公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう

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14. ハイ、お義母様、ついていきます! 

 
 急遽公爵家を訪問してきたレオンの母、エレイン。
 彼女の”お義母さまオカアサマ”と呼んで欲しい!という強い思いを前に、フィリスは速攻で降参した。

「オ、オカアサマ······」
「うんうん!よろしくてよ!!いいわね~、本当に公爵家にこんな子が来たのね!私、嬉しいわ!」

「オ、オカアサマ······私は「フィリスちゃんでしょう?カーテシーも不要よ。座ったままで結構。これでも私もこの間まで妊婦だったのよ。気持ちは痛いほど分かるんだから!」

 軽く笑いながら言うエレインにフィリスは口をぽかんと開いた。
 レオンの母ということは、仮に18歳で身籠り、子を産んだとしても35歳位のはず······。
 だが、この凄まじい勢いと、恐るべし美貌。

「うっふふふふ、年齢は聞かないで?あ、推測するのもだめよ!今日は貴女に会いに来たのだから、色々お話しましょう?もっと貴女の事が知りたいわ」

 台風のようなエレインは、フィリスに新しい風をもたらした。
 それに、話してみれば、とても活力の溢れる彼女の内面は優しく穏やか。だが、時に厳しく、意見はきっぱりと言う強い女性であることが分かった。
 
 母は強し、という言葉があるが、このエレインのいう女性は素晴らしい母親像であるとフィリスは内心尊敬する。

 それに元公爵様の第二夫人であった彼女は現在、騎士団で団長をしている男性と結婚し二人で仲睦まじく暮らしているというのだから驚きだ。
 そんな身を焦がすような情熱的な恋、想像すらしたこともないフィリスには正に夢物語。

「そ、それで······!旦那様は昔の護衛だった方なのですか?」
「そうよ。やっぱりフィリスちゃんも女の子ねぇ。気になるの?」
「それは······そんな情熱的な恋愛は、物語か何かだけかと思っていましたので······」

「ふふふっ。そうね、彼の事は私の護衛をしてくれていた頃から気にはなっていたの······。でもバルモント公爵様に見初められてしまって。
 別に、公爵家に来たことを恨んでいるわけではないのよ?レオンもノア君もとても可愛いかったし、良い事だって沢山あったわ!······でも、ずっと彼の事は気にかかっていたのよね。公爵様が亡くなって、祖国を訪れた時に偶然再会したの」

「それは······運命、ですね······!」

「うふふふ、そう思う?私もそう思うのよっ!お互いに好きな気持ちは変わっていなかったのよね!すぐにプロポーズして貰って、結婚。で、今は2か月の赤子がいるわ?」

 嬉しそうに顔を赤らめながら話す彼女は少女のようで、フィリスは素直に羨ましいと思った。

「そんな大変な時期に家を空けてまで来させてしまって······大丈夫なのですか?」
「大丈夫。私が貴女の話を聞いて、会いたくなって来てしまったのだから」

「私の話······ですか?」

「レオンはね、私の妊娠中から家に来て、よく手伝ってくれていたのよ。だから、貴女の事も面倒を見なければと思ってしまったみたいね。迷惑、だったかしら?」

「い······いえ。一人だった私を気遣ってくれるレオン様のおかげで、公爵家の事も学べましたし、悪阻で辛くても助けてくれて······そういう事だったのですね」

 レオンの気遣いはこの母の教育の賜物なのか、とフィリスは首を振って納得した。
 公爵家の次男でもある彼が自分が嘔吐しているときも、蔑むことなく背中をさすってくれるなど本当であればありえないのだから。

「吐き悪阻なのね?辛いわね」
「ほかにもあるのですか?」

「もちろんよ。食べ過ぎてしまう食べ悪阻、眠くなる眠り悪阻、匂いが駄目な匂い悪阻······皆違って当然だもの、たくさんあるわ?」
「······そうなのですね······そんなに種類が······」

「ノア君も悪い子じゃないのよ?ただ彼は公爵としての顔があるから······とても真面目なの」
「はい······それは、なんとなく分かりますけど」

「でも、二人はお互いに少し時間が必要かもしれないわね、私なんて昔は家出したいと思った事もあったわね~」

 そう言ってふふふと笑ったエレインを見てフィリスは声を出した。

「そ、それですわ!家出、すれば良いのですわ!!」

「······え?冗談よ······、えぇ?!本気ナノ?!······いや、ちょっと!お待ちなさい、フィリスちゃん!!」
「お義母さま、ご助言、本当にありがとうございます!」

「なんだが”オカアサマ”の言い方の滑舌がよくなっているわね?!嬉しいけど、でも、ちょっと待って!!」

 早速勢いよく立ち上がったフィリスを見て、慌ててエレインも立ち上がる。

「私、今すぐに荷物をまとめて、少しばかりこの邸を離れようと思います。やはりここにいるから余計な事を考えるのです。私も一旦頭を冷やす必要があるのですわ!」

「フィリスちゃん、待って!なら、お願い!私の家に来なさい?それなら許可できますが、まだ悪阻も収まっていない妊婦さんを一人で出すわけに行くわけがないでしょう?!」

「お義母さまの所······?」
「その······会ったばかりでまだ信用できないかもしれないけれど······「良いのですか!?ハイっ!行きますッ!」

 前のめり気味に手を挙げたフィリスを見て、エレインは苦笑する。

「······これは、想像以上に大変ね」

 エレインは、自由奔放な彼女に翻弄される、ノアルフィスとレオンを思い浮かべた。
 そんな気苦労もしらないであろうフィリスは「あ!」と思い付いたようにエレインを振り返る。

「お義母様?私、多分ずっと嘔吐してますけど······大丈夫でしょうか······?」
「ええ、それなら気にしないで頂戴。私の夫ウィリアムも理解があるから大丈夫よ」

 こうして、フィリスはその日荷物を纏め、エレインと共に隣国ギプロスに向けて初めての家出をしたのだ。
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