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奈央くんと瑞希さん
奈央くんと瑞希さん③
しおりを挟む「いつもチョーカーの鍵は家に置いてきてるんですけど、持ってくれば良かったです……」
「……そんな事言わないで。奈央が着けてなかったら、情けない話だけど俺確実に昨日は理性飛んでたから奈央の事噛んじゃってたと思う。だから本当に着けてくれてて良かった。ありがとね」
「っ、……なんでありがとうなんですか……。瑞希さんは、俺と番にはなりたくないって事ですか?」
「えっ、違う、そういう意味じゃないよ。もちろん奈央と番になりたいって思ってる」
「……本当ですか?」
「そんな事、嘘で言うわけないでしょ」
「……俺も瑞希さんと番になりたいです。ちゃんと、瑞希さんのものになりたい」
瑞希の言葉にホッとした表情を見せ、ふにゃりと微笑みながら奈央が呟く。
そんな純真で可愛らしい仕草には似ても似つかない重大で大胆な台詞を吐いた奈央に、瑞希はングッと息をのみ、それから小さく息を吐いたかと思うと、奈央の首筋にキスをした。
「あっ!?」
「……愛してる、奈央」
「ん……、俺も、愛してます……。瑞希さん、今度噛んでくれますか……?」
「……えっと、あの、奈央さ、もしかしてそろそろヒートになる予定だったりする……?」
「え? あ、はい。たぶん、もうそろそろだと思います」
「……なるほど。……ねぇ、奈央。俺は奈央以外の人と番になる気は無いし、いつかはそうなれたら良いと、本気で思ってる。けど、本当に良いの? ヒートが近付いてるからオメガの本能が強くなってそう思ってるだけっていうのもあるんじゃない? だから、そう言ってくれるのは嬉しいけど、焦らずにゆっくりいこうよ」
「……違います」
「え?」
「オメガの本能ってわけじゃない。出会った時からずっとずっと、瑞希さんと番になりたいって思ってました。この先も、俺が番になって欲しいと思うのは瑞希さんだけです」
「……ほんとに? 後悔するかもしれないよ?」
知り合ってから二年近く経っており、お互い長い間片思いをしていたものの、付き合ったのは僅か三ヶ月前である。
それなので、そう簡単に決断して良いのか。という懸念を瑞希が抱くのも分かる奈央は、しかし瑞希の頬をそっと撫で微笑んだ。
「それで言うなら、瑞希さんも番になりたいって言ってくれたけどその言葉も確実な信用なんて無いですよね。そう言ってくれてもこの先ずっと噛んでくれないかもだし、もし噛んでくれても、後々やっぱり番を解消したいって言うかも。オメガにとって番は後戻り出来ない関係ですけど、アルファなら多少の影響こそあれど平気なんですから」
「っ、しないよ! 番解消なんてするわけない!」
「本当ですか? 俺と番になって、あとあと後悔するかもしれないじゃないですか」
──アルファとオメガの間にのみ存在する、番。
アルファがオメガの首を噛む事で成立するそれは、結婚よりも遥かに精神的にも肉体的にも強い繋がりを持つ事を意味する。
そしてアルファに噛まれたオメガはそのアルファに一生の忠誠を捧げるようなものだが、しかしアルファ側からの一方的な番解消はでき、その際、数ヵ月ほどはアルファも少なからず影響は出るらしいが、それさえ過ぎれば今までと何も変わらず生活ができるようになる。
そして何度も他のオメガと番を結ぶ事も可能であるので、質の悪いアルファにとっては番を結ぶのはゲーム感覚だという輩も、少数だが居るのが現実だった。
しかしオメガにとって番解消とは死を宣告されるようなものであり、そのアルファしか触れられない体になってしまったにも関わらず相手が居ないせいで常に熱を持て余し、そして何より自身の番を失った悲しみと喪失感で気が狂い、自ら命を絶ってしまうというケースも多い。
そんな、オメガにとってはとてもリスクが高い番という繋がりを瑞希も理解しているからこその心配だったのだが、番を解消するかもしれないだろうという奈央の言葉に瑞希は顔を青ざめさせ、奈央をきつく抱き締めた。
「絶対にそんな事しないよ! 俺がどれだけ奈央の事を愛してると思ってるの……。そんな事、絶対にしない」
「……ふふ、はい。瑞希さんがそう思ってくれてるように、俺もそう思ってるんです。それにお互い番になりたいって思ってるんだったら、結果として番になるのが早くても遅くても同じじゃないですか。なら、俺はすぐに瑞希さんのものになりたい。後悔なんてしないし、させません。だから、俺の事信じてください。ね、瑞希さん」
ぎゅうぅ、と強く抱き締め返しては、信じて。と笑う奈央。
その姿がまるで聖母マリアのように神聖に満ち美しく、そしてひどく愛らしくもあり、瑞希は言葉を詰まらせながらも、その後微笑み頷いた。
「……うん」
「ふふ、瑞希さん、大好きです」
「俺も大好きだよ」
「……やっぱり鍵持ってくれば良かったな……。そしたらすぐに噛んでもらえたし、今もいっぱいちゃんと匂いを嗅いでもらえるのに」
「……噛むのは、奈央のヒートが来た時にね。ヒートの時だと痛みを感じなかったって話、良く聞くし」
「えっ……」
「ははっ、そんな残念そうな顔しないでよ。可愛いね」
「……からかわないでくださいよ」
「からかってないよ。それに、チョーカーがあっても今でも十分奈央の匂いを嗅げるし、幸せだよ」
そう薄く笑い、瑞希が奈央の首筋に鼻を埋める。
その動作にビクンッと奈央が体を震わせ微かに甘い声を漏らせば、チョーカーの端をカシッと噛みながら瑞希が笑ったのが分かった。
「っ、んっ……」
「昨日も思ったけど、奈央って凄く敏感だよね。可愛い……」
「ぁ、ふ、ん……、ちが、瑞希さんにされてる、から……、こんな風になっちゃうのは、瑞希さんにだけ、だもん」
「っ、……ほんと、可愛い」
ちゅ、ちゅ。と首筋に唇を押し付け、ぶわりと香る奈央の甘い匂いを楽しむ瑞希に対抗するよう、奈央も瑞希の首に顔を突っ込む。
「んっ、」
「……はぁっ、みずきさん、ほんといいにおい……」
「奈央も、凄く良い匂い」
だなんて匂いを褒め合い、相手の匂いを必死に嗅ぎ合う二人。
それから暫くし、ぴったりと密着している体の気持ち良さや完璧に匂いが混ざり合う心地よさが快楽に変わり始め、二人の匂いに興奮が混じっていった。
「ぁ、ん……、みずき、さ……」
「なお……」
お互い相手の名前を呼び、思いきり匂いを吸い込んだり首筋に舌を這わせマーキングしながら、ゴロゴロと喉を鳴らしあう。
あまりアルファが喉を鳴らす事はなく、自身のよりも深く割れた瑞希のその音にキュンキュンと心臓を高鳴らせつつ、布越しだが既に硬くなり始めている瑞希の陰茎がお尻に擦れたのを感じた奈央は、もっと欲しがるよう腰を揺らした。
「は、ぁ……、みずきさん、」
「なお、」
首からそっと顔をあげた瑞希につられるよう奈央も顔をあげれば、色っぽく目の端を赤く染め欲に濡れた眼差しで見つめてくる瑞希の姿があって。
それがひどく格好良く、下から見上げながら首を傾けた瑞希に奈央は吸い寄せられるよう、顔を近付けた。
「ん……、ん、」
ちゅ。と可愛らしいリップ音が響き、瑞希の薄い唇の、それでも自身の唇とぴったりとフィットする心地よい感触に奈央が熱い吐息を漏らしながらもっとと求めるよう、何度も唇を啄む。
その軽いキスはだんだんと深まり、ゆっくりと唇を重ね合わせたあと、奈央はそっと口を開いた。
「……ぁ、ん、ふぁ、ん」
ぬるりと入り込んだ瑞希の熱い舌が、奈央の咥内をねぶってゆく。
ゆっくりと口の粘膜を舌で擦られる気持ちよさにゾクゾクと背筋に震えが走り、背骨を辿る大きく武骨な瑞希の手の感触は優しいのに力強くて、奈央はくちゅくちゅと絡まりあう舌先の合間からあえかな息を漏らすだけで精一杯だった。
「ん、ふ、んぅ、ん」
「っ、はぁ、……奈央、ちょっと待って。休憩しよう」
瑞希の舌に自身の舌を絡ませ、気持ちよさに腰をグラインドさせながら快感に酔いしれていた奈央だったが、不意に瑞希が唇を離したかと思うと制止の声をあげたので、ぼぅっとし始めた頭のまま、首を傾げた。
「……はぁ、ん、……どうかしましたか?」
「……いや、これ以上こんな体勢でキスしてたら抑えられなくなっちゃうから……」
「……抑える? どうしてですか? これ以上はする気分じゃないってことですか?」
「俺の気分っていうか、奈央は昨日の今日でまだ体辛いでしょ。昨夜も俺が加減出来なかったせいで無理させちゃったのに、これ以上無理はさせられないよ」
「そんな事なら、平気です」
「でも、」
「……瑞希さん、昨日も言いましたけど、俺陶器で出来た人形って訳じゃないですよ。それに女の子でもなく普通の成人した男ですし、そんなやわじゃないです」
「いや、でも……」
「……もう。さっきからなんでそんな遠慮ばっかなんですか。俺は今瑞希さんとすごくえっちしたくて堪んないんですけど、瑞希さんは俺の事欲しくないんですか?」
「っ、ち、ちが! 欲しくないわけない! 俺はいつだって奈央としたいと思ってるよ!」
奈央が悲しげに表情を曇らせれば、瑞希が慌ててそういう事じゃないと主張する。
その焦った様子と言葉に奈央は満足げに口角をあげ、腰をわざと揺らした。
「っ、」
「んっ、……ん、気持ちいい……。瑞希さん、しよ。えっちしたい。昨日みたいに、みずきさんでいっぱいになりたい……」
とろんと蕩けた瞳で見つめ呟く奈央の、あけすけな言葉。
それに瑞希はまたしても息を飲み、それからぐっと奈央の細い腰を掴んでいた手に力を込め、そのまま奈央をソファへと押し倒した。
──ギシギシッ。と二人分の重さで軋むソファ。
勢い良く、それでも頭を守るようそっと後頭部に手を回され倒された奈央がぱちぱちと一度瞬きをし、その後瑞希を見つめては、微笑んだ。
「ふふ。……好きです、瑞希さん。大好き」
「俺も大好きだよ。ほんとに大丈夫? 辛くなったらすぐ言ってね」
「はい」
腕を伸ばし、するりと瑞希の首に手をかけた奈央に、ようやく瑞希も微笑んでは奈央の頬をそっと指で撫でる。
その指先がひどく優しく、そっと首を傾け顔を近付けてくる瑞希の格好よさにやはり奈央はドクドクと心臓を高鳴らせながら、瑞希の唇が降ってくるのを期待をして、目を閉じた。
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