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飴玉の効果 2
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その後は、全く彼女を見ないようにして食事を済ませた。
兎に角。これで十秒間はクリアした筈なのだ。しかし、これで終わりでは無い。
少し時間を置いてから見つめなければならないパターンを想定して、再度。篠原恵子を見つめる作戦をやる必要がある。
今の所、彼女の心境の変化は分からない。だが、俺も彼女に対する感情に変化が無い時点で、効果は出ていないと思われる。
いや。こんな事を考えている時点で、飴の効果を信じている事になってしまうのだが。実際には最初から、そんな効果が無い可能性の方が高い。
だが、もしも飴が本物であった場合。
たった一つしかない飴を、無駄にはしたくない。全力で可能性に賭けてみる事にしたのだ。
次のチャンスは、この後の体育だ。
女子は体育館でバレーボール。男子も同じ体育館の半分でバスケ。さすがにバレーボール中ならば、バスケをしてる男子と目が合う事は無いだろう。十秒間くらい楽勝の筈だ。
俺は、その為だけに今回の体育を仮病で見学にしたのだから。
そして。体育の時間になり、俺は体育館の端に座る。
敢えて、女子エリア寄りの場所に。体育が始まって十分程過ぎた頃。女子も男子も試合形式の練習になり、ごちゃごちゃし始めたので、このタイミングしかないと思った。
篠原恵子はバレーボールの試合中。相手コートにしか視線が向いていない。俺は彼女を見つめ始めた。
一。二。三……。と頭の中でカウントを始める。
今回は十秒間が楽に過ぎると思っていたが、ふと篠原恵子の視線がこちらに向いた。どうやら弾かれたバレーボールが、俺の方に転がってきたようだ。
余裕を持って残り二秒程。その時間を何が何でも彼女への視線に集中した。そして最後の最後で、また彼女と目が合ってしまった。
時間はクリアしたので、直ぐに転がって来たボールを受け止めて、女子の方に転がし返した。
十秒間という時間が、こんなに長く感じた日は今日が初めてかもしれない。とりあえず条件的にはクリアした筈だ。
後は効果の方だが。俺は既にやり尽くした感が凄くて、以後は彼女を見る事は避けていたが、彼女も特に俺に対して何か変わった所は無いっぽい。効果ぎ出始める時間も曖昧なので、下校までは分からないが。ここに来て九〇パーセント諦めていた。
そして放課後。
帰り間際……と、言っても。彼女は部活に行くのだろうが。隣の席の彼女、つまり篠原恵子が俺に声をかけて来た。
「柏崎くん。今日、体育休んでたね。体調悪いの?」
「あ、あぁ。ちょっとな」
いつもの彼女だ。これくらいの事は、普通に話し掛けてきてくれるのが篠原恵子という女子である。他の女子は何の用も無いのに、そんな気遣いをしない。
だから俺は彼女に心を奪われた。チョロい男なのだ。
「そっか。気を付けてね。じゃあ、また明日」
「お、おう」
こうして何事も無く一日が終わった。ポケットの中には例の飴の袋が残っていて、それを取り出して俺は深い溜め息を吐いた。
全く自分がバカだと思った。そんな事がある筈は無いのだと、今更の様に思ったのだ。漸く、一〇〇パーセント飴は擬物だったと理解して俺は帰宅した。
精神的に疲れたのか、不思議とその日は篠原恵子の事を考える事は無かった。変なモノに頼ろうとした罪悪感なのか、ここまでしてダメだった事に妙に諦めがついたのか、それは分からない。
翌朝。日曜日だ。
日曜日は一日中ゲームをしたり、アニメを観ていたり。基本的に俺はインドアだ。学校にいる時と違い、好きな事をして過ごしている為か時間が経つのは早い。
あっという間に一日は過ぎ。翌日。
いつもの様に登校した。
教室に行くと、数少ない友人の一人が話し掛けて来る。内容は共通の趣味の話。昨日の深夜アニメの話とか、ゲームの話で盛り上がっていた所で、篠原恵子が近付いて来て俺に声をかけた。
いつもの様に。誰にでも平等な感じで。
「柏崎くん、おはよう。体調治った?」
「おはよう、篠原さん。あぁ、大丈夫だよ。心配してくれてありがとな」
「そっかぁ。良かったね」
俺も普通に返した。友達と話してた途中だったからか。あの篠原恵子相手に、とても自然に接していた事に俺は気付かなかった。
授業中も休み時間も、俺は不思議と隣の席の彼女を気にする事は無かった。いや、元々二十四時間意識していたわけではないのだが。
しかし、昼休み。突然異変が起きた。
友人と昼食をとった後、俺は一人で教室でスマホを見ていた。Web小説を見るのが俺にとって日課だったからだ。
最近お気に入りの小説が更新されていたので、それに夢中になっていると、俺の後ろから突如声が聞こえた。
「柏崎くんも、そのサイト見てるんだぁ」
今までにない距離で話しかけてきたのは、篠原恵子だった。
俺の直ぐ後ろから、覗き込むような感じで声をかけられたので、彼女のシャンプーの香りまで感じた。
何が起きたのか一瞬分からず、俺が唖然としていると。彼女は申し訳なさそうに謝り、話を続けた。
「あ。急にごめんね……私もWeb小説好きなんだぁ」
「え!?そうなの?」
「うん。私、結構ラノベとか好きだから」
「うそ!マジで?アニメとかも?」
「あ~。やっぱりそうなんだ。うん、アニメ好き。なんか、周りにそういう人いないから。話せなくってさ」
「まぁ。オタクってイメージあるからな」
「そうなの。別に趣味なんだから良いと思うんだけど。なんか……その、言いづらいじゃない?」
「あー!分かるわ!それ!」
俺の中の彼女は、どう見てもクラスのムードメーカーで、どう見てもスポーツ一筋で、アクティブなイメージだった。
それが意外とアニメ、ラノベ好きだったわけだ。なんか一気に彼女が近くに感じた。
それがキッカケとなり、俺は彼女と自然に話出来る様になった。
結局。飴の効果は無かったわけだが、そんな事はもうどうでも良かった。好きとかどうとかじゃなく、彼女と自然に共通の話題が出来ただけで、俺は人生が楽しくなった気分だった。
兎に角。これで十秒間はクリアした筈なのだ。しかし、これで終わりでは無い。
少し時間を置いてから見つめなければならないパターンを想定して、再度。篠原恵子を見つめる作戦をやる必要がある。
今の所、彼女の心境の変化は分からない。だが、俺も彼女に対する感情に変化が無い時点で、効果は出ていないと思われる。
いや。こんな事を考えている時点で、飴の効果を信じている事になってしまうのだが。実際には最初から、そんな効果が無い可能性の方が高い。
だが、もしも飴が本物であった場合。
たった一つしかない飴を、無駄にはしたくない。全力で可能性に賭けてみる事にしたのだ。
次のチャンスは、この後の体育だ。
女子は体育館でバレーボール。男子も同じ体育館の半分でバスケ。さすがにバレーボール中ならば、バスケをしてる男子と目が合う事は無いだろう。十秒間くらい楽勝の筈だ。
俺は、その為だけに今回の体育を仮病で見学にしたのだから。
そして。体育の時間になり、俺は体育館の端に座る。
敢えて、女子エリア寄りの場所に。体育が始まって十分程過ぎた頃。女子も男子も試合形式の練習になり、ごちゃごちゃし始めたので、このタイミングしかないと思った。
篠原恵子はバレーボールの試合中。相手コートにしか視線が向いていない。俺は彼女を見つめ始めた。
一。二。三……。と頭の中でカウントを始める。
今回は十秒間が楽に過ぎると思っていたが、ふと篠原恵子の視線がこちらに向いた。どうやら弾かれたバレーボールが、俺の方に転がってきたようだ。
余裕を持って残り二秒程。その時間を何が何でも彼女への視線に集中した。そして最後の最後で、また彼女と目が合ってしまった。
時間はクリアしたので、直ぐに転がって来たボールを受け止めて、女子の方に転がし返した。
十秒間という時間が、こんなに長く感じた日は今日が初めてかもしれない。とりあえず条件的にはクリアした筈だ。
後は効果の方だが。俺は既にやり尽くした感が凄くて、以後は彼女を見る事は避けていたが、彼女も特に俺に対して何か変わった所は無いっぽい。効果ぎ出始める時間も曖昧なので、下校までは分からないが。ここに来て九〇パーセント諦めていた。
そして放課後。
帰り間際……と、言っても。彼女は部活に行くのだろうが。隣の席の彼女、つまり篠原恵子が俺に声をかけて来た。
「柏崎くん。今日、体育休んでたね。体調悪いの?」
「あ、あぁ。ちょっとな」
いつもの彼女だ。これくらいの事は、普通に話し掛けてきてくれるのが篠原恵子という女子である。他の女子は何の用も無いのに、そんな気遣いをしない。
だから俺は彼女に心を奪われた。チョロい男なのだ。
「そっか。気を付けてね。じゃあ、また明日」
「お、おう」
こうして何事も無く一日が終わった。ポケットの中には例の飴の袋が残っていて、それを取り出して俺は深い溜め息を吐いた。
全く自分がバカだと思った。そんな事がある筈は無いのだと、今更の様に思ったのだ。漸く、一〇〇パーセント飴は擬物だったと理解して俺は帰宅した。
精神的に疲れたのか、不思議とその日は篠原恵子の事を考える事は無かった。変なモノに頼ろうとした罪悪感なのか、ここまでしてダメだった事に妙に諦めがついたのか、それは分からない。
翌朝。日曜日だ。
日曜日は一日中ゲームをしたり、アニメを観ていたり。基本的に俺はインドアだ。学校にいる時と違い、好きな事をして過ごしている為か時間が経つのは早い。
あっという間に一日は過ぎ。翌日。
いつもの様に登校した。
教室に行くと、数少ない友人の一人が話し掛けて来る。内容は共通の趣味の話。昨日の深夜アニメの話とか、ゲームの話で盛り上がっていた所で、篠原恵子が近付いて来て俺に声をかけた。
いつもの様に。誰にでも平等な感じで。
「柏崎くん、おはよう。体調治った?」
「おはよう、篠原さん。あぁ、大丈夫だよ。心配してくれてありがとな」
「そっかぁ。良かったね」
俺も普通に返した。友達と話してた途中だったからか。あの篠原恵子相手に、とても自然に接していた事に俺は気付かなかった。
授業中も休み時間も、俺は不思議と隣の席の彼女を気にする事は無かった。いや、元々二十四時間意識していたわけではないのだが。
しかし、昼休み。突然異変が起きた。
友人と昼食をとった後、俺は一人で教室でスマホを見ていた。Web小説を見るのが俺にとって日課だったからだ。
最近お気に入りの小説が更新されていたので、それに夢中になっていると、俺の後ろから突如声が聞こえた。
「柏崎くんも、そのサイト見てるんだぁ」
今までにない距離で話しかけてきたのは、篠原恵子だった。
俺の直ぐ後ろから、覗き込むような感じで声をかけられたので、彼女のシャンプーの香りまで感じた。
何が起きたのか一瞬分からず、俺が唖然としていると。彼女は申し訳なさそうに謝り、話を続けた。
「あ。急にごめんね……私もWeb小説好きなんだぁ」
「え!?そうなの?」
「うん。私、結構ラノベとか好きだから」
「うそ!マジで?アニメとかも?」
「あ~。やっぱりそうなんだ。うん、アニメ好き。なんか、周りにそういう人いないから。話せなくってさ」
「まぁ。オタクってイメージあるからな」
「そうなの。別に趣味なんだから良いと思うんだけど。なんか……その、言いづらいじゃない?」
「あー!分かるわ!それ!」
俺の中の彼女は、どう見てもクラスのムードメーカーで、どう見てもスポーツ一筋で、アクティブなイメージだった。
それが意外とアニメ、ラノベ好きだったわけだ。なんか一気に彼女が近くに感じた。
それがキッカケとなり、俺は彼女と自然に話出来る様になった。
結局。飴の効果は無かったわけだが、そんな事はもうどうでも良かった。好きとかどうとかじゃなく、彼女と自然に共通の話題が出来ただけで、俺は人生が楽しくなった気分だった。
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