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しおりを挟むモリス男爵領に来てまだひと月しか経っていない。
その間、夫とは到着した日とその翌朝、そしてアリーズが執務室に向かった日しか会っていない。
直接会っていないことで、侍女のレベッカが自分の都合のいいように動いていたようだ。
そしてアリーズは、嫌な想像をしてしまった。
「ねぇ、ウォルター。レベッカっていつから男爵家で働いているの?」
「彼女は16歳まで男爵令嬢だったのですが、実家が没落してしまい、学園も途中退学になりました。
亡くなった先代様が人伝てに頼まれたようで、侍女として雇うことに。
ダッチス様が結婚されていてミリアム様はリズベスお嬢様を妊娠中でしたので、約8年でしょうか。」
約8年。レベッカは24歳なのか。
「男爵様はミリアム様がお亡くなりになってからレベッカと関係を持ったのよね?」
「はい。いろいろ噂されてヤケ酒を飲んでいた時に慰められたようです。」
「でも、妻にする気はなかった?」
「後妻でも貴族の妻を望んでおられました。それにレベッカは経験があったそうなので。」
つまり、責任を取る必要性も感じなかったということらしい。
「それで、私と再婚するにあたって、レベッカとの関係を一度は解消したってこと?」
「いえ、それが、関係を持ったのは一度だけだったようです。」
「そうなの?ずっと愛人だったのかと思っていたわ。そのうちまた愛人にするつもりで解雇しなかったのかと思ったの。だから、私か愛人かどちらかを選んでもらったのよ。愛人と夫の寵愛を競うなんて馬鹿らしいから。」
「ですよねぇ。僕も勘違いしていましたし。ミリアム様の不貞を非難しておいて、正気か?と思いましたね。」
そう思ったのであれば、再婚相手を連れて帰る前にレベッカを解雇しておくべきだったと思う。
それよりも本当に確認したいことはここから。
「ねぇ、レベッカってミリアム様の侍女もしていたの?」
「はい。専属になったのは4年くらいでしょうか?その前は当時の専属侍女の休みの時や休憩の時に代わって入っていましたね。リズベスお嬢様のお世話をすることもありましたし。」
「男爵様とミリアム様の仲ってどうだったの?」
「結婚当初はぎこちないなりにもまぁ、なんとか。ただ、先代様がお亡くなりになって男爵位を継ぐことになってからは忙しくてすれ違っていたように見えましたね。それがミリアム様の不貞の一因になった可能性もあります。」
「思ったのだけど、今回のように、レベッカが男爵様とミリアム様の関係をすれ違わせたとは考えられない?」
このひと月、モリス男爵はアリーズを放置していたけれど、何度か夕食には誘っていたらしい。
『会いたくない』『気分が悪い』と伝えられれば、毎日誘うわけにもいかない。
そして男爵は、自分から直接会いに行ったりすることなく伝言を頼むのだが、その相手が悪い。
伝言を頼まれたレベッカがアリーズに伝えず、嘘の伝言を男爵に返すのだから。
それと同じことが、男爵とミリアム様にも起こっていたら?
レベッカが双方に、嘘を伝え続けていたのなら?
悪意ある嘘の言葉を伝えられたミリアム様が耐えられなくなったのだとしたら?
……ここから逃げたくなるかもしれない。
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