうした会話でふと思い出すことがあると言っていたが、ダイアナはまた思い出せなかった。
「一度だけ、あなたに声をかけたことがある。一年の最初の試験に1番だったあなたが、次の試験から明らかに1番にならないように手抜きをし始めたから。
『本気でやらないのは侮辱だ』と怒りをぶつけてしまった。理由があると思い至るのが遅かった。」
「理由ですか?」
「王太子殿下を差し置いて婚約者が1番になるな、とか言われたんじゃないか?想像だけど。」
「そういえば、殿下のお名前はございませんでしたね。10番までに。」
父はジルベールを馬鹿だと言っていたから、成績はよくないのだと思った。
「いつもないよ。自分よりいい成績を取るな、とかならあなたは困っていただろうな。」
ダニエルはそう言って、少し笑った。
それほどジルベールの成績は悪いのだろう。
以前のダイアナは1番を取らなければいいのだと思い、2番になるように調節していたらしい。
その記憶がない今のダイアナは、ダニエルと並んで1番の成績を取ってしまった。
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