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5日ほど部屋で安静に過ごし、傷を負った場所が場所だけに見っともない歩き方が普通に歩けるようになってから、アリーズは部屋から出ることができた。
迷子になるほど広いわけでもない屋敷は、位置する部屋の場所が実家と左程変わるわけでもない。
私室・執務室・食堂・応接室・談話室・子供部屋・客間・サンルーム・図書室・宝物庫。
屋敷の主が足を踏み入れる場所は似たようなところしかないのだから。
夫であるモリス男爵からは、あれから何も接触がなかった。
彼から謝罪らしき言葉を聞いた覚えもない。
王都の噂とアリーズの言葉。どちらが真実か耳を傾けることなく噂を信じ続けた夫。
自分の非を認められない夫。
夫のことをまた一つ知ることができた。
前妻ミリアム様の浮気を肯定するつもりはないけれど、今のアリーズに夫のいいところを一つもあげることなどできない時点で彼女の結婚生活はつらかったのではないかと同情する気持ちが湧く。
たかが数日の付き合いで夫の全てを理解したつもりはないけれど、彼に何かを期待をすることは失望を深くするように思うので、希望は抱かないように心掛けることにした。
ただ、心配なのは義娘リズベスのこと。
確か、モリス男爵が再婚を望んでいるのは娘のためだとデッカード侯爵が口にした気がする。
『娘に母親が必要』だと。
つまり、夫に子供を産むことも求められていないアリーズに望まれることは、妻になることではなく娘の母親になることと言っていい。
引きこもりになる前の娘と夫がどんな親子だったのかは侍女長かウォルターに聞けばわかるだろう。
ひと月が過ぎたら閨事が再開されるかどうかはわからないけれど、しばらくは夫からの接触はないと思われることから、アリーズは義娘と接触を図ることに決めた。
コンコンコン。
リズベスの部屋の扉を叩いてみた。しかし、返事はない。
食事はリズベスの侍女が運んでいるし、湯あみの世話などもしているという。
部屋の鍵がかかっているわけでもなく、本人が部屋から出ようとしない。それだけらしい。
要は、アリーズでも入室できるのだ。
「入らせてもらうわね。」
アリーズはリズベスの部屋の扉を開けた。
「……誰?」
リズベスはポカンとしてアリーズを見た。
「私はアリーズよ。あなたがリズべスね。初めまして。」
「……お父様が再婚した人?」
「一応、そうね。もう何日も男爵様の顔を見ていないけど。」
「私は長い間見てないわ。」
思わずといったようにリズべスも呟き、アリーズと顔を見合わせて笑った。
どうやらリズベスは我が儘なお嬢様ではないらしい。
引きこもりにはちゃんと理由があるのだろう。
「お義母様と呼べばいいの?」
「うーん。無理に呼ばなくても構わないわよ?リズベスは自分のお母様のことを忘れていないでしょう?」
「……覚えてはいるけれど、あまりいいことは思い出せないかな。」
……前言撤回。前妻ミリアム様への同情は早まったかもしれない。
夫になったモリス男爵のことも、前妻ミリアム様のことも、リズベスのことも、一筋縄ではいかないようだ。
夫婦間あるいは親子間でなければわからない問題が山のようにあったのに、それぞれが会話を放棄した結果、バラバラな状態になってしまった気がする。
リズベスが部屋から出たくない理由。
それは、父親に会いたくないからに違いない。
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