4 / 6
飴玉の効果 4
しおりを挟む
アニメの話をしていると俺は、すごく自然に彼女と話が出来るのだ。コミュ力不足気味の自分が嘘みたいに。
故に。これだけが、俺と彼女を繋ぐモノだって感じていたのだ。
「――――それでさ。終盤の魔法なんて、アレ完全にチートだよな。アハハ……ちょっと意外だったけど。まぁ、あれはあれで……」
「柏崎くん……」
「え?あぁ、ごめん一人でペラペラ喋って。なに?」
「あのね。私、柏崎くんに謝らないといけない事があるの……」
突然の言葉だった。彼女からとても重い空気を感じで、俺の心臓はドキドキと鳴っていた。もちろん、このタイミングで告白される事なんてある筈は無い。
ならば、半日で何か俺は彼女に、嫌われる事をしたのかもしれない。友達としてもムリと思われたのかもしれない。
そんな悪い想像しか出来なくて急に胸が苦しくなった。だが、次に彼女の口から出た言葉は。
「実は好きです」なんて告白でも無く。
かといって、嫌われたのでも無く。つまりは、どちらでもなくて。でも、それは……俺にとって、言葉を奪われるモノだったのだ。
その後。俺は彼女と大した事も喋らず、彼女の家の近くまで送り。そのまま手を振って「じゃあまた明日」と普通の挨拶をして、それぞれの家に帰ったのだ。
俺はベットに寝転んで、今日一日の事を回想していた。
思えば彼女が一番楽しそうだったのは、食事したり、ゲーセンで遊んでいる時だったのかもしれない。
そして再び、公園で言われた事を思い出した。
『私。本当はラノベもアニメも、そんなに好きじゃないの……ごめんなさい』
別に謝られる事でもないのだ。
人の趣味なんて自由だし、俺は彼女の彼氏とかじゃないし。彼氏だったとしても、彼女に何かを押し付ける事は出来ないのだから。
ただ。俺と彼女にとって共通の話題だった筈で、それを省いたら俺と彼女には何の繋がりがあるのか……なんて考えていた。
あれ?俺、何故、彼女が好きだったんだっけ?
そんな風に思った。
思えば彼女とアニメやラノベの話をしている時は、とても楽しくて、時間が過ぎるのも早くて、俺も自然でいれたのだと思う。
そう。つまり俺は、篠原恵子と共通の話題で盛り上がる事が凄く幸せで、一番彼女を好きだった瞬間なのだと思った。
翌日。篠原恵子と学校で挨拶を交わした。
だが、昨日一緒に観た筈の映画の話なんか出来る筈がなかった。だって彼女は別にアニメが好きではないのだから。彼女は途中から寝てしまっていたくらいなのだから。退屈な時間だったに違いない。
だから、その後のゲーセンでは凄く楽しそうだったのだ。水を得た魚の様な感じだったわけだ。
結局、その日は篠原恵子と話をしなかった。
今まで俺が、自分から彼女と話が出来たのはアニメやラノベがあったからなのだ。それが無くなったら話題なんて、ある筈が無かった。
その週は殆ど篠原恵子と話をしなかった。
彼女が話かけて来そうなタイミングでも、俺は何故か避けてしまっていたのだと思う。
代わりに友人と話をするのが、今まで以上に楽しく感じた。共通の趣味を持っているのだから当然なのだが。
そして日曜日。今日は友人と一緒に映画を観に行った。
特に前日から気合いを入れる事も無く。待ち合わせにも、ジャストの時間で到着する。昼飯もマクドナルドでサッと済まして。一番メインの映画で盛り上がる。
その後は、軽く書店に寄り映画の話を二人で掘り起こす。とても楽しい時間だった。やはり本物の共感を得られる事は、楽しい事なのだと思った。
そして月曜日。学校に行っても友人と昨日の映画の話で盛り上がった。その日、俺はあまり気にしなかったのだが。篠原恵子とは、挨拶も交わしていなかった。
彼女は、あの時の事を凄く気にしている。それが伝わってきた。俺に嘘をついていた罪悪感からだろう。
俺は彼女に裏切られたとまでは思っていない。それでも、やはり少し距離を保ちたかった。友人とアニメの話をしている事が、今の俺は一番楽しかったからだ。
そして俺は気付いたのだ。
これは、飴玉の効果そのものじゃないか。彼女は俺の事が気になって仕方ない。それは恋とかじゃなく、ただ、本当に罪悪感から俺が気になって仕方ないのだ。
そして、俺はどんどん彼女を気にしなくなるのだ。
やはりあの飴玉は本物だった。と、言う事なのか。
それから更に一週間が過ぎた。
だが、俺の中で篠原恵子が気にならなくなったかと言うと、言う程ではない。彼女と話した殆どの事が、虚構だったのかと思うと。寧ろ彼女にとって俺との時間は何だったのか?
そんな事を考える日々だった。寧ろ、彼女の方はかなり諦めたのか、俺に話し掛ける素振りすら見えなくなった。
何と言うか。一番最初より悪い状況だと思う。
そして、ある日の学校からの帰り道。俺は出会ったのだ、あの男に、金髪で白デニムに赤いTシャツの強面の男だ。
俺は無意識に話し掛けていた。
「すいません。飴玉くれた人ですよね?」
男は一瞬、考えるように顎に手を当てたが。直ぐに思い出した様にニコリと笑った。強面だが、意外と笑った顔は親しみ易い感じだ。
「あぁ……君か。飴玉、使ってみたのかい?」
「はい」
「そうか。何に使ったかなんて、野暮な事を聞くつもりはないよ。で?どうだった?使ってみた感想は」
「何て言うか……良かったのか、悪かったのか。正直分かりません」
「そうかそうか。まぁそういうモノだからね。人生なんて、幾つもの問題を解くテストだらけなのさ。
だが正解なんて無いし。間違いも無い。矛盾だらけでも、答えを出す事に意味がある」
「矛盾ですか……そうですね。求めたのは俺なのに、突き放したのも俺なんですもんね」
男は何事も見透かす様な目で俺を見たが、その目は笑っているようにも見える。口元は全然笑ってはいないのだが。
そして、俺に疑問を投げ掛ける。
「ちょっと違うな。君は何を求めたのかな?そして何故、突き放したのかな?本気で求めたモノを突き放すなんて。それは本心で出来る事なのかい?
まぁいい、実際どうだ?飴の効果はあるのか?君は誰かに気にされているのかい?ならば君は何故、その誰かの事を気にしているのかな?効果があったなら、君は今。気にならない筈ではないかな?つまり、そう。
飴玉は最初からただの飴玉だったのかもしれないね」
男は、そう残して俺の前から立ち去った。
その夜。俺は男の言葉の意味を考え続ける事になったのだ。
故に。これだけが、俺と彼女を繋ぐモノだって感じていたのだ。
「――――それでさ。終盤の魔法なんて、アレ完全にチートだよな。アハハ……ちょっと意外だったけど。まぁ、あれはあれで……」
「柏崎くん……」
「え?あぁ、ごめん一人でペラペラ喋って。なに?」
「あのね。私、柏崎くんに謝らないといけない事があるの……」
突然の言葉だった。彼女からとても重い空気を感じで、俺の心臓はドキドキと鳴っていた。もちろん、このタイミングで告白される事なんてある筈は無い。
ならば、半日で何か俺は彼女に、嫌われる事をしたのかもしれない。友達としてもムリと思われたのかもしれない。
そんな悪い想像しか出来なくて急に胸が苦しくなった。だが、次に彼女の口から出た言葉は。
「実は好きです」なんて告白でも無く。
かといって、嫌われたのでも無く。つまりは、どちらでもなくて。でも、それは……俺にとって、言葉を奪われるモノだったのだ。
その後。俺は彼女と大した事も喋らず、彼女の家の近くまで送り。そのまま手を振って「じゃあまた明日」と普通の挨拶をして、それぞれの家に帰ったのだ。
俺はベットに寝転んで、今日一日の事を回想していた。
思えば彼女が一番楽しそうだったのは、食事したり、ゲーセンで遊んでいる時だったのかもしれない。
そして再び、公園で言われた事を思い出した。
『私。本当はラノベもアニメも、そんなに好きじゃないの……ごめんなさい』
別に謝られる事でもないのだ。
人の趣味なんて自由だし、俺は彼女の彼氏とかじゃないし。彼氏だったとしても、彼女に何かを押し付ける事は出来ないのだから。
ただ。俺と彼女にとって共通の話題だった筈で、それを省いたら俺と彼女には何の繋がりがあるのか……なんて考えていた。
あれ?俺、何故、彼女が好きだったんだっけ?
そんな風に思った。
思えば彼女とアニメやラノベの話をしている時は、とても楽しくて、時間が過ぎるのも早くて、俺も自然でいれたのだと思う。
そう。つまり俺は、篠原恵子と共通の話題で盛り上がる事が凄く幸せで、一番彼女を好きだった瞬間なのだと思った。
翌日。篠原恵子と学校で挨拶を交わした。
だが、昨日一緒に観た筈の映画の話なんか出来る筈がなかった。だって彼女は別にアニメが好きではないのだから。彼女は途中から寝てしまっていたくらいなのだから。退屈な時間だったに違いない。
だから、その後のゲーセンでは凄く楽しそうだったのだ。水を得た魚の様な感じだったわけだ。
結局、その日は篠原恵子と話をしなかった。
今まで俺が、自分から彼女と話が出来たのはアニメやラノベがあったからなのだ。それが無くなったら話題なんて、ある筈が無かった。
その週は殆ど篠原恵子と話をしなかった。
彼女が話かけて来そうなタイミングでも、俺は何故か避けてしまっていたのだと思う。
代わりに友人と話をするのが、今まで以上に楽しく感じた。共通の趣味を持っているのだから当然なのだが。
そして日曜日。今日は友人と一緒に映画を観に行った。
特に前日から気合いを入れる事も無く。待ち合わせにも、ジャストの時間で到着する。昼飯もマクドナルドでサッと済まして。一番メインの映画で盛り上がる。
その後は、軽く書店に寄り映画の話を二人で掘り起こす。とても楽しい時間だった。やはり本物の共感を得られる事は、楽しい事なのだと思った。
そして月曜日。学校に行っても友人と昨日の映画の話で盛り上がった。その日、俺はあまり気にしなかったのだが。篠原恵子とは、挨拶も交わしていなかった。
彼女は、あの時の事を凄く気にしている。それが伝わってきた。俺に嘘をついていた罪悪感からだろう。
俺は彼女に裏切られたとまでは思っていない。それでも、やはり少し距離を保ちたかった。友人とアニメの話をしている事が、今の俺は一番楽しかったからだ。
そして俺は気付いたのだ。
これは、飴玉の効果そのものじゃないか。彼女は俺の事が気になって仕方ない。それは恋とかじゃなく、ただ、本当に罪悪感から俺が気になって仕方ないのだ。
そして、俺はどんどん彼女を気にしなくなるのだ。
やはりあの飴玉は本物だった。と、言う事なのか。
それから更に一週間が過ぎた。
だが、俺の中で篠原恵子が気にならなくなったかと言うと、言う程ではない。彼女と話した殆どの事が、虚構だったのかと思うと。寧ろ彼女にとって俺との時間は何だったのか?
そんな事を考える日々だった。寧ろ、彼女の方はかなり諦めたのか、俺に話し掛ける素振りすら見えなくなった。
何と言うか。一番最初より悪い状況だと思う。
そして、ある日の学校からの帰り道。俺は出会ったのだ、あの男に、金髪で白デニムに赤いTシャツの強面の男だ。
俺は無意識に話し掛けていた。
「すいません。飴玉くれた人ですよね?」
男は一瞬、考えるように顎に手を当てたが。直ぐに思い出した様にニコリと笑った。強面だが、意外と笑った顔は親しみ易い感じだ。
「あぁ……君か。飴玉、使ってみたのかい?」
「はい」
「そうか。何に使ったかなんて、野暮な事を聞くつもりはないよ。で?どうだった?使ってみた感想は」
「何て言うか……良かったのか、悪かったのか。正直分かりません」
「そうかそうか。まぁそういうモノだからね。人生なんて、幾つもの問題を解くテストだらけなのさ。
だが正解なんて無いし。間違いも無い。矛盾だらけでも、答えを出す事に意味がある」
「矛盾ですか……そうですね。求めたのは俺なのに、突き放したのも俺なんですもんね」
男は何事も見透かす様な目で俺を見たが、その目は笑っているようにも見える。口元は全然笑ってはいないのだが。
そして、俺に疑問を投げ掛ける。
「ちょっと違うな。君は何を求めたのかな?そして何故、突き放したのかな?本気で求めたモノを突き放すなんて。それは本心で出来る事なのかい?
まぁいい、実際どうだ?飴の効果はあるのか?君は誰かに気にされているのかい?ならば君は何故、その誰かの事を気にしているのかな?効果があったなら、君は今。気にならない筈ではないかな?つまり、そう。
飴玉は最初からただの飴玉だったのかもしれないね」
男は、そう残して俺の前から立ち去った。
その夜。俺は男の言葉の意味を考え続ける事になったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした
今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。
二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。
しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。
元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。
そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。
が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。
このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。
※ざまぁというよりは改心系です。
※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。
誰も愛してくれないと言ったのは、あなたでしょう?〜冷徹家臣と偽りの妻契約〜
山田空
恋愛
王国有数の名家に生まれたエルナは、
幼い頃から“家の役目”を果たすためだけに生きてきた。
父に褒められたことは一度もなく、
婚約者には「君に愛情などない」と言われ、
社交界では「冷たい令嬢」と噂され続けた。
——ある夜。
唯一の味方だった侍女が「あなたのせいで」と呟いて去っていく。
心が折れかけていたその時、
父の側近であり冷徹で有名な青年・レオンが
淡々と告げた。
「エルナ様、家を出ましょう。
あなたはもう、これ以上傷つく必要がない」
突然の“駆け落ち”に見える提案。
だがその実態は——
『他家からの縁談に対抗するための“偽装夫婦契約”。
期間は一年、互いに干渉しないこと』
はずだった。
しかし共に暮らし始めてすぐ、
レオンの態度は“契約の冷たさ”とは程遠くなる。
「……触れていいですか」
「無理をしないで。泣きたいなら泣きなさい」
「あなたを愛さないなど、できるはずがない」
彼の優しさは偽りか、それとも——。
一年後、契約の終わりが迫る頃、
エルナの前に姿を見せたのは
かつて彼女を切り捨てた婚約者だった。
「戻ってきてくれ。
本当に愛していたのは……君だ」
愛を知らずに生きてきた令嬢が人生で初めて“選ぶ”物語。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる