侯爵の愛人だったと誤解された私の結婚は2か月で終わりました

しゃーりん

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デッカード侯爵家に向かうと、あの奥様も一緒だった。


「あんなクズを紹介して申し訳なかったね。」
 
「いえ、せっかくご縁をいただきましたのに、こちらこそ申し訳ございません。」

「結婚後は2人のことだから、仕方ないさ。
で、来てもらったのは、君に私の子供を産んでもらえないかと思ってね。」


は?


「いえ、あの、私、再婚が決まっているんです。」

「そう手紙に書いてあったけど、少し遅らせられないか?妻が妊娠するのはもう無理みたいなんだ。
だから誰かに僕の子を産んでもらおうと思ってるんだけど、再婚が決まっている君なら揉めないと思ってね。」


誰か他の令嬢に頼んだら妻の座や侯爵の愛を狙おうとするかもしれないからじゃないの?
それに、奥様の髪色と目の色が私と似ているから。

奥様はものすごく不満そうだけど、離婚するよりも我慢できるといった感じなのね。
しかも同席しているだなんて、これはあくまでも契約だと脅しているようだわ。


「……申し訳ございません。婚約者とは一緒に王都に来ていまして、実はその、明日入籍するのですが、すでに部屋も一緒に過ごしていまして……」

「まあ、はしたない。」


すみませんね。

愛人だの悪女だの言いふらしてくれた奥様にそう言われるなんて腹が立つけど、我慢して曖昧な笑みで誤魔化した。


「要するに、もう体の関係を持っていて妊娠しているかもしれないってことか?」

「……そうです。ですので、お断りさせていただきます。」

「なら仕方がないか。次の候補に頼むことにするよ。だが、妊娠してるとは限らないのに今判断して後悔しないか?少なくない金も出すぞ?」

「申し訳ございません。」

「そうか。わかった。
そう言えば、ダッチス・モリスは平民の愛人とは絶対に結婚しないらしいぞ。腹の子は庶子にするらしい。男爵位なのにそこまでこだわるなんて、学生時代の虐めがよほど堪えたんだろうな。」
 

男爵は数代前まで平民だったという家も多い。
確かに男爵位で母親が平民だと虐められた男爵は気の毒に思える。
高位貴族の跡継ぎの母親が平民である方が問題のように思えるけれど、逆に高位貴族だから悪口を言いにくいのかもしれない。

モリス男爵はデッカード侯爵にあまりいい感情を持っていない気がした。
ということは、デッカード侯爵もモリス男爵の母親が平民であることを嘲った一人なのではないか?

それでもデッカード侯爵に再婚相手を相談したモリス男爵の葛藤が垣間見える気がするけれど、それは今更アリーズが気にすることでもなかった。
 
子供を産んだ後のレベッカをどうするつもりなのか。
リズベスが後々困ることにならないように、ちゃんと対処してほしい。


「モリス男爵様にも新たな出会いが訪れることを願っています。」


あの性格では難しそうですけどね。




デッカード侯爵家を出るとホッとした。
奥様は頼んでいるにも関わらず態度が悪いし、断ったら睨みつけてくるし。

でも、スレイバー様との結婚がなければ受けていたかもしれない。

奥様を見下してみたいから?……性格悪いわね。

そんなことをしたら、人知れず消されてしまうかもしれない。
 
高位貴族と関わるべきじゃないわ。



宿に戻り、スレイバー様と2日目の夜を過ごした。

翌日、入籍を済ませて、王都最後の夜を楽しみ、フライ子爵領へと戻った。


そして結婚から2か月後、アリーズはスレイバー様の子供を妊娠した。

モリス男爵との2か月とは大違いで、少し爛れた濃い性生活を送ったと振り返ったら恥ずかしくなる思いだったが、幸せを感じていた。


ひどい難産の末、産まれたのは男の子。

後のフライ子爵になる。

父と兄がそう言って喜んだ。

気づいていたけど、私、聞いてないわよ?

命がけで出産して疲れ果てた娘の、妹の心の叫びなど知らんぷり。

4人も子供を産んだ母を心から尊敬するわ。


父と兄が赤子に夢中になっているのに、父親になったスレイバー様だけは少し違う。

彼は泣きそうな顔でアリーズを労わってくれた。


「跡継ぎだなんて負担に思ったら不安になるんじゃないかと思って言えなかったんだ。
アリーズが無事でよかった。君を失うかと思って怖かった。産んでくれてありがとう。愛してるよ。」


閨事の最中の『愛してる』とは少し違う、心のこもった『愛してる』はアリーズの心に響いた。

口先だけの『愛してる』ではなく、アリーズを失うことを恐れた『愛してる』は本物だった。

アリーズは愉悦を覚え、にっこりと笑みを浮かべた。



<終わり>
 

 
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