39 / 42
39.
しおりを挟むダイアナは全ての記憶を取り戻した。
友人たちと過ごした楽しかった学園生活の日々のことを。
ダニエルを意識し始めたのが、彼に”待っていてほしい”と求婚の予約をされたことがきっかけだったことを。
「わたくし、確かに言動はあまり変わっていませんでしたわね。」
何か奇抜なことを仕出かしていたということはなかった。
むしろ、誰も覚えていなかったからか、冷静になれていたかもしれない。
王城で執務をしなくて済むようになったことも、学生会役員でもないのに仕事に追われていたことも、今のダイアナなら周りの迷惑を考えてバッサリ切るようなことはできないが、記憶のないダイアナはジルベールにいい印象がなかったため、自分でしろと言えた。
記憶のない自分に拍手を送りたいと思うほど。
自己犠牲のつもりはなかったが、かつてのダイアナは自分と家族を蔑ろにしていたと今ではわかっていた。
「え?戻ったのか?全部?それは、暗示として成功していると言えるのだろうか。」
父は首を傾げている。
ダイアナが一年間、記憶が戻らない状態であったことは間違いない。
その間は成功していると言えるだろう。
後で戻るのは失敗?
それとも、期間に関係なくいつかは暗示にかかっていた間のことを思い出すものなのかもしれない。
「ジルベールは、ミオナ・クラークスからあの香を手に入れたらしい。神経麻痺や麻酔効果のある薬草を練り込んだ香がより深く催眠状態を誘い、暗示がかかりやすくなるという。
ジルベール本人もミオナから使われているのではないかと思われたが、本人は正常だった。」
父は苦笑してそう言った。
ジルベールはミオナの虜になるような暗示はかけられていなかったらしい。本人の意思で、彼女に夢中になったことは間違いないということだ。
しかしそれも、今のダイアナの体形ならミオナを選ばなかったというような発言もあったことから、ミオナに対する思いも薄れている気がした。
「ジルベール様は王太子に戻って何をされたかったのかしら?まさか、側妃制度の復活?」
「それもあるかもな。自分は命令するだけで、エトワール殿下やお前が執務をすればいいと思っていたようだ。」
「国王陛下の暗示が切れたら、また地位を追われることになっていたでしょうに。」
ダイアナの暗示は一年と二か月で切れた。
もし、このことを知っていれば、ジルベールは国王陛下に暗示をかけることを躊躇ったかもしれない。
「ジルベールは、陛下には二十年間、自分に従うような暗示をかけるつもりだったらしい。」
「二十年間……大胆過ぎるわ。」
ダイアナにたった一年試しただけで、次の国王陛下には二十年にするつもりだったなんて。
それが可能なら、国が乱れてしまうことになる。
ミオナが手に入れた先を調べて、違法薬物として取り締まることになるはず。
1,563
あなたにおすすめの小説
「役立たず」と婚約破棄されたけれど、私の価値に気づいたのは国中であなた一人だけでしたね?
ゆっこ
恋愛
「――リリアーヌ、お前との婚約は今日限りで破棄する」
王城の謁見の間。高い天井に声が響いた。
そう告げたのは、私の婚約者である第二王子アレクシス殿下だった。
周囲の貴族たちがくすくすと笑うのが聞こえる。彼らは、殿下の隣に寄り添う美しい茶髪の令嬢――伯爵令嬢ミリアが勝ち誇ったように微笑んでいるのを見て、もうすべてを察していた。
「理由は……何でしょうか?」
私は静かに問う。
追放した私が求婚されたことを知り、急に焦り始めた元旦那様のお話
睡蓮
恋愛
クアン侯爵とレイナは婚約関係にあったが、公爵は自身の妹であるソフィアの事ばかりを気にかけ、レイナの事を放置していた。ある日の事、しきりにソフィアとレイナの事を比べる侯爵はレイナに対し「婚約破棄」を告げてしまう。これから先、誰もお前の事など愛する者はいないと断言する侯爵だったものの、その後レイナがある人物と再婚を果たしたという知らせを耳にする。その相手の名を聞いて、侯爵はその心の中を大いに焦られるのであった…。
心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました
er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?
【完結】捨てた女が高嶺の花になっていた〜『ジュエリーな君と甘い恋』の真実〜
ジュレヌク
恋愛
スファレライトは、婚約者を捨てた。
自分と結婚させる為に産み落とされた彼女は、全てにおいて彼より優秀だったからだ。
しかし、その後、彼女が、隣国の王太子妃になったと聞き、正に『高嶺の花』となってしまったのだと知る。
しかし、この物語の真相は、もっと別のところにあった。
それを彼が知ることは、一生ないだろう。
最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜
腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。
「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。
エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!
ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。
ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~
小説家になろうにも投稿しております。
旦那様から出て行ってほしいと言われたのでその通りにしたら、今になって後悔の手紙が届きました
睡蓮
恋愛
ドレッド第一王子と婚約者の関係にあったサテラ。しかし彼女はある日、ドレッドが自分の家出を望んでいる事を知ってしまう。サテラはそれを叶える形で、静かに屋敷を去って家出をしてしまう…。ドレッドは最初こそその状況に喜ぶのだったが、サテラの事を可愛がっていた国王の逆鱗に触れるところとなり、急いでサテラを呼び戻すべく行動するのであったが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる