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13. オカアサマと呼んで欲しいの!
その日、フィリスは自室で医師による診察を受けていた。
公爵家の専属の医師ボルマンは一通りの診察を終えて、フィリスに優しく微笑む。
「奥様、何も問題はないようです。ですが、引き続きご無理はせずに。お腹が痛くなったり、異変を感じたらすぐに私を呼ぶとお約束下さい」
「はい、わかりました」
フィリスは医師の出て行った部屋で寝台から身体を起こした。
嘔吐は引き続き、それはもう、定期的に起こっている。食欲もないし、匂いにも敏感で、動物並みの嗅覚を持っているのではと思うくらいだ。
けれど、最近は公爵家の兄弟、ノアルファスもレオンもあまり関わってこなくなった。そのため精神負担は少なくなってとても良い状況になっているとは言える。
フィリスはゆっくりと歩き、鏡の前に立つと、ゆったりとして締め付けのないドレスを捲り上げた。
「う~ん、こんなものなのかしら?全然わからないけど」
想像していた様なお腹の膨らみはまだない。少しぽっこりとしたお腹があるくらいで、”それは元々あったものです”と言われれば、”あったのかもしれない······”と納得してしまう程度のもの。
「まあ、食べるのは好きだったから······ふふふっ。公爵家に来てからはご飯だけが楽しみだったのだから仕方がない事だわ!」
フィリスは先日まで公爵家の晩餐をペロリと平らげていた自分を思い出してクスクスと笑った。
それにしても、妊娠3ヵ月ってこれが普通なのかしら?とフィリスは自分のお腹をまじまじと見る。ドレスから手を離せば、ふわりとスカートが落ちて美しいシルエットが鏡に映った。
「やっぱり締め付けのないドレスを着れば、今は全く分からないわね。でもいつかこれも着れなくなりそうだわ······」
締め付けがなく着やすい服ではあるが、もっとお腹が大きくなればそれもきつく感じるだろう。何かもっと着やすくて可愛らしい服があれば良いのだけれど······と、フィリスは部屋のソファに腰かけて机に置いてあった果物に手を伸ばした。
同時に、部屋の扉がノックされフィリスは扉を見る。
今日は医師の診察の他に何か予定が合った気はしないのだけれど······と考えを巡らせてから、返答をした。
「はい?」
「フィリス様、お寛ぎ中、申し訳ございません······お客様がお見えになっており······」
「お客様?旦那様には来客の接待は不要、と厳しく言われているの、貴女も知っているでしょう?」
扉が少し開き、そこから顔を覗かせたのはボインメイドだ。
フィリスはあのバルコニーの一件以来ノアルファスに来客の接待を禁じられている。
公爵家の妻として教育もなっていないからだかなんだか······あのムッツリスケベ野郎、本当に失礼なことを言ってくれる。
「ですが······今はレオン様も執事もおらず······奥様への面会を求められておりまして······それに······私にはなんとも言えないのですが······」
扉に目を向ければ、ボインメイドの瞳が潤み、胸元がたゆんっと揺れ、フィリスは溜息交じりに首を振った。
「······はあ、分かったわ······。でもこのままでは行かれないから、サロンにお通しして、少し待っていてもらえるように伝えてくれる?」
「その必要はありませんわよ!私はここにいますもの!」
突如、響き渡った美しい鳥の鳴くような美しい声に、フィリスは目を見張った。
そして同時にボインメイドが叫ぶ。
「エ、エレイン様!!!下のサロンでお持ち下さいと何度も言って「良いじゃないの。公爵家の人間ではなくなったとしても、私はフィリスちゃんの義母であることには変わりないのよ?」
「······え?義母?」
突然『義母』と言いながら部屋に入ってきた美しい女性にフィリスは驚愕する。
腰まで伸びた美しい銀髪は彼女が歩く度に揺れて煌めき、美しい青色の瞳は吸い込まれそうな程に美しい······。
「まあ!貴女がフィリスちゃんなのね!!会えて嬉しいわ!あ、そうそう。お義母さま、と呼んでちょうだい?昔から夢だったのよね~、娘は何人いても良いわ!それにしても、フィリスちゃん可愛いわね······これは二人がご執心なのも分かるわ!!」
うふふふっと可愛らしく笑いながらも、強引にツカツカと部屋に足を踏み入れてくる様子はレオンを彷彿とさせてフィリスは苦笑する。それにこの言葉量。息継ぎが続くのも凄いし、あまりに饒舌!とフィリスは目をパチパチと瞬かせた。
そんな百面相をするフィリスの目の前まで歩いてきたその女性は、フィリスの隣に腰を下ろし手を握りしめる。
「あら?びっくりさせちゃった?初めまして、私はエレイン。元公爵夫人でレオンの実の母、ノア君の継母よ。でもね、二人は私にとってはどちらも大切な息子なの」
ぐいっと顔を覗き込まれ、フィリスは困惑しながらも口を開いた。
「……は、初めましてエレイン様「お義母さまよ」
「······え?」
「お義母さま、ね。私、お義母さまって呼んでって······言ったでしょう?」
言ったわよね?うふふ、と笑うエレインの瞳に、有無を言わさぬ強い意思が籠っているのが見えて。
フィリスは、この時、エレインへの完全降伏を決意した。
公爵家の専属の医師ボルマンは一通りの診察を終えて、フィリスに優しく微笑む。
「奥様、何も問題はないようです。ですが、引き続きご無理はせずに。お腹が痛くなったり、異変を感じたらすぐに私を呼ぶとお約束下さい」
「はい、わかりました」
フィリスは医師の出て行った部屋で寝台から身体を起こした。
嘔吐は引き続き、それはもう、定期的に起こっている。食欲もないし、匂いにも敏感で、動物並みの嗅覚を持っているのではと思うくらいだ。
けれど、最近は公爵家の兄弟、ノアルファスもレオンもあまり関わってこなくなった。そのため精神負担は少なくなってとても良い状況になっているとは言える。
フィリスはゆっくりと歩き、鏡の前に立つと、ゆったりとして締め付けのないドレスを捲り上げた。
「う~ん、こんなものなのかしら?全然わからないけど」
想像していた様なお腹の膨らみはまだない。少しぽっこりとしたお腹があるくらいで、”それは元々あったものです”と言われれば、”あったのかもしれない······”と納得してしまう程度のもの。
「まあ、食べるのは好きだったから······ふふふっ。公爵家に来てからはご飯だけが楽しみだったのだから仕方がない事だわ!」
フィリスは先日まで公爵家の晩餐をペロリと平らげていた自分を思い出してクスクスと笑った。
それにしても、妊娠3ヵ月ってこれが普通なのかしら?とフィリスは自分のお腹をまじまじと見る。ドレスから手を離せば、ふわりとスカートが落ちて美しいシルエットが鏡に映った。
「やっぱり締め付けのないドレスを着れば、今は全く分からないわね。でもいつかこれも着れなくなりそうだわ······」
締め付けがなく着やすい服ではあるが、もっとお腹が大きくなればそれもきつく感じるだろう。何かもっと着やすくて可愛らしい服があれば良いのだけれど······と、フィリスは部屋のソファに腰かけて机に置いてあった果物に手を伸ばした。
同時に、部屋の扉がノックされフィリスは扉を見る。
今日は医師の診察の他に何か予定が合った気はしないのだけれど······と考えを巡らせてから、返答をした。
「はい?」
「フィリス様、お寛ぎ中、申し訳ございません······お客様がお見えになっており······」
「お客様?旦那様には来客の接待は不要、と厳しく言われているの、貴女も知っているでしょう?」
扉が少し開き、そこから顔を覗かせたのはボインメイドだ。
フィリスはあのバルコニーの一件以来ノアルファスに来客の接待を禁じられている。
公爵家の妻として教育もなっていないからだかなんだか······あのムッツリスケベ野郎、本当に失礼なことを言ってくれる。
「ですが······今はレオン様も執事もおらず······奥様への面会を求められておりまして······それに······私にはなんとも言えないのですが······」
扉に目を向ければ、ボインメイドの瞳が潤み、胸元がたゆんっと揺れ、フィリスは溜息交じりに首を振った。
「······はあ、分かったわ······。でもこのままでは行かれないから、サロンにお通しして、少し待っていてもらえるように伝えてくれる?」
「その必要はありませんわよ!私はここにいますもの!」
突如、響き渡った美しい鳥の鳴くような美しい声に、フィリスは目を見張った。
そして同時にボインメイドが叫ぶ。
「エ、エレイン様!!!下のサロンでお持ち下さいと何度も言って「良いじゃないの。公爵家の人間ではなくなったとしても、私はフィリスちゃんの義母であることには変わりないのよ?」
「······え?義母?」
突然『義母』と言いながら部屋に入ってきた美しい女性にフィリスは驚愕する。
腰まで伸びた美しい銀髪は彼女が歩く度に揺れて煌めき、美しい青色の瞳は吸い込まれそうな程に美しい······。
「まあ!貴女がフィリスちゃんなのね!!会えて嬉しいわ!あ、そうそう。お義母さま、と呼んでちょうだい?昔から夢だったのよね~、娘は何人いても良いわ!それにしても、フィリスちゃん可愛いわね······これは二人がご執心なのも分かるわ!!」
うふふふっと可愛らしく笑いながらも、強引にツカツカと部屋に足を踏み入れてくる様子はレオンを彷彿とさせてフィリスは苦笑する。それにこの言葉量。息継ぎが続くのも凄いし、あまりに饒舌!とフィリスは目をパチパチと瞬かせた。
そんな百面相をするフィリスの目の前まで歩いてきたその女性は、フィリスの隣に腰を下ろし手を握りしめる。
「あら?びっくりさせちゃった?初めまして、私はエレイン。元公爵夫人でレオンの実の母、ノア君の継母よ。でもね、二人は私にとってはどちらも大切な息子なの」
ぐいっと顔を覗き込まれ、フィリスは困惑しながらも口を開いた。
「……は、初めましてエレイン様「お義母さまよ」
「······え?」
「お義母さま、ね。私、お義母さまって呼んでって······言ったでしょう?」
言ったわよね?うふふ、と笑うエレインの瞳に、有無を言わさぬ強い意思が籠っているのが見えて。
フィリスは、この時、エレインへの完全降伏を決意した。
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