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ラインハルト・ハンプトンが実母のことを知ったのは8歳の頃だった。

本が好きなラインハルトは、屋敷の中にある図書室でよく本を読んでいた。
興味があることをすぐに調べられるように、自室ではなくて図書室で読むようにしていたのだ。

奥のソファで本を読んでいた時、誰かが図書室に来たことには気づいた。
使用人かと思って気にしていなかった。

しばらくして、また入ってきた者が『旦那様』と呼びかけたことで、先に入っていたのは父親だったとわかった。

後から入ってきたのはセバスで、父の秘書というか侍従というか仕事関係以外のことを細々とやっている者だった。


「旦那様、ジョンが死亡しました。」

「ジョン?あぁ、カサンドラと逃げたあの男か。カサンドラは3年前だったか?
 愚かな奴らだったな。
 まったく、カサンドラは何が不満だったんだ?
 ラインハルトの時と同じように、数か月部屋に籠って妊婦のふりをするだけでよかったのに。
 たったそれだけが我慢できずに公爵夫人の座を捨てるなど何度考えてもわからん。」

「奥様はジョンを手元に置き始めてから変わられましたからね。
 自室でジョンと2人きりにはなれませんが、外ではエスコートで触れ合える。
 それを取り上げられると思い、思い切って逃げたのでしょうが。」

「まぁ、2人とも重い罰を受けるのは当然だ。
 そう言えば、前にラインハルトの実母は結婚したと言っていたな。
 シフォーヌの実母は結婚したのか?」

「いえ、彼女はあの後の1年後くらいに亡くなっております。」

「そうか。……ラインハルトの実母は幸せだろうか。」

「はい。彼女は幸せに暮らしております。」

「そうか。……名前は、知らないままの方がいいよな。」

「はい。知ってしまえば旦那様は会ってみたくなるでしょう。
 ですが、向こうはそれを望んでいません。気づけば苦しまれる可能性もあります。」

「そうか。だよな。忘れたいよな。わかった。もう聞かない。
 セバス、そこの本を片しておいてくれ。」

「かしこまりました。」


父が図書室を出て行くと、ラインハルトはセバスの前に姿を見せた。
セバスは驚き、本を落としてしまった。


「亡き母カサンドラは、僕の本当の母上ではなかったようだね。
 記憶にもないから何の感情も湧かないけれど。
 まさか、シフォーヌとも母が違ったとはね。」


セバスはラインハルトが問い質すとしぶしぶ教えてくれた。

カサンドラは父親が平民でパモ公爵の子ではなかったこと。
平民の血筋を公爵家に入れるわけにはいかず、ラインハルトの母は父親の借金を返済するため、シフォーヌの母は遊ぶお金が欲しくて子供を産む契約をした。

しかし、お互いの素性は知らない。
契約書も破棄しているので、ラインハルトの実母のことを知っているのはセバスとラインハルトの実母と結婚した夫だけ。
シフォーヌの実母についてはセバスしかしらないという。





 
 
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