駆け落ちの事実などありません。

しゃーりん

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13.

 
 
アリーシャは数日、イザークが泊まっていた宿で体を休めてから、王都に行くことになった。

ロベルトと過ごした家に取りに戻りたい物など何もなかった。

王都に向かう前日、アリーシャが宿の近くを歩いていると、声をかけられた。


「エリー?」


振り向くと、ララだった。


「ララさん。……子供が?」


ララは妊娠しているようだった。


「そうなの。離婚してから気づいちゃって。浮気した元夫はもうここにはいないし、困ってる。
なんか、エリー、痩せた?体調悪いの?あっ!……旦那の浮気のこと?」
 

ララまで知っているらしい。

 
「みんな知ってるのね。私、ここを出て行くわ。ララさんは元気な子を産んでね。」


アリーシャはララのお腹を見て涙ぐんでしまった。


「……まさか、エリー。妊娠してたとか?」

「もう、いなくなっちゃった。」

「あの男のせいだね。会ったら殴ってやるから。」


ロベルトを殴るというララに笑ってしまった。 

ララに別れを告げ、翌日、アリーシャはイザークと共に王都へと出発した。

 


イザークとの結婚は、まだ決めていなかった。

ただ、両親に会いたい。

会って謝りたい。

そう思っていた。



チェイス男爵領に向かっていた時とは違い、どの宿も貴族向けのところだった。

だんだんと自分が貴族令嬢に戻っていく。

そんな気分になっていった。 



”現実を見ろ”

いつか父に言われた言葉。

長い、長い夢。いや、悪夢はもう終わったのだ。

楽しかったと思ったあの日々は、まやかしだった。


駆け落ちをしたという事実など、なかったかのように。 




「アリーシャ!!」


馬車を降りたアリーシャを、母が抱きしめてきた。


「お母様、ごめんなさい。」


アリーシャは涙が溢れた。


「よく戻った。」


父も抱きしめてくれた。


「お父様、ごめんなさい。」

「いいんだよ。お前が元気なら。」
 

駆け落ちしてからの八か月間、ずっと見守ってくれていた。

もう限界だと連れ戻してくれた。

ロベルトの子を妊娠し流産したことは、両親には隠すことをイザークと決めた。
これ以上、悲しい思いをさせないために。 




「イザーク殿と結婚するということでいいんだよな?」  
 

屋敷に入り、応接間で父はそう聞いてきた。


「それはまだ……急すぎて。」


王都に戻ってくる馬車の中で、イザークとはいろんな話をした。
話は合うし、いい人だと思う。
一度、会ったこともあるらしいが、アリーシャは覚えておらず、イザークは内緒だと教えてくれなかった。

本当に、こんな傷物の自分でいいのか、疑問に思ってしまう。


「だが、アイツはいつかここに来るだろう。何を言い出すかわからないぞ?」


父はロベルトから身を隠すためにも、ここにはいない方がいいと言う。
イザークのところなら安心だ、とも。

どのみち、平民になったロベルトは社交界に顔を出せるわけではないため、アリーシャがイザークと結婚していても気づくはずもない。

しかし、アリーシャはもう結婚したのだという事実があった方がロベルトが何を言って来ようと妄想だと鼻で笑ってやれると父は言った。


「アリーシャ嬢、僕はあなたを裏切りません。大切にします。僕と結婚してください。」

「……はい。よろしくお願いいたします。」


アリーシャはイザークの求婚を、受けた。

改めて、自分は押しに弱いと思った。

 
 

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