疼きの原因が親友な訳

itti(イッチ)

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始まるぜッ!!!

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流石に夜勤明けの移動は堪えるな…

夜中にフロアのワックス掛けをして、在庫の補充を終らせて、慌てて菊地と待ち合わせ場所の駅前に行った。

「ゴメン、待たせて!」
顔を見るなり菊地に謝ると、「いいって、まだまだ時間あるから。」と笑われる。

ほんと、なんだか気持ちばかりが焦ってしまうと、昨夜からずっとソワソワが止まらない。
「菊地のアパートはどの辺?...つか、聞いても、俺、わかんないんだけどさ。」

「あたしの住んでるのは、ちょっと田舎。水沢の所から更に20分位かかるんだ。家賃高いからさ~、親に負担掛かるじゃん…」

菊地の口から、そんな言葉を聴くなんて、と思った。親に負担とか、一応アルバイトはしているけど、自分の小遣いだし。
生活も学費も親に負担掛けているな…

時間になったので、切符を買って電車に乗り込む。朝だから結構な混みようで、きっと東京なんかはもっと凄いんだろうな、と思った。

乗り換えながらやっと目的地へ着くと、菊地はアタルに知らせ無いまま病院に向かうと言う。

「え、そんなのマズいよ。」

「だって、電話しちゃったら話して終わりになるでしょ?きっと水沢、お見舞なんて来なくてもいいって言うよ。」

菊地に言われて、確かにその通りだと思った。
アタルなら、お見舞いの為にわざわざ来るなって云いそう。

「それにさ...」と言うと、菊地がニヤッと笑う。
「何?」
その笑顔には含みがあって、俺は不気味に思った。

「あたしが、ひとりで水沢の病室に入るから、松井は顔を見られない様にそっと入って来て。」
「え?なんで?」
俺がポカンとした顔で聞くと、「水沢の本音を聞きたいと思わない!?」と言った。


...それは...聞きたい。

アタルの本音。
それを菊地が聞き出してくれるというのか…


言われた通り、俺が後からそっと入ってカーテンの影にいることをアタルは知らない。

病室の前では緊張していたが、今は別の意味でドキドキしていた。騙すみたいな事をして申し訳ないと思いつつ、やっぱりアタルが俺とどうなりたいのか聞いてみたい。

「ねぇ、松井には知らせなくて良かったの?」
菊地はアタルに聞いた。

「…ああ、勇人が自分から連絡くれるって言ったから。オレからせっつく事はしたくないんだ。誤解されたとしても仕方がない。オレはずっと待つつもりだよ。」

懐かしいアタルの声が、カーテンの向こうから聞こえて来ると、俺は胸が傷んだ。アタルの気持ちなんて知らないまま、卒業間近まで隣で笑ったり怒ったり。他愛ない毎日を友達として過ごして来た。親友という都合のいい距離は、返ってアタルに負担を掛けていたんじゃないのか?

「もしも、松井が水沢を嫌いになったと言ったらどうする?あんた誤解されたままでいいの?」

ドキッとした。俺は菊地に色々聞いていなければ、このまま離れる事になっていたかもしれない。心を病んだまま、ひとりで勝手に傷ついて。

「勇人が何か言ってくれるまで待つだけだ。それが何年掛かろうとね…」

「え。……バカじゃないの?歳とっちゃうじゃん。自分から電話でもなんでもしなよ!」
菊地は呆れた様に言った。

「オレはゲイだから...勇人に負担を掛けたくない。もし、忘れ去られたとしても、それでいい。オレだけがアイツを忘れなきゃ…。」

「………だってよ?!松井!」
不意に、菊地が俺の名前を呼ぶとカーテンを開ける。

「…え?」
アタルの気の抜けた声が聞こえて、こちらに目を向けた。

「…オス...、ゴメン、隠れてて。」
頭に手をやりながらアタルの目を見る。戸惑いと驚きとで口は開いたままのアタルは、暫く言葉が出てこなかった。






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