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第一章 秋田編

33.魔力無限機構

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「自然の魔素を取り入れるんだよ。巡回することで魔法を無限につかえるのさ。感じるんだよ。魔素を」

 この言葉は誰が言ったんだったか。

 重い瞼を持ち上げると何やら外が騒がしい。
 さっきは夢で誰かが話していたようだ。

(自然の魔素を取り入れる……か。どうやったらできるんだろうな)

 起き上がると千紗もいない。雷斗はまだ寝ていた。

(自然の魔素……漂っている魔力か……今なら感じられる気がする。これを体に取り入れるか)

 周囲の大気から身体の魔力器官に魔力を溜めるイメージをしてみる。
 
 半分ほどしか回復していなかった魔力が少し回復した気もする。

 続けてみると段々とコツが掴めてきた。

 そうだ。外が騒がしいんだった。
 部屋の扉をあけて廊下を進み階段に行くと悲鳴と怒鳴り声が聞こえる。

「きゃーっ! 入ってきちゃうよ!」

「コイツ等なんでここまで来たんですの!?」

「きっと追ってきたのよ!」

 急いで降りて入口に行くとオークが押し寄せていた。
 車で居所がわかったんだろうか。
 意外と頭が働くことに驚いた。

「大丈夫か?」

「大丈夫なように見える!?」

「大丈夫なように見えているのなら頭ヤバいですわ」

 折角助けに来たってぇのに、何て言い草だ。
 自動ドアがこじ開けられないように粘っていた千紗と冬華に退くように言う。
 「はいってきたらどうするの?」とか文句を言いながらも下がってきた。

飛炎ひえん

 無数の鳥状の火の粉が入口に飛んでいき入口から外に出てオークを消し炭にしていく。

増殖ぞうしょく

 飛んでいた火の粉が一気に増加した。縦横無尽に行ったり来たりを繰り返し、オークを消し去った。

 目を見開いて口を開けている二人。

「そんなに使ったら魔力がなくなるんじゃ……」

「それがな。昔の仲間の助言で魔力がなくなる事はなくなったんだ」

「えっ!? 何それ!?」

 夢で見た仲間の話を実践したら自然の魔素を取り込むことに成功したという話をする。

「そんなことが可能なのね。じゃあ、もしかして制限なく戦える?」

「あぁ。精神が持つ限りな」

 あんまりずっと戦っていると頭がおかしくなりそうだが。しかし、回復魔法が使用できないのはネックだ。

 あれは回復魔法という属性のようなものだから。

「すごい! あっ、雷斗の容体見てこないと」

「もし動けそうなら移動しよう。俺が運転するからみんな休んでいていいぞ」

「ふふっ。わかったわ」

 千紗はウインクをして上へと上がっていった。なんであんなに上機嫌だったのだろう。

「千紗さんに好かれてますわね?」

「そうか?」

「刃さんくるまで文句ばかり言ってましたわ」

「それは関係ないんじゃないか?」

 さっきのはただ単に不満を爆発させていたような気がする。冬華も疲労を隠せていない。

「冬華もすまんかったな。休んでいいぞ。俺が見張っておく」

「お言葉に甘えますわ」

 そう言うと上に行った。と思ったら戻ってきた。

「申し訳ないっす。俺は大丈夫なんで行きましょう!」

「無理しないでって言ったんだけど、大丈夫だっていうから……」

 雷斗が少し無理をしたらしい。千紗はとめたようだが、オークが襲ってくる現状ではなかなかゆっくりもできないだろう。

「そうか。じゃあ、出発して車で休んでくれ」

「…………ォォォォ」

 何かが聞こえた気がする。玄関へ行き入口から外に出ると大量のオークを連れたオークキングが横柄な態度で歩いて来た。

 アイツは自分が狩る側だと思っているんだろうな。だから今のうちに攻めた方がいいと勘違いしている。不憫な物だ。

「お客さんだ。俺が一人で相手する。待っていてくれ」

「一人で大丈夫!?」

「あぁ。見ていてくれ」

 俺は一人でホテルの入り口から歩いてオークキングの元へ行く。

「ゲギャギャギャ!」

 こちらを指さして笑っている。
 居合の構えを取る。
 鞘に魔力を充填していく。

 自然の魔素を取り込めるようになった今、込めることができる魔力は段違いだ。

 体にも魔力を纏わせる。肉体への付与はそこまでできない。あまりやると体がもたずに爆発してしまう。

 後ろに半歩足を下げ、前傾姿勢になる。

「ゲゲッ!」

 行けと指示を出したのだろう。
 大量のオークがやってきた。

青炎一閃ほむらいっせん

 刀を振るった範囲へ扇状に広がった青い炎の斬撃は、周囲一帯のオークを真っ二つにして焼き焦がした。

 だが、まだオークは押し寄せてきている。オークキングも伏せて避けたようだ。

「はははっ。良く避けたなぁ。これはよけれるか? フレイムサン」

 青い炎を手の中で圧縮する。
 ビー玉程の青い球になり、それをオークキングへ射出する。

「ゲゲゲゲッ!」

 嘲笑って手で払った。
 次の瞬間ゴウッという音と共に爆発的に大きくなった炎は半径百メートルを太陽の様に焼き払い。大きなクレーターのような跡を残して全てを消し炭にした。

 熱気が肌を焦がし、衣服が少し焦げてしまった。仕方がない。

 ホテルの方へ戻る。

「見ていてくれたか?」

「うん。凄かった。凄かったけど、あの地形が変わったとこどうやって走っていくの?」

 そこまで考えていなかった俺は冷や汗をかいた。

 千紗は冷静なのであった。
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