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4.小鳥遊部長の推し
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小鳥遊のプレゼン能力だろうか、打ち合わせが終わる頃にはクライアントも上機嫌で帰っていった。来社したときは仏頂面だったというのに小鳥遊にすっかり絆されたのだ。
パワハラ気質のくせにそれを感じさせない誠実な好青年っぷりは御厨も目を疑う。トークの幅広さとユーモアセンスはみるくみくとした見習いたいものであった。
「部長はこのあと戻りますか?」
「あぁ。昼とってから戻る予定だ」
「わかりました。なら私はここ片付けてから戻ります」
するとテーブルに置かれた小鳥遊のスマホが光った。メッセージの通知が流れた瞬間、御厨は目を疑った。
『みるくみくらぶ!【号外】200万人記念会員限定グッズ通販のお知らせ』
あれは昨晩設定した会員向け通販の通知だ。自分で作ったからよく覚えている。しかも有料会員先行だから今この通知が来ているということはこのスマホの持ち主はみるくみくのファンクラブの、有料会員ということになる。
「あ、この画像……」
よく見れば通知の背景に設定されているのは昨晩の配信のあとに配布した200万人記念画像だ。これもみるくみく、というか御厨が描いたのだからよく知っていた。なんならデザイナーに依頼する前のデータも持っているしメイキングも何かに使おうと思っていたから家のパソコンに保存してある。
いや、そんなことより。
(なんで部長が会員限定のメール受信してて、会員限定画像もってるの?!)
動揺を顔に出さないよう慎重に、それでいてギコギコと壊れたブリキのように顔をあげた。
「これか?あぁ、みるくみくっていうvチューバーのやつでさ……」
「へ、へぇ……部長もvチューバーとか知ってるんですね……」
「知ってるっていうか、俺ファンなんだよね。みるくちゃんの」
(みるくちゃん!!)
「あ、みるくちゃんなんて呼んだら失礼だな。みるくさんだよ、みるくさん」
照れくさそうに頬をポッと赤くしながら小鳥遊ははにかんだ。その笑みは見たものの胸を高鳴らせ落ち着かない気分にさせるには十分で普段の小鳥遊を知っている者なら心臓を握られたような気分になっても不思議はない。
「そうなんですねー」
「ずっと前から推してるんだ。でもこれは黙っていてくれよ」
「v推しは秘密なんですか?」
「だって……俺みたいなのがアイドルハマってるって言ったら変な目でみられるだろ?」
「vはアイドルとは違いますけどね」
「そうなのか?」
「ほ、ほら!だってvチューバーってアバターじゃないですか!実際のアイドルってわけじゃありませんし……」
「言われてみれば……」
「でーいいんですか?お知らせ」
「そうだった!今日からのグッズの通販はじまったんだ!昨日チャンネル登録者数が200万超えてさ~、その先行なんだけど……」
「あ~ソウナンデスネー。でしたら鍵は私が返しておくので部長は先にどうぞー」
「い、いいのか!?」
「えぇ……このくらい」
「この礼は必ず。限定グッズのタンブラー欲しくて……残ってるといいけど……」
「受注だから大丈夫ですよ」
「え?」
「あ、いえ!なんでもないです!」
いつもなら追求されそうだが通販開始で落ち着かないのだろう、小鳥遊はあまり気にせずスマホの画面を操作しながら会議室を後にした。
タンブラーがほしいなら、御厨の家にあるからあげるのに。
小鳥遊の背中にむかって小さく手を振った。
頭の先から爪先まで嫌な汗がだらだらと吹き出した。
(小鳥遊部長がっ!みるくみく(私)のガチオタ!!)
(そんなのアリか!!ていうか、誰!?!?)
会議室を片付けると事務所に戻るより前に物陰でスマホを開く。自分のSNSを開くが十万を超えるフォロワーから小鳥遊を見つけ出すなんて不可能だ。鍵をかけているフォロワーも珍しくないしみつけようがない。
有料会員も同じ。
御厨は頭を抱えた。
(よりにもよって、あのパワハラ気質でリアルが誰より充実していて港区で遊んでいてvチューバーを鼻で笑っていそうな、小鳥遊部長がっ!!)
「うそでしょ……」
視界がぐらつく目眩がして背中を壁に押し付けた。ひんやりとした壁が心地よいく、熱が冷めて頭が落ち着いていく。
「もう!あの女本っ当ムカつく!なんなの!?モサい地味女のくせに」
佐野とその取り巻きたちだ。
今は会いたくない。空き部屋に身を隠し息を潜めた。やましいことはないが佐野の相手をしている余裕はなかった。
「なんでアイツが小鳥遊さんの部下なのよ……」
「まぁまぁ、稲尾さんだって今は佐野さん一筋なんですから」
「そうですよ。雑用で便利だからでしょ?西原さんに雑用なんかさせられませんし」
「……それもそうね~。私がいたら目立っちゃうし雑用係なんかやらせられないもんね」
「フォロワー2万人の大人気インフルエンサーにそんなことさせられませんって!」
「はぁ、小鳥遊さんみたいなイケメンが来るって知ってたら企画の誘い断らなかったのに!」
「あんな地味女でも企画でやってけるんだから企画ってラクなんですかねー」
「まぁ人数半分に減らされましたよね」
好き勝手言って……。
御厨はぐっと拳を握りしめた。たしかに御厨は目立たないよう地味な容姿をしている。華やかな化粧も手入れの行き届いたヘアスタイルもブランドモノの衣服もバッグも御厨には必要なかった。いくら企画部とはいえ佐野の派手な容姿は華美だとすら考えている。
企画イコール派手ではないというのに。
佐野たちの姿がないことを確認して御厨は素早く事務所に戻った。
今はとにかく、小鳥遊のことをなんとかしなくては……。
パワハラ気質のくせにそれを感じさせない誠実な好青年っぷりは御厨も目を疑う。トークの幅広さとユーモアセンスはみるくみくとした見習いたいものであった。
「部長はこのあと戻りますか?」
「あぁ。昼とってから戻る予定だ」
「わかりました。なら私はここ片付けてから戻ります」
するとテーブルに置かれた小鳥遊のスマホが光った。メッセージの通知が流れた瞬間、御厨は目を疑った。
『みるくみくらぶ!【号外】200万人記念会員限定グッズ通販のお知らせ』
あれは昨晩設定した会員向け通販の通知だ。自分で作ったからよく覚えている。しかも有料会員先行だから今この通知が来ているということはこのスマホの持ち主はみるくみくのファンクラブの、有料会員ということになる。
「あ、この画像……」
よく見れば通知の背景に設定されているのは昨晩の配信のあとに配布した200万人記念画像だ。これもみるくみく、というか御厨が描いたのだからよく知っていた。なんならデザイナーに依頼する前のデータも持っているしメイキングも何かに使おうと思っていたから家のパソコンに保存してある。
いや、そんなことより。
(なんで部長が会員限定のメール受信してて、会員限定画像もってるの?!)
動揺を顔に出さないよう慎重に、それでいてギコギコと壊れたブリキのように顔をあげた。
「これか?あぁ、みるくみくっていうvチューバーのやつでさ……」
「へ、へぇ……部長もvチューバーとか知ってるんですね……」
「知ってるっていうか、俺ファンなんだよね。みるくちゃんの」
(みるくちゃん!!)
「あ、みるくちゃんなんて呼んだら失礼だな。みるくさんだよ、みるくさん」
照れくさそうに頬をポッと赤くしながら小鳥遊ははにかんだ。その笑みは見たものの胸を高鳴らせ落ち着かない気分にさせるには十分で普段の小鳥遊を知っている者なら心臓を握られたような気分になっても不思議はない。
「そうなんですねー」
「ずっと前から推してるんだ。でもこれは黙っていてくれよ」
「v推しは秘密なんですか?」
「だって……俺みたいなのがアイドルハマってるって言ったら変な目でみられるだろ?」
「vはアイドルとは違いますけどね」
「そうなのか?」
「ほ、ほら!だってvチューバーってアバターじゃないですか!実際のアイドルってわけじゃありませんし……」
「言われてみれば……」
「でーいいんですか?お知らせ」
「そうだった!今日からのグッズの通販はじまったんだ!昨日チャンネル登録者数が200万超えてさ~、その先行なんだけど……」
「あ~ソウナンデスネー。でしたら鍵は私が返しておくので部長は先にどうぞー」
「い、いいのか!?」
「えぇ……このくらい」
「この礼は必ず。限定グッズのタンブラー欲しくて……残ってるといいけど……」
「受注だから大丈夫ですよ」
「え?」
「あ、いえ!なんでもないです!」
いつもなら追求されそうだが通販開始で落ち着かないのだろう、小鳥遊はあまり気にせずスマホの画面を操作しながら会議室を後にした。
タンブラーがほしいなら、御厨の家にあるからあげるのに。
小鳥遊の背中にむかって小さく手を振った。
頭の先から爪先まで嫌な汗がだらだらと吹き出した。
(小鳥遊部長がっ!みるくみく(私)のガチオタ!!)
(そんなのアリか!!ていうか、誰!?!?)
会議室を片付けると事務所に戻るより前に物陰でスマホを開く。自分のSNSを開くが十万を超えるフォロワーから小鳥遊を見つけ出すなんて不可能だ。鍵をかけているフォロワーも珍しくないしみつけようがない。
有料会員も同じ。
御厨は頭を抱えた。
(よりにもよって、あのパワハラ気質でリアルが誰より充実していて港区で遊んでいてvチューバーを鼻で笑っていそうな、小鳥遊部長がっ!!)
「うそでしょ……」
視界がぐらつく目眩がして背中を壁に押し付けた。ひんやりとした壁が心地よいく、熱が冷めて頭が落ち着いていく。
「もう!あの女本っ当ムカつく!なんなの!?モサい地味女のくせに」
佐野とその取り巻きたちだ。
今は会いたくない。空き部屋に身を隠し息を潜めた。やましいことはないが佐野の相手をしている余裕はなかった。
「なんでアイツが小鳥遊さんの部下なのよ……」
「まぁまぁ、稲尾さんだって今は佐野さん一筋なんですから」
「そうですよ。雑用で便利だからでしょ?西原さんに雑用なんかさせられませんし」
「……それもそうね~。私がいたら目立っちゃうし雑用係なんかやらせられないもんね」
「フォロワー2万人の大人気インフルエンサーにそんなことさせられませんって!」
「はぁ、小鳥遊さんみたいなイケメンが来るって知ってたら企画の誘い断らなかったのに!」
「あんな地味女でも企画でやってけるんだから企画ってラクなんですかねー」
「まぁ人数半分に減らされましたよね」
好き勝手言って……。
御厨はぐっと拳を握りしめた。たしかに御厨は目立たないよう地味な容姿をしている。華やかな化粧も手入れの行き届いたヘアスタイルもブランドモノの衣服もバッグも御厨には必要なかった。いくら企画部とはいえ佐野の派手な容姿は華美だとすら考えている。
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