【完結】初恋は、

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その後

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 恋人編



 “あと五分くらいで着く”

 そう送ったメッセージに、

 “分かりました!ありがとうございます! 気をつけてくださいね♡”

 だなんて可愛らしくハートの絵文字付きで送り返してきた春に、雅は信号待ちの車の中でクウゥゥと唸りながら、ゴンッと一度ハンドルに頭をぶつけた。



 ──春とまさかのまさかお付き合いをスタートさせ、あまつさえ手を出してしまった、その二日後。
 雅は今スタジオからの帰りであり、そして春はバイトがない日なので、そのままデートでもしよう。と学校まで迎えに来たのだ。

 そうして、あともう少しで春に会える。だなんて年甲斐もなく逸る気持ちのまま、雅は春の通う芸術大学へと車を飛ばし、そして大学内の解放されている駐車スペースへと、車を停めた。


 車から降りれば冬の寒さが急激に肌を刺し、ぶるる、と小さく震えた雅。
 その骨身まで凍りつきそうになる寒さに、まじで冬は滅びろ。と雅が呪いをかけながらも携帯を取り出し春へと電話をかければ、ツーコールもしない内に春が電話に出た。

『雅さん! 着きました!?』
「あっ、うん」
『駐車場のとこですか?』
「ん」
『すぐに行きますね!』

 だなんて矢継ぎ早に話す春の明るい声に圧倒された雅がほぼ喋らぬうちに電話は切れ、プーップーッ、という音だけが響いてくる。
 それに呆気に取られていた雅だったが、春の弾ける柔らかな声が耳に残っていることにふっと表情を和らげ、コートのポケットに手を突っ込んでは、春が来るのを待った。


 それから、数分後。

「雅さん!」

 だなんて満面の笑みで手を振りながら、駆け寄ってくる春。
 その背中に天使の羽根が見え、ファンファーレすら吹き荒れているような幻覚と幻聴に見舞われた雅は、……うわ俺の恋人やっぱ天使だったわ。だなんて心の中で拍手喝采ドヤ顔を決めながら、春へと腕を広げた。

「春」
「雅さん、会いたかった!」

 雅の広げた腕の中、何の戸惑いもなく抱き付いてきた春が可愛らしい事を言いながら、ぎゅうぎゅうと腕に力を込めてくる。
 その存外な強さに雅はングッと息を詰まらせながらも、しかし俺も会いたかったと笑っては、春の腰をそっと優しく抱き締め返した。


 時刻は夕方の六時半を過ぎた頃。
 未だ数名の学生が歩いており、突然始まった男二人の熱烈ハグにぎょっと目を見開いては、通りすぎてゆく。
 しかしそんな視線など気にもしない二人は、昨日はなんだかんだと忙しく会えていなかった分を補うよう、ぎゅむぎゅむと抱き締め合った。

 温かな春の体温と、ふわりと香る良い匂い。

 そして蜂蜜色の髪の毛がほんの少しだけしっとりと濡れている事に気付いた雅は、すんすんと鼻を鳴らしながら春の甘く爽やかな匂いを堪能した。

「春、良い匂いする」
「え、あはっ、さっきシャワー浴びたんで」
「シャワーあんの」
「ありますよ。うち芸術大なんで、俺みたいにダンス専攻の人とかが汗を流したり、あとは制作で泊まり込む人とか多いですし」
「へぇ、そうなんだ」

 雅は高校を卒業しすぐに音楽の道に進んだため大学へ進学はしておらず、春の大学が一般的かどうかは知らぬが、凄いな。だなんて笑いながら尚も春の髪の毛に鼻先を埋めて、匂いを嗅ぎ続けた。

「あは、ちょ、雅さん、」

 クスクスと笑い声をあげ、擽ったいと身を捩る春は、世界一可愛くて。
 ……あー俺まじで世界で一番幸せな男だわ。と確信しながらも雅は春を存分に堪能しようとぐりぐり鼻を押し付け、しかし雅もまた可愛らしい顔ではにかんでいた。



「あっ!」
「ん?」
「……レッスン室に、鞄忘れてきちゃいました……」
「へ、」
「あはは、……早く雅さんに会いたくて、それしか考えてなかったから急いで何も持たずに出てきちゃった」

 突然バッと体を離した春がそう言いながら、恥ずかしい。だなんて口元を両手で隠し、んふふ。と笑う。
 その照れた仕草がクリティカルヒットし、心の中でスタンディングオベーションが行われるほどの可愛さに雅がくらくらとしかけた、その瞬間。

「……でももう離れたくないんで、雅さんも一緒に取りに行くの、付き合ってくれませんか?」

 だなんて首を小さく傾げ、春が頬を染め上目遣いで見つめては、雅の服の裾をちんまりと摘まんだ。


「ウッッッ!!」

 今度こそ本当に心臓をピストルで撃ち抜かれた雅が咄嗟に自身の心臓を手でギュッと押さえ、うっと言いながらよろける。

 その叫びだしたいほどのどうしようもない可愛さに、……俺の恋人が天使、いや、小悪魔過ぎる。これ無意識なのか? まぁどっちでも良いけど待ってくれ、俺まじで死ぬ。と的確に狙撃された雅がハッと荒い息を吐き、可愛すぎてあばらさえ痛むその感覚に悶えていれば、しかし春は突然の雅の奇行に目を見開くだけだった。

「へ、み、雅さん!?」

 だなんて、自身が雅を殺しかけているというのに春がおろおろとしては、どこか痛いんですか!? と心配そうに声をかけてくる。
 そんな春に雅は何とか大丈夫だと呟き、それから深呼吸をしては、春の手を握った。

 春の、自分よりも小さな手。

 それがやはりどこか繊細に感じ、例えここで死んだとしても今生に悔いなし。という笑顔を浮かべながら、雅は握った手にそっと力を込めた。

「一緒に行く」
「わ、やった! ありがとうございます!」
「でも、俺が入っても良いのか?」
「ふふ、誰も気付きませんよ」

 だなんて言いながら、バレなきゃ平気ですよ。というように笑う春の、爽やかな笑顔。
 それを眩しげに見つめつつ、いやでもいくら芸大といえどこの見目は浮くんじゃないだろうか。と思った雅だったが、まぁそん時はそん時か。と楽観的に考え、手を引っ張って歩きだした春につられ、大学内へと足を踏み入れた。




 
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