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「お前なんか、離婚してやる!」
そう叫んでいる書類上の旦那様を横目に、わたくしは書類を整えます。
「では、契約条項について旦那様にもわかりやすく解説して差し上げますね?」
§
「家同士の事情で結婚したが、俺がお前を愛することなどないと、理解しておけ!」
結婚して初めての夜、やることだけやった旦那様はそう叫びました。白い結婚ならまだしも、既成事実ができてしまったわたくし。離縁となると、愛されない妻よりも瑕疵がつきます。実家にも迷惑をかけることになるでしょう。
「たまになら抱いてやってもいいが、その場合、」
ふんふんしながら何かおっしゃってる旦那様に、わたくしは満面の笑みでお伝えします。
「旦那様。旦那様がわたくしごときを愛することがないこと、理解いたしました。しかし、白い結婚でなくなってしまった今、離縁となるとわたくしも困ってしまいます。よろしければ、旦那様が自由にお過ごしいただくことができるように、契約結婚として内容を決めませんか?」
「俺が自由に過ごせる……話を聞かせろ」
“自由に過ごせる”と聞いて、食いついてきた旦那様に契約結婚について説明いたします。契約魔法を用いた契約は、何物にも優先されます。食いついてきた旦那様に、微笑みを浮かべてメリットを説明いたしました。
「……このように契約魔法を使って定めれば、旦那様はわたくし一人に縛られることもなく過ごすことができますわ」
「ふん……わかった。では、契約魔法を結ぶぞ」
執事にも相談することなく、夫婦の寝室でそのままノリノリで契約魔法を結んだ旦那様。これでわたくしは思った通りに過ごすことができますわ。
§
「まず、第一条について確認いたします。“夫は妻を愛さない。そのため、妻に妻としての務めを求めない。但し、両者の合意がある場合はその限りではない”ですわ。これに関しては、わたくしが素敵な旦那様を愛してしまった場合に備え、愛さないという条項を旦那様のみにいたしましたわ」
「そうだ。俺は魅力的だから、どんな女も惚れてしまうだろう! そこに関してはお前も俺に惚れているだろうから、許してやったんだ!」
自信満々に胸を張る旦那様が社交界でなんと言われているか……いえ、ご存知ない方が幸せですわ。まだ二十歳になったところですのに、光り輝く頭部が大変美しいですもの。
「第二条、“夫は愛人を自由に持つことができる。但し、家計を圧迫しない範囲とする。また、愛人が子を成した場合、妻が後継として養育する。尚、妻が愛人を持つことは認めない”ですわ。これについては、旦那様が自由にお過ごしかと思いますわ」
「あぁ、これを聞いて俺は契約魔法を結ぶと決意したんだ!」
そうです。わたくしも、この条項を餌に旦那様と契約魔法を結びました。
「では、第三条ですね。“妻は領地経営に参加することができる。なお、これに関して、合理的な理由なく夫は異議を唱えない”ですわ」
「それだ! お前は名ばかりの妻なのにやりたい放題じゃないか。領地は潤ったものの、領民は皆領主たる俺ではなく、お前を讃える! 合理的な理由だろう!」
「それは旦那様が領地に利となる政策をしてこなかったせいですわ。わたくしに責はございません。合理的な理由として認めることはできませんので、契約条項に反してしまいますわよ?」
「領地に合議制が導入され、俺を領主として不信任決議がなされ、お前が領主になるだと? おかしいだろ! おかげで周囲の領地から笑い者となったぞ!」
「まぁ。わたくしの元には、先進的な発案に参考にしたいと各国から視察が絶えず訪れておりますわよ? いいではございませんか? わたくしが領主として経営をしていても旦那様はご自由に過ごすことができるのですから」
「そういう問題じゃない!」
ぶつぶつとおっしゃる旦那様に最後の条項を確認いたします。
「旦那様。第四条ですわ。“夫と妻、両者の合意があった時以外離縁は認めない。一方が公序良俗に反する行為をとったとき、または、契約条項に違反したときのみ、有責者への離縁を求めることを認める。但し、有責者からの離縁の要求は一切認めない”ですわ。旦那様。契約条項に違反している有責者となりますから、旦那様からの離縁は認められませんわ。わたくしからの離縁でしたら認められますが……離縁してもよろしいのでしょうか?」
すでに女領主として国王陛下の承認を得ており、この場合離縁して路頭に迷うのは旦那様でいらっしゃいます。流石に見殺しにするのは可哀想かと思い、わたくしは旦那様に問いかけました。
「いいに決まっているだろう! お前がやった、ままごとのような領地経営、俺が全てぶっ壊して元に戻してやる!」
「それは現領主への反逆の意と捉えます。衛兵!」
扉を開けて、待機していた衛兵が雪崩れ込んできました。旦那様を捕えます。
「旦那様。異議がございましたら、議会を通して承認を受けてくださいまし。あぁ、今回の反逆罪についても議会で承認を通さなければなりませんね」
「領主様! 問題ありません。前領主については、元々横領、婦女誘拐、監禁、暴行、王族への不敬罪等の容疑がかかっております。あと、隣国から賄賂を受け取り情報を流していたため、国家反逆罪にも問われております。国王陛下から身柄を引き渡すようにと、先ほど通知が来ました。爵位も没収の上、全てを情報提供者である領主様に引き継ぐようにと指示されております」
「では、残念ですが旦那様。離縁いたしましょうか? 我が領地に旦那様との関係を疑われると不利益となりますから」
「おい! 俺の領地だ! 返せ! お前、よくも裏切りやがったなー!」
兵士に旦那様を差し出し、わたくしはお茶を飲みます。
「お疲れ様です。領主様」
「ありがとう。では、我が領地をもっと盛り立てていきましょうか」
“女だから”と実家でも領地経営には関わらせてもらえませんでした。しかし、幼い頃からわたくしは領地経営に興味があったのです。傷物とされ、離縁もできぬ身になった時、旦那様を言いくるめて契約魔法を結ぶことを思いついたのです。まさか領主になれるとは思いませんでしたが。
「国王陛下にお礼のお手紙を準備しないといけないですわね。わたくしの理想を理解して、“好きに領地で実験してみろ”と自由にさせてくださったのですから」
あのお方のことですから、わたくしが失敗した場合、わたくしを側室として迎えるつもりだったのでしょうけど。
そう叫んでいる書類上の旦那様を横目に、わたくしは書類を整えます。
「では、契約条項について旦那様にもわかりやすく解説して差し上げますね?」
§
「家同士の事情で結婚したが、俺がお前を愛することなどないと、理解しておけ!」
結婚して初めての夜、やることだけやった旦那様はそう叫びました。白い結婚ならまだしも、既成事実ができてしまったわたくし。離縁となると、愛されない妻よりも瑕疵がつきます。実家にも迷惑をかけることになるでしょう。
「たまになら抱いてやってもいいが、その場合、」
ふんふんしながら何かおっしゃってる旦那様に、わたくしは満面の笑みでお伝えします。
「旦那様。旦那様がわたくしごときを愛することがないこと、理解いたしました。しかし、白い結婚でなくなってしまった今、離縁となるとわたくしも困ってしまいます。よろしければ、旦那様が自由にお過ごしいただくことができるように、契約結婚として内容を決めませんか?」
「俺が自由に過ごせる……話を聞かせろ」
“自由に過ごせる”と聞いて、食いついてきた旦那様に契約結婚について説明いたします。契約魔法を用いた契約は、何物にも優先されます。食いついてきた旦那様に、微笑みを浮かべてメリットを説明いたしました。
「……このように契約魔法を使って定めれば、旦那様はわたくし一人に縛られることもなく過ごすことができますわ」
「ふん……わかった。では、契約魔法を結ぶぞ」
執事にも相談することなく、夫婦の寝室でそのままノリノリで契約魔法を結んだ旦那様。これでわたくしは思った通りに過ごすことができますわ。
§
「まず、第一条について確認いたします。“夫は妻を愛さない。そのため、妻に妻としての務めを求めない。但し、両者の合意がある場合はその限りではない”ですわ。これに関しては、わたくしが素敵な旦那様を愛してしまった場合に備え、愛さないという条項を旦那様のみにいたしましたわ」
「そうだ。俺は魅力的だから、どんな女も惚れてしまうだろう! そこに関してはお前も俺に惚れているだろうから、許してやったんだ!」
自信満々に胸を張る旦那様が社交界でなんと言われているか……いえ、ご存知ない方が幸せですわ。まだ二十歳になったところですのに、光り輝く頭部が大変美しいですもの。
「第二条、“夫は愛人を自由に持つことができる。但し、家計を圧迫しない範囲とする。また、愛人が子を成した場合、妻が後継として養育する。尚、妻が愛人を持つことは認めない”ですわ。これについては、旦那様が自由にお過ごしかと思いますわ」
「あぁ、これを聞いて俺は契約魔法を結ぶと決意したんだ!」
そうです。わたくしも、この条項を餌に旦那様と契約魔法を結びました。
「では、第三条ですね。“妻は領地経営に参加することができる。なお、これに関して、合理的な理由なく夫は異議を唱えない”ですわ」
「それだ! お前は名ばかりの妻なのにやりたい放題じゃないか。領地は潤ったものの、領民は皆領主たる俺ではなく、お前を讃える! 合理的な理由だろう!」
「それは旦那様が領地に利となる政策をしてこなかったせいですわ。わたくしに責はございません。合理的な理由として認めることはできませんので、契約条項に反してしまいますわよ?」
「領地に合議制が導入され、俺を領主として不信任決議がなされ、お前が領主になるだと? おかしいだろ! おかげで周囲の領地から笑い者となったぞ!」
「まぁ。わたくしの元には、先進的な発案に参考にしたいと各国から視察が絶えず訪れておりますわよ? いいではございませんか? わたくしが領主として経営をしていても旦那様はご自由に過ごすことができるのですから」
「そういう問題じゃない!」
ぶつぶつとおっしゃる旦那様に最後の条項を確認いたします。
「旦那様。第四条ですわ。“夫と妻、両者の合意があった時以外離縁は認めない。一方が公序良俗に反する行為をとったとき、または、契約条項に違反したときのみ、有責者への離縁を求めることを認める。但し、有責者からの離縁の要求は一切認めない”ですわ。旦那様。契約条項に違反している有責者となりますから、旦那様からの離縁は認められませんわ。わたくしからの離縁でしたら認められますが……離縁してもよろしいのでしょうか?」
すでに女領主として国王陛下の承認を得ており、この場合離縁して路頭に迷うのは旦那様でいらっしゃいます。流石に見殺しにするのは可哀想かと思い、わたくしは旦那様に問いかけました。
「いいに決まっているだろう! お前がやった、ままごとのような領地経営、俺が全てぶっ壊して元に戻してやる!」
「それは現領主への反逆の意と捉えます。衛兵!」
扉を開けて、待機していた衛兵が雪崩れ込んできました。旦那様を捕えます。
「旦那様。異議がございましたら、議会を通して承認を受けてくださいまし。あぁ、今回の反逆罪についても議会で承認を通さなければなりませんね」
「領主様! 問題ありません。前領主については、元々横領、婦女誘拐、監禁、暴行、王族への不敬罪等の容疑がかかっております。あと、隣国から賄賂を受け取り情報を流していたため、国家反逆罪にも問われております。国王陛下から身柄を引き渡すようにと、先ほど通知が来ました。爵位も没収の上、全てを情報提供者である領主様に引き継ぐようにと指示されております」
「では、残念ですが旦那様。離縁いたしましょうか? 我が領地に旦那様との関係を疑われると不利益となりますから」
「おい! 俺の領地だ! 返せ! お前、よくも裏切りやがったなー!」
兵士に旦那様を差し出し、わたくしはお茶を飲みます。
「お疲れ様です。領主様」
「ありがとう。では、我が領地をもっと盛り立てていきましょうか」
“女だから”と実家でも領地経営には関わらせてもらえませんでした。しかし、幼い頃からわたくしは領地経営に興味があったのです。傷物とされ、離縁もできぬ身になった時、旦那様を言いくるめて契約魔法を結ぶことを思いついたのです。まさか領主になれるとは思いませんでしたが。
「国王陛下にお礼のお手紙を準備しないといけないですわね。わたくしの理想を理解して、“好きに領地で実験してみろ”と自由にさせてくださったのですから」
あのお方のことですから、わたくしが失敗した場合、わたくしを側室として迎えるつもりだったのでしょうけど。
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