詩物語 

嶋野の狂犬

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紡ぐ

紡ぐ 〜 Tsumugu 〜

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文化祭当日、俺は彼女が乗る車椅子を押しながら、学校内を回っていた。

「なぁ、、、次は、たこ焼き食べようか!」

俺の言葉に、彼女は無理に作った笑顔で応えてくれた。
やはり彼女の声はまだ戻らない。
もしかしたら、この場に居たくないかもしれない。ただ無理して俺に付き合ってくれているだけかもしれない。
胸が張り裂けそうになりながら、たこ焼きを摘んでいると、彼女はメモ帳に何かを書き出した。

そこには「ごめんね」と書いてあった。自分の方がつらいはずなのに、、、

「謝らないでくれ、、、俺、飲み物買って来るよ!」

俺も笑顔を作ってみたが、ぎこちなかっただろうか、、、
出店の前まで来た俺はお茶を2本買って、彼女のもとへ帰る途中、ふと道に出来た水溜まりが目に止まった。そこに写った自分の顔が情け無さすぎて、つい涙が溢れてしまった。自分の無力さ、不甲斐なさに。

「泣いてられないって、、、俺が」

涙を拭い、彼女へお茶を手渡すと、ぽつりと一滴水滴が頬を伝う。

「雨か、、、一旦避難しようか」

彼女を連れて、体育館へと避難した。
中に入ると、考えることは皆同じで雨宿りに来ている連中で混雑していた。
ごった返した館内を生徒会のメンバーが誘導してくれている。
車椅子をみて、優先的にステージ前に連れて行かれてしまった俺たちは仕方なく席についた。

「そういえば、、、この時間って、、、」

この時間は本来、紬さんのバンドが演奏するはずだった時間帯なのだ。
なんて時間に来ちまったんだと後悔しても時既に遅しだった。
バンドのメンバーが続々と準備を始め、こちらに気づくと嬉しそうに手を振ってくれた。
複雑な気持ちではあるが、俺たちも手を振りかえす。そういえば、ボーカルは誰になったのだろうか、、、














私は最後まで悩んでいた。
アイツに頼まれて、無理だと断った。
その時のアイツ、「ゴメンな!」って
無理に笑ってるもんだから、、、。
ふざけんな、、、なんで私が、、、あんな奴の為に、こんなに悩まなきゃいけないんだ。

「ふざけんな、、、」

家に帰ってから考えた。
無理無理無理無理!
そんな時、珍しく父が呑んだくれて私の部屋へ入ってきた。

「ぉお!可愛い女よ、なんか悩んでいるんかぁ?」

「うるさい!酒臭いからあっちいって!」

「あれこれ悩むくらいならまずやってみる。俺の自慢の娘だ、出来ないことなんてないんだよ?」

な、何言ってんだこの親父、、、

「さっさと寝なさい!!」

背中を丸めて出て行った父は結局リビングのソファで爆睡していた。
呆れた奴でも、風邪は引いてほしくない。
布団を掛けながら、私は、、、決めた。















「えっ、、、?アイツ、、、なんで、、」

ステージには、ギターを持ったアイツがちゃんと化粧をして、髪も整えて、見違える美人になってきやがった。
アイツはマイクに手を伸ばす。

「、、、私は本来、このバンドメンバーじゃありません、この歌は、ここに立ちたかったメンバーと、、、その彼氏に、、、歌います。聴いてください、「紡ぐ」」


バンドメンバーの息のあった演奏が始まった。それに合わせてアイツも弦を弾く。
アイツ、ちゃんと練習してやがったな、、、

「あの野郎、、、」

泣くな、、、俺はもう泣くわけにはいかないんだ。ダメだ、抑えられない。

「風、、、ありがとう、、、」















あの馬鹿泣いちゃってるじゃん。
前奏で泣く馬鹿どこにいるんだよ。


「空!、、、泣かないで聴いてろ!」

私は歌うよ、あんたら2人の為に。















「空が泣く あなたが笑えるように」

アイツはあなたの為に泣く、少しでも笑っていて欲しいから

「風が歌う あなたに聞こえるように」

私は歌う 貴方たちに届くように

「雲は揺れる 私の心のように」

貴方たちをみてると、私の心は揺れることもある

「淡く 脆く それでも強く」

でも私は

「今は歌う ただ ただ」

「あなたに届くように」

「虹がかかりそして繋がる」

私の歌が、貴方たちの繋がりを紡ぎたい。














会場は大歓声だった。
少し悔しかった、でも気づいたら私はステージの彼の幼馴染に向かって拍手をしていた。隣にいる彼は泣きながら叫んでいる。
少し、、、嫉妬しちゃうな。

「、、、、、」

「紬さん?」

「、、、、そ、」

「えっ?」

「、、そ、ら、、くん」

私、、、喋れる。話せるんだ。

「空、、、くん。あり、がとう」

「つ、、、紬さん!」

私達は感極まって抱き合いながらみっともなく号泣してしまった。
でも後悔はしていない。

その後、バンドメンバーと風さんにも改めて挨拶したら、皆揃って大号泣だった。
私は幸せ者なのだと改めて気付かされた。


本当に彼女の歌は、
私と周りの人達へ虹がかかりそして繋いでくれたのだった。




紡ぐ  sing the とた

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