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しおりを挟むグローリー伯爵家からは、婚約を希望するとの返事があった。
ミュイカ嬢本人がセドルを気に入ったことと、普段は姉のお下がりを着るほど浪費を好まないこと。
お互いの領地は遠いけれど、王都に家があることで交流がなくなるわけではないからということだった。
王都に家を買うことにしたのはやはり良かったということ。
領地にいる兄夫婦にも連絡し、何とか長期休暇中に婚約できることになった。
本来であれば、領地に帰ろうと思っていた。
だけど、カイトが急にセドルの婚約話を進め始めたから、帰れなくなった。
どうしてこんなに急だったのか、それがわかったのは長期休暇の終わる頃だった。
兄夫婦が王都にやってきて、グローリー伯爵家との婚約手続きも問題なく済んだ後のこと。
セドルにクラスメイトの令嬢から手紙が届いた。
手紙は、一緒に観劇に行かないかというお誘いだったという。
セドルは、『婚約者のいる令嬢と2人で観劇に行くわけにはいかないし、自分にも婚約者がいるのでこういった誘いはお断りする』と返信したらしい。
「婚約していてよかったよ。ちゃんと断る理由にもなるし。あの令嬢、ちょっと苦手で。」
「婚約が間に合ってよかった。」
ジュゼットはカイトのその言葉に違和感を感じた。
「ねぇ、急にセドルの婚約者を探し出したのは理由があるの?」
「ああ、まあ……」
歯切れの悪い返事をしたカイトを問い詰めて話を聞いた。
知り合いに、セドルが公爵令嬢に興味を持たれているらしいと聞いた。
公爵令嬢には侯爵令息の婚約者がいる。だが、仲は良くないらしい。
セドルと公爵令嬢の仲を勘違いされて、婚約者から婚約解消を言い出される可能性がある。
そうなると、慰謝料を払わなければならない可能性もあるし、責任を取って公爵令嬢との婚約を迫られるかもしれない。
慰謝料はともかく、公爵令嬢をうちの嫁にするなど破滅行為。
その公爵令嬢は、とにかく金がかかる令嬢らしいから。
それを聞いて、セドルに婚約者がいれば責任を取らされることもないと思った。
令嬢と親しくならないように逃げるようにセドルに助言した。
そして、今回の観劇の誘いもきっぱりと断れる理由になった。
「公爵令嬢……に好かれているの?前に言っていた寄ってくる令嬢がその人?セドル。」
「うん。今回の観劇も、うまく断れなかったら絶対に馬車で迎えに来ていたと思う。
2人じゃないとかいいながらも2人な気がするし。
婚約者のいる令嬢と出かけられないと言うだけなら、婚約解消するからって言いそうだし。
こっちがただのクラスメイトのつもりでいても、外で腕なんか組まれたら終わってたかも。
だから、自分にも婚約者がいるから誘いは断ると言えることにホッとしてる。」
令嬢、しかも公爵令嬢を邪険になどできないセドルは嫌々ながらもついて行ったかもしれなかった先を想像して遠い目をしていた。
「で、でも普通の親ならうちみたいな伯爵家に公爵令嬢を嫁がせないと思うけど?」
「あぁ、聞いた話によると、公爵は今の婚約者と解消になるようなことがあれば娘を見捨てるらしい。
公爵家との縁も援助も何も見込めない、浪費家の令嬢を押し付けられるところだったんだ。」
カイトの言葉に、ジュゼットもセドルも驚いた。
いらない、そんな嫁、絶対に要らない。
そんなことになれば、ルミアを跡継ぎにしてセドルを逃がしていたかも……
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