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しおりを挟むグローリー伯爵家の人たちが帰り、カイトは息子セドルに聞いた。
「ミュイカ嬢はどうだった?
遠縁で同じ伯爵家だ。別に断れない縁談でもない。それを承知で来てもらっているから。
お前の気持ちで決めていいぞ?」
「……そうですね。正直に答えるとすれば好ましい令嬢だと思いました。
ただ、彼女なら上の貴族家と縁を結べるのではないかと……」
「あぁ、なるほど。
だがグローリー伯爵によると、ほとんどの跡継ぎが結婚しているか婚約者がいるらしい。
次男三男と婚約して分家になる方法もあるが、それでも子爵位だ。
近頃は動きが早くなって婚約を結んでから学園に入学することが増えているらしい。」
学園で親の意に沿わない相手を作らないようにという傾向が強まったらしい。
年代によっては、婚約者が嫌だと自分で相手を探し、婚約解消が増えることによって、やはり早めの婚約は良くないと在学中に婚約することが増えるようになる。
しかし、今度は相手に納得ができない親が増えて、入学前に婚約させることが増えるのだ。
政略結婚の意味合いが薄れているからこそ、婚約解消も増える。
「夫人もおっしゃっていたわ。跡継ぎに嫁がせるとなれば子爵か男爵家になるかもしれないって。
高位貴族の分家になったとしても同じことよね。」
公爵・侯爵家の次男三男と結婚して保有爵位と領地を受け継いで子爵などになることもできる。
しかし、所有している領地には代々代官として領地を管理している一族がいたりする。
その期間が長ければ長いほど、本家の息子だからといって領主になることで居場所を取られたと感じたり、今までのやり方を変えようとしたりすると反発があったり、と歓迎されないこともあるという。
本家も、代官の有難さはわかっているので、自分たちで信頼を勝ち取るようにと手助けしない。
未熟な2人が周りに気を遣うような新婚生活を送ることもあるのだ。
「そうですか。そう聞いてしまうと僕の気持ちというより、グローリー家の判断に任せたいかな。
コールマン家は伯爵家でもグローリー家よりは資産はないですよね。
領民からの税も大切に使いたいので、浪費を好むような令嬢には向いていません。
もちろん、ケチケチするつもりはないけれど。
今、こうして我々が過ごすレベルよりもあげるつもりはないということです。
それに了承していただけるのであれば、ミュイカ嬢との婚約を望みます。」
「……お前もいろいろ考えているんだな。」
「学園にいると、いろんな令嬢がいて。
学生には相応しくないような装飾品でやってくる令嬢や、同じ装飾品ばかりの令嬢。
どうして他のを買わないのか直球に聞いている姿を見て、育ちの違いを目の当たりにしたんだ。
でも、その同じ装飾品の令嬢は楽しそうに話していて。
『先月のお小遣いでこの髪飾りを買った。今月は欲しい本と文房具を買う。
学生の自分に相応しいものを今は楽しみたい。』と。
その令嬢の毎月のお小遣い金額を聞いて、子供のお小遣いだと笑う人もいた。
だけど、貴族でも誰もが欲しいものを欲しいだけ手に入れることはできない。
それを理解することもなく、不思議に思ったり笑ったりするのは短慮だと思ったんだ。」
セドルは学園に入学してから急に大人びた考えをするようになってきた。
同じ年代の、爵位の違う令息令嬢との付き合いで自分の位置づけをしているのだと思う。
成長を感じて嬉しくなった。
ミュイカ嬢との婚約は、セドルの言葉をグローリー家に伝えてから決まるだろう。
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