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第一章 秋田編
34.岩手到着
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そこからは順調な旅路だった。
襲われても俺が車に乗ったまま魔法で撃退できるぐらいの魔物しか出てこなかったのだ。
ついに岩手県の壁にやって来た。道路沿いに検問があるので、そこに向かう。
「お疲れ様です! どこの基地からお越しですか?」
「中央基地からです。武岩総長から連絡が来ていませんか?」
「……はっ! 来ておりました! 申し訳ありません! 武藤隊長でお間違いないでしょうか!?」
何やら端末を確認すると、急に直立になり敬礼する。
「そうです。あぁ。別に畏まる必要ないですよ。この前までただの生産部隊の隊員だったんですから」
「? はっ! お気遣い有難うございます! どうぞ! お通りください!」
頑丈そうな鉄の塊が横にずれて壁に穴を開けた。そこから車を発進させて通っていく。
中は景色が変わって科学文明を感じさせる建物が建っていた。メタルな建物が規則正しく並んでいる。
「なんか懐かしいです。また建物が多くなった気しますけど」
「そうなのか? 俺は初めてだけど、あんまり東京と変わらないな?」
「そうですね。壁の中は同じ感じですよねぇ」
少し気を抜いたような雰囲気を感じる。壁の中に入ったから安心したのだろう。笑顔が増えた。
「自分初めて来たっすよ。なんか田舎っぽくないっすね?」
「おい。失礼だぞ?」
俺は少し慌てたように千紗を見ながら注意する。千紗は気にした様子もなくにこやかに笑っている。
「雷斗? おろすわよ?」
微笑んでいると思ったが、怒っていたようである。笑いながら怒っているとは恐ろしい。
「い、いや。申し訳ないっす。こっちは閑散としているイメージだったんすよ。別に馬鹿にしてる訳じゃないっすよ?」
「ふふふっ。わかってるわよ。昔はやっぱり東京よりは劣っていて、田舎町って感じだったらしいわよ? まぁ、異世界化する前の話だけどねぇ」
俺は資料で見た事がある。魔物が現れ壁で隔離して、その県でしか暮らせなくなってから発展が進んで行ったそうだ。
「そう。なんすね」
「ワタクシは田舎の風景をこの目で見てみたかったですわ。お祖母様に写真を見せてもらったことがあるんですわ。田舎と呼ばれる風景を。それはとても壮大で素晴らしい光景でしたわ」
冬華は田舎の風景が好きなようだ。住めば都という言葉が日本にはある。田舎でも住んでいる人達は幸せなのだ。東京に居るよりも心は豊かになるのかもしれない。
「壮大な景色は心が豊かになるよな? 名残があるところもあるんじゃないか?」
視線の先には木々が生い茂り山々も広がっている。この景色が素晴らしい景色なのは異世界化の影響も大きいんだがな。
「そうですわね。道路の向こうには建物がないところも少しはあるみたいですわね。でも、昔のようではありませんわ」
そうはそうだろう。人口密度が昔の何倍もあるから建物の密集率が違うのだ。でも、異世界化のおかげで発展しているものもある。魔装置だ。それで魔石を設置して水や電気を発生させるのだ。
この新エネルギーに日本は目をつけた。今は魔石集めに必死で俺たちが狩った魔物の大半を国が買取っている。その資金もジスパーダの組織運営に使っている。
「それはそうだよなぁ。今はだいぶ世界が変わった。だが、この世界になったからこそ。俺達は出会えたのかもしれない」
「ふふふっ。そうかもしれないですね。意外とロマンチストですね?」
「そうか? 俺はただ仲間として出会えて幸せだと思うからそう言っただけだよ」
俺は少し照れくさくて外を見ながら自分の気持ちを伝えた。視線の先では子供が走って遊んでいる。
俺達はこの子達の生活を守っているんだ。そう思うと誇り高い気持ちになった。胸を張って歩ける。
「あっ! ジスパーダだ!」
子供が俺達をみて手を振っていた。戦闘服で気がついたのだろうか。
窓を開けて手を振り返す。
周辺は夕食どきということもあり味噌汁のいい香りが漂っている。
子供を見ていると秀人のところの佳奈を思い出す。
(そういや、佳奈は元気にしているかなぁ。あの子は強いから大丈夫か。まぁ、心配かけちまってるだろうけど)
「今奥州市に入ったので、あと一時間半くらいで東北基地には着くと思います。」
到着が夜になってしまうが、さっきの検問を通ったから連絡はいっているだろう。
「その基地に千紗の母親もいるのか?」
「そうですね。あんまり会いたくないですけど……」
「せっかく帰って来たんだから会った方がいいんじゃないのか?」
そう思ったのだが、なんだか千紗は顔をしかめている。
「ウチの母は、パワーがある人なのでうるさいんですよぉ」
「なんだ。中が悪いとかじゃないんだな? ならいいじゃないか。会っておけよ」
眉間に皺を寄せて恐い顔をしている。
「うぅ。まぁ雷斗の傷を治して貰いましょう。治癒魔法使えるので」
「お母さんは魔人なのか?」
「そうです。遺伝すると思われた私は未だ魔力器官ができていません。期待はずれなんです」
なんだか地雷を踏んでしまったようだ。急にシュンとしてしまう。
「何かきっかけがあれば目覚めるかもしれないぞ? 俺もこの年になって魔人になったんだからな」
「たしかに。そうですよね」
少し心が軽くなったようだ。
顔が晴れやかになった。
わかりやすいものである。
もうすぐ東北基地に着く。張り詰めていた気持ちが解けてみんなの顔が明るかった。少し休憩しよう。
襲われても俺が車に乗ったまま魔法で撃退できるぐらいの魔物しか出てこなかったのだ。
ついに岩手県の壁にやって来た。道路沿いに検問があるので、そこに向かう。
「お疲れ様です! どこの基地からお越しですか?」
「中央基地からです。武岩総長から連絡が来ていませんか?」
「……はっ! 来ておりました! 申し訳ありません! 武藤隊長でお間違いないでしょうか!?」
何やら端末を確認すると、急に直立になり敬礼する。
「そうです。あぁ。別に畏まる必要ないですよ。この前までただの生産部隊の隊員だったんですから」
「? はっ! お気遣い有難うございます! どうぞ! お通りください!」
頑丈そうな鉄の塊が横にずれて壁に穴を開けた。そこから車を発進させて通っていく。
中は景色が変わって科学文明を感じさせる建物が建っていた。メタルな建物が規則正しく並んでいる。
「なんか懐かしいです。また建物が多くなった気しますけど」
「そうなのか? 俺は初めてだけど、あんまり東京と変わらないな?」
「そうですね。壁の中は同じ感じですよねぇ」
少し気を抜いたような雰囲気を感じる。壁の中に入ったから安心したのだろう。笑顔が増えた。
「自分初めて来たっすよ。なんか田舎っぽくないっすね?」
「おい。失礼だぞ?」
俺は少し慌てたように千紗を見ながら注意する。千紗は気にした様子もなくにこやかに笑っている。
「雷斗? おろすわよ?」
微笑んでいると思ったが、怒っていたようである。笑いながら怒っているとは恐ろしい。
「い、いや。申し訳ないっす。こっちは閑散としているイメージだったんすよ。別に馬鹿にしてる訳じゃないっすよ?」
「ふふふっ。わかってるわよ。昔はやっぱり東京よりは劣っていて、田舎町って感じだったらしいわよ? まぁ、異世界化する前の話だけどねぇ」
俺は資料で見た事がある。魔物が現れ壁で隔離して、その県でしか暮らせなくなってから発展が進んで行ったそうだ。
「そう。なんすね」
「ワタクシは田舎の風景をこの目で見てみたかったですわ。お祖母様に写真を見せてもらったことがあるんですわ。田舎と呼ばれる風景を。それはとても壮大で素晴らしい光景でしたわ」
冬華は田舎の風景が好きなようだ。住めば都という言葉が日本にはある。田舎でも住んでいる人達は幸せなのだ。東京に居るよりも心は豊かになるのかもしれない。
「壮大な景色は心が豊かになるよな? 名残があるところもあるんじゃないか?」
視線の先には木々が生い茂り山々も広がっている。この景色が素晴らしい景色なのは異世界化の影響も大きいんだがな。
「そうですわね。道路の向こうには建物がないところも少しはあるみたいですわね。でも、昔のようではありませんわ」
そうはそうだろう。人口密度が昔の何倍もあるから建物の密集率が違うのだ。でも、異世界化のおかげで発展しているものもある。魔装置だ。それで魔石を設置して水や電気を発生させるのだ。
この新エネルギーに日本は目をつけた。今は魔石集めに必死で俺たちが狩った魔物の大半を国が買取っている。その資金もジスパーダの組織運営に使っている。
「それはそうだよなぁ。今はだいぶ世界が変わった。だが、この世界になったからこそ。俺達は出会えたのかもしれない」
「ふふふっ。そうかもしれないですね。意外とロマンチストですね?」
「そうか? 俺はただ仲間として出会えて幸せだと思うからそう言っただけだよ」
俺は少し照れくさくて外を見ながら自分の気持ちを伝えた。視線の先では子供が走って遊んでいる。
俺達はこの子達の生活を守っているんだ。そう思うと誇り高い気持ちになった。胸を張って歩ける。
「あっ! ジスパーダだ!」
子供が俺達をみて手を振っていた。戦闘服で気がついたのだろうか。
窓を開けて手を振り返す。
周辺は夕食どきということもあり味噌汁のいい香りが漂っている。
子供を見ていると秀人のところの佳奈を思い出す。
(そういや、佳奈は元気にしているかなぁ。あの子は強いから大丈夫か。まぁ、心配かけちまってるだろうけど)
「今奥州市に入ったので、あと一時間半くらいで東北基地には着くと思います。」
到着が夜になってしまうが、さっきの検問を通ったから連絡はいっているだろう。
「その基地に千紗の母親もいるのか?」
「そうですね。あんまり会いたくないですけど……」
「せっかく帰って来たんだから会った方がいいんじゃないのか?」
そう思ったのだが、なんだか千紗は顔をしかめている。
「ウチの母は、パワーがある人なのでうるさいんですよぉ」
「なんだ。中が悪いとかじゃないんだな? ならいいじゃないか。会っておけよ」
眉間に皺を寄せて恐い顔をしている。
「うぅ。まぁ雷斗の傷を治して貰いましょう。治癒魔法使えるので」
「お母さんは魔人なのか?」
「そうです。遺伝すると思われた私は未だ魔力器官ができていません。期待はずれなんです」
なんだか地雷を踏んでしまったようだ。急にシュンとしてしまう。
「何かきっかけがあれば目覚めるかもしれないぞ? 俺もこの年になって魔人になったんだからな」
「たしかに。そうですよね」
少し心が軽くなったようだ。
顔が晴れやかになった。
わかりやすいものである。
もうすぐ東北基地に着く。張り詰めていた気持ちが解けてみんなの顔が明るかった。少し休憩しよう。
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