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第5話:サンタクロースと黄色い風
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クリスマスが、近づいてきていた。
こもれびベーカリーの店内にも、小さな飾り付けが増えてゆく。
入口には柚葉が手づくりしたリース、レジの横にはガラスの小さなツリー。そしてベンチのそばには、あの日のマフラーがそっと巻かれていた。
「ねえ柚葉さん。サンタクロースって、本当にいると思う?」
午後の焼き上がりを待っていたとき、風太くんがぽつりとたずねた。
その目は、真剣そのもので、だけどどこか不安げでもあった。
柚葉は少しだけ考えてから、ふっと笑った。
「うん、いると思うよ」
「……ほんとに?」
「“サンタクロース”ってね、姿は見えないけど、気持ちを届ける人のことなんじゃないかな。だから、風太くんが大切な誰かのことを思って書いた手紙も、
マフラーや手袋を置いていった誰かの気持ちも——それはもう、立派なサンタクロースのしわざ、なんじゃないかな」
風太くんはその言葉を聞いて、ふうん……と小さくうなずき、それからニヤッと笑った。
「じゃあさ、ぼく、来年は“サンタクロース見習い”になる!」
「それはすごい! じゃあ、何からはじめる?」
「まずは……誰かを笑顔にできることを、ひとつずつ!」
柚葉は、まるで自分の昔の姿を見ているような気がして、胸がじんわりとした。
•
その夜、ベーカリーの前のベンチに、またひとつ封筒が置かれていた。
差出人はない。宛名も、ただこう書かれていた。
「たいせつな、誰かへ」
柚葉がそっと封を開けてみると、中には短い文章と、小さな紙の星が一枚。
「あなたが寒いとき、誰かがそっとブランケットをかけてくれますように。
あなたが悲しいとき、誰かの笑顔が届きますように。
この世界のどこかで、あなたがちゃんと“だいじょうぶ”でありますように。」
その言葉に、柚葉は静かに息をのんだ。
目に見えないけれど、確かにここには“やさしさ”がある。
それは、名前のない贈り物。声に出されない想い。けれど確かに、人をあたためる魔法。
•
次の日、柚葉は小さなカードをいくつか用意した。
ベンチのそばに「やさしさの木箱」と書かれた小箱を設置し、その横に小さな札を添えた。
「ここに気持ちをのせてみませんか?
あたたかい言葉、そっと手を差し伸べたい誰かへのメッセージ、届けたい想い。
この木箱に入れたら、きっとどこかで誰かが受け取ってくれるかもしれません。」
それは“サンタクロース見習い”としての、風太くんとの小さなはじまり。
そして柚葉自身が、今も受け取り続けているものを、次の誰かにそっと渡していくための箱だった。
•
クリスマス当日の朝。
雪が町を真っ白に染めたその日。
柚葉が店を開けると、ベンチにはまた、黄色いマフラーが置かれていた。
けれど今度は、その隣に、小さな雪だるまがちょこんと座っていた。
そして雪だるまの胸元には、こんな札が結ばれていた。
「たいせつなものは、きっとまた巡りあえる。
あたたかさも、やさしさも、手紙も——それは風みたいに、いつか誰かに届いていく。
メリークリスマス。あなたにも。」
柚葉はマフラーをそっと胸に抱いた。
どこか遠くで風が吹いた。木の葉が舞い、雪がやさしく舞い降りた。
その日から、こもれびベーカリーのベンチは、町でいちばんやさしい「ポスト」になった。
——やさしさは、姿が見えなくても、生きている。
こもれびベーカリーの店内にも、小さな飾り付けが増えてゆく。
入口には柚葉が手づくりしたリース、レジの横にはガラスの小さなツリー。そしてベンチのそばには、あの日のマフラーがそっと巻かれていた。
「ねえ柚葉さん。サンタクロースって、本当にいると思う?」
午後の焼き上がりを待っていたとき、風太くんがぽつりとたずねた。
その目は、真剣そのもので、だけどどこか不安げでもあった。
柚葉は少しだけ考えてから、ふっと笑った。
「うん、いると思うよ」
「……ほんとに?」
「“サンタクロース”ってね、姿は見えないけど、気持ちを届ける人のことなんじゃないかな。だから、風太くんが大切な誰かのことを思って書いた手紙も、
マフラーや手袋を置いていった誰かの気持ちも——それはもう、立派なサンタクロースのしわざ、なんじゃないかな」
風太くんはその言葉を聞いて、ふうん……と小さくうなずき、それからニヤッと笑った。
「じゃあさ、ぼく、来年は“サンタクロース見習い”になる!」
「それはすごい! じゃあ、何からはじめる?」
「まずは……誰かを笑顔にできることを、ひとつずつ!」
柚葉は、まるで自分の昔の姿を見ているような気がして、胸がじんわりとした。
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その夜、ベーカリーの前のベンチに、またひとつ封筒が置かれていた。
差出人はない。宛名も、ただこう書かれていた。
「たいせつな、誰かへ」
柚葉がそっと封を開けてみると、中には短い文章と、小さな紙の星が一枚。
「あなたが寒いとき、誰かがそっとブランケットをかけてくれますように。
あなたが悲しいとき、誰かの笑顔が届きますように。
この世界のどこかで、あなたがちゃんと“だいじょうぶ”でありますように。」
その言葉に、柚葉は静かに息をのんだ。
目に見えないけれど、確かにここには“やさしさ”がある。
それは、名前のない贈り物。声に出されない想い。けれど確かに、人をあたためる魔法。
•
次の日、柚葉は小さなカードをいくつか用意した。
ベンチのそばに「やさしさの木箱」と書かれた小箱を設置し、その横に小さな札を添えた。
「ここに気持ちをのせてみませんか?
あたたかい言葉、そっと手を差し伸べたい誰かへのメッセージ、届けたい想い。
この木箱に入れたら、きっとどこかで誰かが受け取ってくれるかもしれません。」
それは“サンタクロース見習い”としての、風太くんとの小さなはじまり。
そして柚葉自身が、今も受け取り続けているものを、次の誰かにそっと渡していくための箱だった。
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クリスマス当日の朝。
雪が町を真っ白に染めたその日。
柚葉が店を開けると、ベンチにはまた、黄色いマフラーが置かれていた。
けれど今度は、その隣に、小さな雪だるまがちょこんと座っていた。
そして雪だるまの胸元には、こんな札が結ばれていた。
「たいせつなものは、きっとまた巡りあえる。
あたたかさも、やさしさも、手紙も——それは風みたいに、いつか誰かに届いていく。
メリークリスマス。あなたにも。」
柚葉はマフラーをそっと胸に抱いた。
どこか遠くで風が吹いた。木の葉が舞い、雪がやさしく舞い降りた。
その日から、こもれびベーカリーのベンチは、町でいちばんやさしい「ポスト」になった。
——やさしさは、姿が見えなくても、生きている。
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