【一話完結型】奈央くんと瑞希さん

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奈央くんと瑞希さんのその後

奈央くんと瑞希さんのその後②

 

 苛々としながら校内を出た奈央がカフェへと向かえば、テラス席に座っていた瑞希がすぐに見つかり、奈央は途端に先程の気持ち悪いアルファとの出会いを忘れ上機嫌に瑞希の元へと小走りした。


「瑞希さん!」

 奈央の声に携帯を見ていた瑞希が顔をあげ、それから穏やかな笑みを浮かべる。
 晴れやかな寒空の下、午後の光を浴びながら見つめてくる瑞希はあまりにも格好良くて。
 こんなにも素敵な人が自分の恋人なんて。と奈央は未だに信じられない気持ちでいっぱいになりながらも、微笑み返した。

「奈央、お疲れ様」
「瑞希さんも、調べ物してくれたり待っててくれてありがとうございます」

 近付いた奈央の腰にするりと腕を回し、優しく引き寄せては自身の膝の上へと横抱きに乗せる瑞希。
 その仕草にも胸をキュンキュンとときめかせながら、奈央も瑞希の首へと腕を回して抱き付いた。

 目の前の首筋からは瑞希の良い香りが溢れ出ており、どうしてこんなにも瑞希さんだけ良い匂いがするんだろう。とうっとりと瞳を蕩けさせては、奈央が深く吸い込む。
 その瞬間紅茶のような上品な香りがすぐに身を浸し、幸福でふにゃふにゃと奈央が笑っていれば、瑞希は奈央の背中を優しく撫でながらも声をかけてきた。

「奈央、俺の匂いはいつでも嗅げるから先にお昼食べよう?」

 以前言っていたように、構いたがりなのか世話を優先したいらしい瑞希。
 そんな、自身のパートナーだと認めたアルファが甲斐甲斐しく世話を焼き甘やかしてくれる事に内なるオメガが満足げに喉をゴロゴロと鳴らすのを感じつつ、奈央も幸せそうに頷いた。

「はい。いただきます。……ん、おいひぃ」

 奈央の口へと用意していたサンドイッチを運び食べさせてくる瑞希に、奈央が素直に口を開け食む。
 途端口いっぱいに広がる野菜の瑞々しさとベーコンの美味しさに奈央が瞳を弛ませ頬を膨らませば、瑞希も嬉しそうに微笑んだ。
 それからひたすらに世話を焼く瑞希と、その膝の上に座り嬉しそうにしている奈央という、目も当てられぬほどのバカップルぶりを晒していた二人は、話題のカップルを目の当たりにしざわついてる周りなど気にもせずただ二人だけの世界に浸っていたのだった。



 ***


「奈央、本当にもう要らない?」
「はい、お腹いっぱいです」
「そう……」

 毎回、何かと奈央に食べさせようとする瑞希が今日も、追加で買ってこようか。と提案するも、奈央が首を横に振って笑う。
 そんな奈央にやはり少しだけ残念そうにするものの、瑞希は奈央にあげる片手間に食べていた自身のサンドイッチの残りを一口で頬張った。
 その大きな口が豪快なのに決して下品ではなく、瑞希の何気ない仕草にでさえキュンキュンと胸をときめかせた奈央は、うっとりとした表情のまま瑞希を見つめた。

「……ん? 俺の顔に何か付いてる?」
「いえ……、ただ、格好良いなぁって……」
「あは、ありがとう。奈央も格好良くて綺麗で可愛いよ」

 奈央の言葉に柔らかく笑う瑞希が褒めてくれるが、しかし奈央の“格好良い”という発言をまるで聞き流しているかのようで、奈央は不満げにムッと唇を尖らせてしまった。

 実際、瑞希はタトゥーのせいで怖い印象を与えるものの、癖のない綺麗な顔立ちをしているし、体つきも筋肉質で身長だって高い。
 そして何より、重厚感が漂うが上品で爽やかなスモーキーの香りはアルファの中では珍しく、瑞希が匂いブロッカーをしなくなった事で他のオメガの興味を惹いている事を、奈央は気付いていた。
 それは今もであり、人目も憚らずイチャついている二人に皆が好奇な目を向けてくるなか、瑞希に強い関心を持っていそうなじっとりとした甘い瞳で見つめているオメガも中には居り、奈央は思わず鋭く睨み付けてしまった。

「奈央? どうしたの?」

 ぶわりと高ぶった奈央の匂いに少しだけ苛立ちが混じっているのに気付いた瑞希が、すぐさま心配げに見つめてくる。
 それに、独占欲を剥き出しにしてしまったとハッとした奈央は途端に恥ずかしくなり、視線をさ迷わせては何でもないと首を振った。

「な、何でもないです」
「本当?」
「はい」

 恥ずかしげに俯く奈央の様子に、何かあったのだろうかと思ったが、すぐに怒りの匂いが消えたので瑞希は一度奈央の顔をじっと見つめたあと、頬を優しく撫でた。

「何かあったらちゃんと言ってね」
「……はい」

 瑞希の優しい言葉に奈央が頬を赤らめたまま、こくんと頷く。
 それが愛らしく、瑞希は一度奈央の可愛い旋毛に唇を寄せ微笑み、それから横の椅子に置いていた鞄を漁って薬瓶を取り出した。

 奈央を抱いたまま、器用に片手で蓋を開け掌に錠剤を出す瑞希。
 それを見た奈央はやはり胸を激しく高鳴らせては、とろんと瞳を蕩けさせた。

 ──瑞希が今取り出した、錠剤。それはアルファ用の避妊薬である。
 初めて体を繋げたその日、勿論きちんと避妊具を着けようとしていた瑞希に奈央がひどくぐずっては、『毎日避妊薬を飲んでるから大丈夫』だと言ったが、その言葉に瑞希は『俺も飲んでるけど……、でも……、』と躊躇していた。
 しかしそれを聞いた奈央は目を見開き、アルファが避妊薬を飲むなんて聞いたことがないと驚いたが、『奈央と付き合える事になった時から、万が一に備えて飲む事にしたんだ……。ごめんね、引いた?』だなんて気恥ずかしそうに言った瑞希に、引くわけがないと奈央は恋心で爆発しそうになりながら瑞希に抱きつき、二人とも飲んでいるなら何の問題もないだろうと必死に訴え、誘惑する事に成功したのだ。
 そんな、瑞希もそういう事を望んでいたという気持ちを知れて嬉しかったと同時に、アルファとしてのプライドよりも相手を気遣い責任感のある行動をしてくれている瑞希に、奈央はどこまで惚れさせれば気が済むのだと思った事を思い出しながら、瑞希を見つめた。

 薬を水で流し込む瞬間、ごくりと動く喉。そこにも黒い毛皮で金色の瞳をした狼の顔の見事なタトゥーが描かれている。
 瑞希を初めて見た時、危険な人かもしれないと警戒しつつもその美しく気高く力強い眼差しをした狼のタトゥーにドキンと胸をときめかせた事を奈央は今でも鮮明に覚えており、そして変わらずそのタトゥーは美しく、奈央は堪らずズクンとお腹の奥を疼かせてしまった。

「……みずき、さん……」

 甘ったるい声で瑞希の名を呼ぶ奈央のお尻から、我慢出来ずに、とろ……。と滲む愛液。
 その甘い匂いが鼻腔を刺激し、瑞希が途端に体を固まらせ息を飲む。
 それから条件反射のように瑞希の匂いも興奮を混ぜ始め、腰を掴む手に力が込められたのを感じた奈央は、ますます貪欲になりながら甘える犬のような鳴き声を漏らした。

「んぅ……、みずきさ、」
「な、なお……」
「……家、に、……みずきさんのおうちに、行きたい……」
「っ」

 奈央の言葉にまたしても息を詰まらせたが、しかし次の瞬間、奈央を抱えたまま立ち上がる瑞希。
 その突然さに、けれど奈央はしっかりと瑞希に抱きついたまま、首筋に顔を埋めた。

「……しっかり掴まっててね、奈央。家に帰ろう」
「っ、はい、はいっ」

 瑞希の“家に帰ろう”という言葉に奈央は目を見開いたあと必死にこくこくと頷き、更に甘い匂いをぶわりと漂わせ嬉しそうに微笑んでは、お腹の奥と胸の奥をきゅんきゅんと疼かせたのだった。




 
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