異世界こども食堂『わ』

ゆる弥

文字の大きさ
4 / 77

4.俺に任せとけ

しおりを挟む
「おう。俺が食わせてやる」

 そう口にすると、少女二人は目を見張ってこちらを見つめている。
 ここで頼りないような大人ではだめだ。
 俺はそう思った。

「ウチは、サクヤといいます。よろしくお願いします」

「私は、アオイといいます。よろしくお願いしますわ」

 二人は頭を下げた。
 ピンク髪がサクヤで青いのがアオイか。
 覚えやすいな。

「俺は、リュウという。これからよろしく頼む」

 俺も頭を下げると、なんだか恥ずかしそうにしていた。

「あっ。ウチもお皿洗おうかな!」

「私も!」

 イワンとリツの後を追っていく。
 あの二人と一緒だったからちびっ子たちも大人びた感じだったんだな。
 まだ小さいのに。

 サクヤとアオイは、子供ということではないが。
 まだ幼さがある。大人の手助けが必要な歳だろうよ。
 働き口を用意してあげれば、あの子達なら十分に生活していける。

「おさら、あらったよぉ。はたらいたぁ」

 リツが上機嫌でやってきた。
 後ろからイワンが呆れたように「お皿洗っただけでしょ」と言ってついてくる。

 その後ろからサクヤとアオイが追って現れた。

「そうだ。ウチでシャワー浴びていかないか?」

 サクヤとアオイはお互いに顔を合わせて小声で相談している。
 こうやって二人で色々と話し合って来たんだなぁ。
 そのまま様子をうかがっていると、結論が出たようだ。

「魔石の分はバイト代から支払いますので、浴びさせて欲しいです」

 サクヤがこちらを向き直り、頭を下げながら相談した結論を告げる。

「魔石代は俺が稼ぐから大丈夫だ。一人ずつゆっくり浴びてこい」

 なるべく優しい声でそう告げた。

「では、イワンとリツは、一人では無理なのでみんなで浴びてきます」

「そんなに広くないぞ?」

「大丈夫です」

「わかった。こっちだ」

 シャワールームへと案内する。
 おやっさんには昨日のうちに使う許可をもらっている。
 この建物自体から出ていくらしいので、住居部分に住んでいいといわれていた。

 本当に有難い。
 おやっさんたちは息子さん達と住むんだとか。もう歳なんだから店を閉めて来いっていわれたんだと。いい息子さんだ。
 
 たまに様子を見に来てやると言ってくれていた。
 
 シャワールームを隔てる引き戸を閉じる。
 再び厨房へと戻る。

 金属のボールを二つ取り出して片方に卵黄、砂糖をいれる。
 そして、泡だて器でザラザラ感がなくなるまでかき混ぜていく。
 次に、ミルクを入れていく。
 
 もう一つのボールに氷を入れる。
 そして、塩を投入して準備は完了だ。

 氷と塩を入れたボールの上に先ほど卵黄やミルクをかき混ぜたボールを乗せると。泡だて器で混ぜていく。こうしているとだんだんと固くなってくるのだ。

 固くなったらヘラでひっくり返すように底からかき混ぜていく。
 完全に固まったら、完成だ。

「きもちよかったー!」

「すみません。有難う御座いました」

 リツがこれまた上機嫌。人懐っこいところが可愛いじゃねぇか。ぞろぞろやってきて、サクヤが頭を下げながらこちらへ向かってくる。

「それ、なんですか?」

「これか? アイスだ。知ってるか?」

「えー! アイスたべたーい!」

 俺の答えにリツが反応する。

「知ってますけど、これってそんなに簡単に作れるんですか?」

 サクヤは冷静に俺に聞き返す。

「簡単だぞ。今度教えるか?」

「お願いします」

 まず席に座るように促して、四人の前にクリーム色の冷えたアイスを出す。
 器の手前にスプーンを添えた。

「シャワーの後はアイスだろ」

「わー! ひさしぶりにたべるー!」

 リツがはしゃいでいる。

「前は食べてたのか?」

「おかあさんがつくってくれたー」
 
 親が生きていた時は作ってくれてたんだな。サクヤとアオイが必死に働いても、アイスを食べる余裕が無かったんだろうなぁ。

 いったいどれだけ少ない収入で仕事させられてたんだ?

「んー! あまくてほいひぃー!」

「よかった。おいしいか」

 気持ちがホッコリした。
 この気持ちを忘れないようにしないとな。
 こども食堂、絶対成功させる。

 こっちにこども食堂という名前の食堂はないだろう。俺が勝手に名付けているだけということになる。表向きは、食堂『わ』だ。

 営業時間外をこども食堂にする。
 おやっさんにも相談してみよう。
 
 サクヤとアオイには店を継げたら伝えよう。
 こども食堂を同じような境遇の子にも知らせて欲しい。

 それ以外にも、子育てに悩んでいる人。
 いや、なんでもいい。悩みや困り事がある人。
 ない人でもいいか。

 誰でも気軽に来られるような場所を俺は作りたい。日本では、自分が事業主ではなかった。だから出来なかったが。今回は自分が事業主だ。

 一応、勉強がてら仕入れや消耗品に関する支出と、値段設定をして料金を貰う収入に関してのノウハウは教えて貰っていた。

 だから、よく分からないこの世界でも、どうにかなると思う。金額の感覚的には変わらないようだ。ただ、単位がゴールドというだけ。

 そして、小硬貨は百円。中硬貨が千円。大硬貨が一万円となっている。ざっくりなのだ。それ故に分かりやすい。

 安くても百円という世界。いいのだか、悪いのだか。

「サクヤは給金、いくら貰ってたんだ?」

「一日、小硬貨一枚です」

 頬が引き攣った。
 おいおい。マジかよ。

「アオイは?」

「私も同じです」

 思わず目を見張った。
 俺は自分の気持ちの苛立ちを抑えるのに必死だった。どれだけの安い給金で働かせていたのか。

「ふぅぅぅ。二人とも、よくやっていたな……」

 今度は感情が込み上げて震える。
 そんな過酷な中で生きてきたのか。
 どんだけ辛かったことか……。

「俺が雇うからには、一日大硬貨一枚だ」

 今度は二人が目を見張った。

「そんなに貰って大丈夫なんですか?」

「やはり、身を売った方がいいですか?」

 二人は疑心暗鬼。俺の算段では大丈夫だ。
 客は絶対入る。
 料理で人を引き付けてみせる。

「俺の料理で、客は来る」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...