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飴玉の効果 1
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十秒間見つめると、見つめられた人は俺の事が気になって仕方なくなる。逆に、俺はその人を気にならなくなってしまう飴玉。
そんな飴玉を渡された――――
飴玉をくれた人は白いデニムに、赤いTシャツだけのラフな格好の男性。身長は俺と同じくらいだろうか。おおよそ一七〇センチ程。痩せ型で少し筋肉質。短髪の金髪にピアス、シルバーの喜平ネックレス。顔は強面。名前は知らない。
俺には、怖い人以外の何者でもなかった。
そんな俺の名前は柏崎圭吾。現在、高校二年の十六歳。勉強、スポーツ、特に良くも悪くも無い男子。
年頃の男の子らしく、一応好きな人もいる。
ただ。友達は極僅かで、人との付き合いは苦手な方だ。故にクラスでは少し浮いた存在だと自覚している。
俺の好きな人。
彼女との出会いは高校一年生の時。一緒なクラスで隣の席になったのがキッカケだ。
比較的友達を作るのが苦手な俺に、最初に話し掛けてきたのが彼女。名前は篠原恵子。
彼女は、クラスの誰よりも最初に俺に声をかけてくれた。
「私、篠原恵子。よろしくね、柏崎圭吾くん。あはは、名前似てるね」
それから僅か一ヶ月程で、俺の中では彼女の存在が大きくなっていた。
隣の席の女子が、そこそこ可愛くて。頻繁に話し掛けて来てくれる唯一の女子。それだけで、女子に免疫の無い俺の心に入り込まれるのは容易かったのだ。
だが彼女は誰に対しても話し掛ける、コミュ力高めの女子。
俺に話し掛けるのが特別なわけではない。そんな事は分かっているのだが、日増しに俺の想いは高まっていった。
もし彼女と付き合えたなら、なんてそんな贅沢は望まない。ただ間違いなく好きだった……それだけだったのだ。
自分から行動する勇気なんて無いのだから。
そのまま俺は二年になり。またしても、篠原恵子と一緒なクラスで、またしても隣の席。もはや運命を感じてもおかしくない。
そして、先程。
俺は白デニムの男に出会ったのだ。男は突然現れて、俺が何を言ったわけでも無く、その飴を差し出して唐突に語りだした。
「これは君を変える飴だ。そう、例えば。君がこれを食べた後に誰かを十秒間見つめたとしよう。
すると見つめられた者は君の事が、気になって仕方なくなる」
「あの……何、言ってるんですか?」
「ただし。逆に君は、その人の事を気にならなくなってしまう。さて、どう使うかは君次第だ。あげるよ、はい」
その男は人の話も聞かず、俺に飴を渡して去って行った。
突然渡され戸惑ったが。男はスタスタ去って行き、あっという間に見えなくなった。
俺は手のひらに残った飴玉を見詰めて、男の言葉を思い出したのだが。どういう状況で使うのかを先ず悩んだ。
相手は俺の事が気になるけど、俺は相手の事を気にしなくなる。
相手に気にしてもらいたくて使うのか、それとも相手の事を意識したくない時に使うのか。使い道はどちらでも良い。
俺がもし誰かに……そう例えば、篠原恵子にフラレたとしたら。彼女に使う事により、俺は傷心を忘れる方向にも使う事が出来るだろう。
だが、俺と彼女はそんな関係じゃない。
今これを使えば、彼女は急に俺が気になり出すのか。そして、彼女の方から俺を好きになってくれたりするのだろうか?
しかしその場合、俺が彼女の事を好きじゃなくなるのか。
それは本末転倒ではないか?いや、彼女に好かれたいという本末は転倒していない。
そもそも、こんな飴を信じる自分がバカらしかった。
全く知らない人間から、飴玉を渡されただけでも警戒するべきなのだ。そんなのは、子供だって知っている事。
ましてや、そんな都合の良い……いや、都合が良いのかは微妙ではあるが。人を操るような力が発揮される筈が無い、と考えるべきなのだ。
問題は、誰も信じない嘘をつく理由が分からなかった。それが俺の心に、逆にほんの僅かだけ信じる心を宿らせていた。
もし、これを食べて篠原恵子を見つめたら……そう、考えると俺は試さずには、いられなかったのだ。
そう。この時既に俺は、彼女を振り向かせたいという気持ちで一杯だったのだろう。
翌日。俺は学校に飴玉を持って登校した。
使用方法等の説明は何も無い。ただ、食べて見つめる……と聞いただけであり、食べてからどれくらいで効果が現れるのか、どれくらいで効果が消えるのか、使用方法は一切が謎だったのだ。
故に。試すのであれば、食べて直ぐに十秒間見つめる。暫く経ってから再び十秒間見つめる……と、最低でも二回は見つめるのが万全な対策であろう。
俺は昨夜、鏡の前で自分を十秒間見つめてみた。勿論、テストである。十秒間見つめるのが、どれ程の時間かを知る為だ。
一秒でも足りなかったら効果が出ない場合、パーになってしまう可能性を考慮すれば、目安は十二秒程だ。
これが結構長い。
もし、途中で目が合った時に目を剃らしては意味が無いので、それを考えるとスタートを見極めなければならない。
対象がこちらを向きそうにない状況で、一方的に、見つめる必要があるのだ。
俺は昼休みに決めた。
昼休みは多くの学生が学食で友達と昼食を食べている時間だ。それならば、篠原恵子も友達との会話や食事に夢中になっているから。こちらを向く可能性は少ないと思った。
そして昼休み。
俺は敢えて数少ない友達の誘いを断り。少し遅れて一人で学食に行くと、既に篠原恵子は友達四人と一つのテーブルに座り、昼食を食べ始めていた。
俺は彼女達から少し離れた所に座る。勿論、対象である篠原恵子の斜め後ろだ。
何故、真後ろではないかというと。少しは対象の顔が確認出来なければダメだ……なんて条件がある可能性も考えた。
そして俺は飴を口に含む。
口の中に意外と甘い味が広がる。普通に美味しいと感じながらも俺は彼女、篠原恵子を見つめた。斜め後ろから。
カウントダウン開始だ。
一。二。三……。順調にカウントダウンを開始していると、八秒程で彼女の首がこちらに回り始めたのだ。
よく見ると、彼女の向かい側に座っている女子。つまり、彼女の友人らしき女子が俺に気付いたか。こちらをチラ見しながら何かを喋っている。
予想だが。俺が見てるという事を彼女に言ったのかもしれない。それで、彼女は『だれ?だれ?』って感じで、振り向いたのだと推測出来る。
篠原恵子が振り向き、俺と目が合った時点で既に十秒間は経っていると俺は体感していた。
しかし、念のためのプラスαを稼ぐ為に俺と彼女は、おそらく一秒程バッチリ目が合っていた。直ぐに視線を微妙に横に外したが、彼女も、気付いたか気付いていないか定かでは無いが。
直ぐに友達の方に向き直ったのだ。
そんな飴玉を渡された――――
飴玉をくれた人は白いデニムに、赤いTシャツだけのラフな格好の男性。身長は俺と同じくらいだろうか。おおよそ一七〇センチ程。痩せ型で少し筋肉質。短髪の金髪にピアス、シルバーの喜平ネックレス。顔は強面。名前は知らない。
俺には、怖い人以外の何者でもなかった。
そんな俺の名前は柏崎圭吾。現在、高校二年の十六歳。勉強、スポーツ、特に良くも悪くも無い男子。
年頃の男の子らしく、一応好きな人もいる。
ただ。友達は極僅かで、人との付き合いは苦手な方だ。故にクラスでは少し浮いた存在だと自覚している。
俺の好きな人。
彼女との出会いは高校一年生の時。一緒なクラスで隣の席になったのがキッカケだ。
比較的友達を作るのが苦手な俺に、最初に話し掛けてきたのが彼女。名前は篠原恵子。
彼女は、クラスの誰よりも最初に俺に声をかけてくれた。
「私、篠原恵子。よろしくね、柏崎圭吾くん。あはは、名前似てるね」
それから僅か一ヶ月程で、俺の中では彼女の存在が大きくなっていた。
隣の席の女子が、そこそこ可愛くて。頻繁に話し掛けて来てくれる唯一の女子。それだけで、女子に免疫の無い俺の心に入り込まれるのは容易かったのだ。
だが彼女は誰に対しても話し掛ける、コミュ力高めの女子。
俺に話し掛けるのが特別なわけではない。そんな事は分かっているのだが、日増しに俺の想いは高まっていった。
もし彼女と付き合えたなら、なんてそんな贅沢は望まない。ただ間違いなく好きだった……それだけだったのだ。
自分から行動する勇気なんて無いのだから。
そのまま俺は二年になり。またしても、篠原恵子と一緒なクラスで、またしても隣の席。もはや運命を感じてもおかしくない。
そして、先程。
俺は白デニムの男に出会ったのだ。男は突然現れて、俺が何を言ったわけでも無く、その飴を差し出して唐突に語りだした。
「これは君を変える飴だ。そう、例えば。君がこれを食べた後に誰かを十秒間見つめたとしよう。
すると見つめられた者は君の事が、気になって仕方なくなる」
「あの……何、言ってるんですか?」
「ただし。逆に君は、その人の事を気にならなくなってしまう。さて、どう使うかは君次第だ。あげるよ、はい」
その男は人の話も聞かず、俺に飴を渡して去って行った。
突然渡され戸惑ったが。男はスタスタ去って行き、あっという間に見えなくなった。
俺は手のひらに残った飴玉を見詰めて、男の言葉を思い出したのだが。どういう状況で使うのかを先ず悩んだ。
相手は俺の事が気になるけど、俺は相手の事を気にしなくなる。
相手に気にしてもらいたくて使うのか、それとも相手の事を意識したくない時に使うのか。使い道はどちらでも良い。
俺がもし誰かに……そう例えば、篠原恵子にフラレたとしたら。彼女に使う事により、俺は傷心を忘れる方向にも使う事が出来るだろう。
だが、俺と彼女はそんな関係じゃない。
今これを使えば、彼女は急に俺が気になり出すのか。そして、彼女の方から俺を好きになってくれたりするのだろうか?
しかしその場合、俺が彼女の事を好きじゃなくなるのか。
それは本末転倒ではないか?いや、彼女に好かれたいという本末は転倒していない。
そもそも、こんな飴を信じる自分がバカらしかった。
全く知らない人間から、飴玉を渡されただけでも警戒するべきなのだ。そんなのは、子供だって知っている事。
ましてや、そんな都合の良い……いや、都合が良いのかは微妙ではあるが。人を操るような力が発揮される筈が無い、と考えるべきなのだ。
問題は、誰も信じない嘘をつく理由が分からなかった。それが俺の心に、逆にほんの僅かだけ信じる心を宿らせていた。
もし、これを食べて篠原恵子を見つめたら……そう、考えると俺は試さずには、いられなかったのだ。
そう。この時既に俺は、彼女を振り向かせたいという気持ちで一杯だったのだろう。
翌日。俺は学校に飴玉を持って登校した。
使用方法等の説明は何も無い。ただ、食べて見つめる……と聞いただけであり、食べてからどれくらいで効果が現れるのか、どれくらいで効果が消えるのか、使用方法は一切が謎だったのだ。
故に。試すのであれば、食べて直ぐに十秒間見つめる。暫く経ってから再び十秒間見つめる……と、最低でも二回は見つめるのが万全な対策であろう。
俺は昨夜、鏡の前で自分を十秒間見つめてみた。勿論、テストである。十秒間見つめるのが、どれ程の時間かを知る為だ。
一秒でも足りなかったら効果が出ない場合、パーになってしまう可能性を考慮すれば、目安は十二秒程だ。
これが結構長い。
もし、途中で目が合った時に目を剃らしては意味が無いので、それを考えるとスタートを見極めなければならない。
対象がこちらを向きそうにない状況で、一方的に、見つめる必要があるのだ。
俺は昼休みに決めた。
昼休みは多くの学生が学食で友達と昼食を食べている時間だ。それならば、篠原恵子も友達との会話や食事に夢中になっているから。こちらを向く可能性は少ないと思った。
そして昼休み。
俺は敢えて数少ない友達の誘いを断り。少し遅れて一人で学食に行くと、既に篠原恵子は友達四人と一つのテーブルに座り、昼食を食べ始めていた。
俺は彼女達から少し離れた所に座る。勿論、対象である篠原恵子の斜め後ろだ。
何故、真後ろではないかというと。少しは対象の顔が確認出来なければダメだ……なんて条件がある可能性も考えた。
そして俺は飴を口に含む。
口の中に意外と甘い味が広がる。普通に美味しいと感じながらも俺は彼女、篠原恵子を見つめた。斜め後ろから。
カウントダウン開始だ。
一。二。三……。順調にカウントダウンを開始していると、八秒程で彼女の首がこちらに回り始めたのだ。
よく見ると、彼女の向かい側に座っている女子。つまり、彼女の友人らしき女子が俺に気付いたか。こちらをチラ見しながら何かを喋っている。
予想だが。俺が見てるという事を彼女に言ったのかもしれない。それで、彼女は『だれ?だれ?』って感じで、振り向いたのだと推測出来る。
篠原恵子が振り向き、俺と目が合った時点で既に十秒間は経っていると俺は体感していた。
しかし、念のためのプラスαを稼ぐ為に俺と彼女は、おそらく一秒程バッチリ目が合っていた。直ぐに視線を微妙に横に外したが、彼女も、気付いたか気付いていないか定かでは無いが。
直ぐに友達の方に向き直ったのだ。
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