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しおりを挟むダニエルがケイトリンとの婚約解消を決めてから十日ほど経ち、ダイアナは彼らが婚約破棄したことを父から教えられた。
「婚約解消ではなく、婚約破棄ですの!?」
どうしてそうなったのか、学園でダニエルに聞こうと思っていると、父から今日ダニエルが屋敷に来ると言われた。
「求婚しに来るらしいが、ダイアナには事前に宣言しているんだろう?」
ダイアナは両親に図書館でのダニエルとのやり取りを離さなかったのに知っているらしい。
「お父様はどう思ってらっしゃる?」
「ダニエルとの婚約か?私はお前の意思に任せようと思っているよ。」
「わたくしの意思に?」
「ああ。ストーンズ侯爵家に対し、お前を嫁がせたくないという要素はない。侯爵は誠実な方だし、ダニエルも真面目な男だ。領地経営に問題もない。だから、お前が決めればいい。」
「”今”のわたくしが決めていいのですか?」
「ダイアナはダイアナだよ。17歳までのダイアナも、この10か月のダイアナも。記憶はいつ戻るかわからないし、ずっと戻らないかもしれないんだ。
ジルベール殿下との婚約が解消されたことで王太子妃になるという道も既に閉ざされている。以前の記憶が戻ったとしても未来は変わっているんだ。
新しい婚約者ができることも、結婚しない選択をすることも、今のお前の気持ちに従えばいい。」
確かにもう、ダイアナの将来は以前と大きく変わってしまっている。
元に戻すこともできない。
そして、今のダイアナが築いてきたものを、いつか記憶を取り戻すかもしれないダイアナは受け入れてくれる気がする。
「わかりましたわ。」
午後、ダニエルは一人でやってきた。
ダニエルはダイアナの両親に挨拶をし、ダイアナと二人で話がしたいと許可を求めた。
「ゆっくり話せばいい。」
父はそう言った。
庭園も散策できるようにか、お茶はテラスに準備されていた。
「ポッシュ伯爵令嬢との婚約は破棄になったよ。」
ダニエルはダイアナが聞きたいことを先に教えてくれた。
「彼女に好きな人がいることは知っていたんだ。だが、そういう理由で政略結婚をなかったことにする貴族家は少ないだろう?だから、僕も学生の間は彼女の好きにすればいいと思っていたんだ。一応、最後の一線は超えていないようだったし。」
最後の一線、つまりケイトリンは純潔は守っていたらしい。
純潔でなければ、とっくに婚約は破棄されていただろう。
破棄となれば、ケイトリンの立場が悪くなってしまうし、慰謝料も払わなければならないため、伯爵は激怒していたはず。
「結婚して子供を産んで、義務を果たしてくれれば、好きにすればいいと思っていた。好きな男を愛人にしたいのであれば、大っぴらにしない限り文句を言うつもりもなかった。
だが今回、彼女は僕たちを理由にして自分を被害者にしようとしただろう?それが両親の気に障った。」
ダニエルとダイアナは、二人きりになったことなどない。
対して、ケイトリンには男と二人きりだった証拠や証言がいくつもあるという。
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