【完結】初恋は、

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その後

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 二人して半勃ちしていたものを何とか抑え、ふぅ。と息を吐き、気まずげに顔を見合わせたあと。へにゃり。と情けなくお互い眉を下げ笑いながらも、立ち上がった春につられて雅も立ち上がった。

「い、行きましょうか」
「……うん」

 ぎくしゃくと会話をしながらも、もう触っても平気。だと言うよう、手を差し出してくる春。
 その笑顔はやはり美しく可憐で、雅はだらしなく頬を弛めながら、その一回り小さな手を握り返した。

「……あー、ヤバい……、緊張してきた……」
「え?」
「俺みたいな奴が春の恋人だって言って、ほんとに大丈夫かなって……」
「……それ、今度言ったら本当に怒りますよ」
「えっ」
「俺は雅さんが大好きだし、悠希だって雅さんの事好きになります、絶対。だから無意味に自分を卑下しないでください」
「っ、」
「分かりましたか?」

 雅さんは本当に自分の事を過小評価し過ぎてる。
 そう言わんばかりの真剣な眼差しで見つめてくる春に小さく息を飲んだ雅は、しかしそれからその言葉にへにゃりと眉を下げ、嬉しそうに、しかし気恥ずかしそうに俯いた。

「……ん」
「ふふ、可愛い」
「……好きだよ、春」
「俺も大好きです」

 いつだって優しく真っ直ぐな言葉をくれる春に堪らず、ちゅ、と雅が頬に軽くキスをする。
 そんな突然のキスに片目を瞑りながらも春がクスクスと可愛らしい笑い声を漏らし、それが本当に愛らしく、俺の恋人はまじで可愛くて格好良くて最高の人過ぎる。と雅は一分一秒ごとに春を更に好きになってゆく感覚に陥りながらも、深呼吸をした。

「……よし、行くか」
「あはっ、そんな緊張しないでくださいよ」
「うん」

 うん。と呟きながらも、やはりどことなく緊張したオーラを醸し出している雅の頬に、今度は春がちゅっとキスをし、歩きだす。
 それに一瞬だけ呆けたあと、ふっと肩の力を抜いて微笑んだ雅もつられて足を進め、部屋を出た。





 ──ガチャリ。と春が扉を開けた、先。

 すぐリビングに面しているそこには、当たり前だが春の幼馴染みの悠希だろう人物が居り、しかしその予想外の見た目に雅は目を一瞬だけ見開いてしまった。

「お帰り悠希。ごめんね、すぐ出てこれなくて」
「ううん、大丈夫。春もお帰り。ていうか恋人さん来てたんだね。じゃあ邪魔だったよね、ごめんね」
「春さんただいま。雅さんも来てたんですね」

 どうせ一緒に帰ってきますよ。という先ほどの春の言葉通り、春と悠希が喋っている所に難なく入り込むよう発言しながら、悠希の腰を抱き、雅に笑いかけてくる、良介。
 春に向かって、“お邪魔します”ではなく“ただいま”と言っている事からも分かる通り、本当にどうやら良介は常に入り浸っているようで、しかしそんな事よりも雅はやはり悠希という人物が想像と違い過ぎて、暫し呆けてしまった。


 良介も身長が高く体格が良いが、それよりも更に高身長であり、筋肉も付いていてガタイも良い、大柄な男。
 しかし前髪は目を覆うほど長く、どこか野暮ったい印象を醸し出しており、そして話し方は柔らかいものの声も随分と深く男性的である悠希に、春と似たような雰囲気の人かと想像していた雅は百八十度違うその見目に驚きつつも、しかしそれからハッとして、勢い良く頭を下げた。

「は、初めましてっ! 春さんとお付き合いさせていただいている、久我雅と申します!! 本日は突然お邪魔してしまいすみません!」

 だなんて早口で捲し立てる、雅。
 しかし他の三人はそんな雅をぽかんとした顔をして見たあと、それから良介が声をあげて笑った。

「あははっ!何それ雅さん! めちゃくちゃ緊張してるじゃん!」
「あっ、おい、笑うなばか!」

 雅のガチガチな様子に堪らず吹き出し笑った良介にカチンときたのか、雅の手を握ったまま春が暴言を吐く。
 そんなわーわーと煩い二人に、二人とも落ち着いてよ。と言うよう悠希は焦りを見せ、しかしそれからすぐに雅に向かって深々と頭を下げた。

「こちらこそ初めまして、春の幼馴染みの佐奈悠希と申します。いつも春からお話を聞いておりまして、お会いしてみたかったので会えて嬉しいです」

 そう言いながら顔をあげ、口元だけだがにっこりと微笑んでいる悠希。
 その様子に、外見こそ違えど雰囲気はどことなく春と似ているな。と、やはり小さい頃から共に過ごしてきたのだろう鱗片が伺え、雅も幾分かホッとし、ふっと表情を和らげた。

「……俺も会えて嬉しいです。あ、雅で良いんで」
「僕の事も気軽に悠希って呼んでください。それと雅さんの方が年上なんですから、敬語はやめてくださいね」

 だなんて柔らかな口調で、悠希がふふっと笑う。
 その上品な笑い方がやはり春とそっくりで、雅も微笑みながら頷けば、そんな二人のやり取りをじっと見守っていた春は穏やかな雰囲気に瞳をキラキラとさせ、幸せそうな笑顔を浮かべていた。




 ***



「雅さん、寒くないですか?」
「あ、うん……」

 どこか所作無げに呟いた雅を他所に、暖かくて大きなブランケットをしっかりと雅にまで掛けながらにっこり微笑んだ春が、さも当たり前のように雅の肩にこてんと頭を乗せてくる。
 その仕草と柔らかな髪からふわりと香る良い匂いに、ドキッと心臓を高鳴らせた雅は、目をパシパシと瞬かせた。


 ──悠希に挨拶し、無事に幾分か打ち解けた、その後。
 夕食は既にお互いに済ませてあったので、軽くお酒を嗜みながらお互いの話をしたりと和気あいあいとした時間を過ごし、そして雅も今夜泊まっていくと春が告げれば、じゃあ四人で映画でも見ましょうよ。だなんて良介が言った言葉により、突如始まった映画鑑賞会。

 大きなソファは大の大人四人でも難なく座る事ができ、左から良介、悠希、春、雅。といった順で並んでいて、しかしあまり交遊関係が広くない雅は、友人同士で集まりこうして夜を過ごすという事すらほぼしたことがなく、謎の緊張から小さく息を飲んだ。


 だが、そんな雅の少しの緊張も薄暗い部屋の中で良介が選んだ映画が流れ始めると段々と溶けてゆき、どことなく借りてきた猫のようになっていた雅も随分とリラックスした様子で、いつしか春の肩に腕を回すほどになっていた。


 良介が選んだのは、風景映像がとても美しく素晴らしい、ハートフル映画で。

 それは普段雅が見ないようなジャンルだったが、それでも面白く。
 段々とストーリーにのめり込んで見ていた雅だったが、不意に春が耳元に顔を寄せ、ぼそりと囁いた声にびくりと体を跳ねさせてしまった。

「……雅さん、手、握って良いですか」

 だなんて、隣の悠希に聞かれぬよう本当に小声でそっと囁いてくる、春。
 その言葉はとても甘く、雅は途端にドクドクと心臓を高鳴らせ体温が急上昇していくのを感じながらも、願ってもない事だと必死にこくこくと頷いた。

「ふふ、」

 雅の挙動に小さく笑い声を漏らし、それでも嬉しいですと言わんばかりに綻んだ春が、ブランケットの中で雅の膝の上に手を乗せる。

 その仕草があまりにも自然で、これで今まで恋人が居たことないってマジなのか……!? と雅は驚愕しながらも、前々から感じていたが元々人とのパーソナルスペースが狭い方なのだろう春の、それでも恋人という立場だからこそもっと踏み込め、踏み込ませてもらえる幸福に、小さく天を仰いだ。

 それから小さく深呼吸を繰り返しながらも、春の肩に回していない方の左腕を伸ばし、膝の上に置かれた春の手をぎゅっと掴む雅。
 そうすれば春は嬉しそうに更に雅へと体を寄せては、満足げな吐息を溢していて。
 その愛らしさにノックアウト寸前になりながらも、すり、すり。と春の触り心地良い肌を指先を撫で、共に寄り添い触れ合える心地よさに、雅も満足げな吐息を漏らしたのだった。



 ──そうして、薄暗い室内のなかブランケットにくるまりゆったりとした映画を静かに楽しんでいた四人だったが、しかし中盤に差し掛かった頃に微かに寝息が聞こえ、雅はテレビから視線を離した。

 そうすれば、良介と、そして良介に寄り添うようもたれている悠希が仲良く眠りに落ちているのが見え、そして春もそんな二人につられうとうととしていて、雅はふっと口元を弛めては、春の肩に回している腕でそっと更に抱き寄せ肩をとんとんと優しく叩いた。

「……ん、ぅ……」

 小さく春の口から溢れる、可愛らしい唸り声。

 それが愛らしく、握ったままの手を優しく撫でながら尚も肩をとんとんと叩き続ければ、とうとう春が夢の中へ落ちたのが分かった。

 テレビから流れる映画は変わらず美しい風景が続き、深い夜は、どこまでも静かで。

 それがとても穏やかで心地よく、雅も堪らずあくびをしては、満ち足りた気持ちのまま、ゆっくりと目を閉じた。

 そうして、春の柔らかな良い匂いや寒さにも負けない暖かな体温、そしてそれぞれの静かな寝息と映画の音声をBGMに、いつしか雅もぐっすりと眠りについてしまったのだった。




 
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