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しおりを挟む物心つく頃から、クレハの恋愛対象は女性。そんな彼女は兎族の変人として言われて育った。
兎族に生まれ恋愛対象が雌などと、過去にも類を見ない。クレハは雄へと目を向けるように強制され、性教育の座学を一から受けてきた。
その後、洗脳に近かったそれから逃げるように竜王宮の女官となる道を選んだ。
竜後宮の女官となれば、きっと番等という、雄のみが知る厄介なものに見つかる可能性も低い。それに、獣人特有の発情期が来てもきっと対処方法があるはずと単純に考えての事だった。
そして、初めて第一王女であるリューイを見てから、心が奪われて、心臓を握りつぶされたような、どうしようもなく愛おしい気持ちになったのだ。
───── だが、また変人と言われるのが怖くて、その劣情に蓋をした。
ただその気高い崇高な存在を傍で見ていたい。好きでいたい、という強い思いだけは無くなる事はなく彼女の心の中に生き続けた。
そして、その発芽する事のないほろ苦い種子を握りしめて彼女はリューイ付きの専属女官になると決意したのだ。
晴れてそれが叶い、間近で見る愛しの姫の誰にも見せる事のない姿を目の前にして彼女は興奮した。
その限界まで昂ぶった劣情を栄養として、その種子はすぐに芽吹き、すくすくと成長していったのである。
────── その果てに彼女はリューイに全てを明かし、捧げ、その花を咲かせることに成功した。
「私は、ずっと、ずっと、追いかけてきたから······姫様だけを見て······」
「ありがとう、気づいていたよ」
「下心だけで女官になりました······本当に、ごめんなさ······んう」
その謝罪の言葉はリューイの触れるような口づけによって掻き消えた。
「謝らないで、本当に。クレハを愛しているから」
「でも、私、クレハは、やっぱり変で······」
「変ではないわ? 例え、どんなに変だとしても私は貴女が好きなのよ」
何が変で、何が普通かなんて、もう誰にも分からないだろう。
愛の形など誰もが違って当然なのだ。ただひたすらその曖昧なものに溺れ夢中で追い求めるだけ。
「ぁあっ」
そしてリューイはクレハを抱きしめて優しく壊れ物を扱うように寝台に押し倒す。
好き、好き、好き······!
クレハは上から自分を見下ろすリューイを見た。
姫さまが自分の事を好きだなんて、未だに信じられないくらいに、貪欲に彼女を愛している。
蕩けるような濃厚な口づけに脳が震えて、もうすでに正常な思考を溶かし、溺れていく。
この燃え盛るような恋は、情痴。
そして沈む先は底の見えない獣欲の沼だ。
「でも、クレハは、────、······んうう、ッ」
クレハのその先の言葉は、リューイの深い口づけによってその音を紡ぐ事はなかった。
いや、きっと聞こえない方が良かったのだろう。
────── それはクレハに芽吹き始めていた、あまりに歪んだ感情であったのだから。
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