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エピソード2
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「わたくし、第一王子殿下と結婚して、この国の王妃になるのよ」
花咲き誇る王宮の庭園で。身内のみといっても、王妃主催のお茶会でそんな言葉を言っても不敬とされない。むしろ、周囲もそれを応援する。
先々代の王女が降嫁し、今代の当主が宰相を務め、一番上の兄は外務卿、その次の兄は内務卿、親戚は各大臣。そんな公爵家の姫君こそ、国内筆頭の公爵家であるルティアヌール公爵家の唯一の姫、メリアッセンヌ姫。
そろそろルティアヌール公爵家からも王家に妃を。第一王子が生まれ、そう言われた時にちょうど生まれた唯一の姫で希望の星こそが、メリアッセンヌ姫。
婚約者の決定は王子が成年を迎えてから、と決まっているから公表されていないだけで、メリアッセンヌ様以外に候補すらいないと噂される。成人は来年、王子が十六歳になられたときだ。そして、メリアッセンヌ自身もそのために努力を重ね、自覚を持って物事に取り組んでいる。
勉学は優秀な成績を修め、淑女としてのマナーも完璧。流行にも敏感で、毎朝屋敷内のジョギングも欠かさず、美しく健康な身体を維持している。少し性格が我が儘で高飛車な物言いをするときもあるが、その高貴な生まれならば、当然のことだ。第一王子との関係も良好で、ルディアリア王子をルーおにいさまと呼び、まるで兄妹のように親しくしている。生まれからも才能からも容姿からも政局からも当然に、次期王妃と期待されているのが、メリアッセンヌだ。
「メリア。来ていたのかい?」
優しくメリアッセンヌに声をかけるのは、第一王子だ。メリアッセンヌの二つ年上の第一王子も品行方正で優秀。性格も穏やかでどんな者にも優しい。メリアッセンヌと共に良き君主になると期待されている。
「ルーおにいさま! わたくしが来てはいけないのかしら? せっかくルーおにいさまに我が家のマドレーヌを持ってきましたのに」
「ごめんごめん、メリア。僕がルティアヌールのマドレーヌが好物なことは、メリアも知っているだろう?」
そう言って、王子はメリアッセンヌの頭を優しく撫でる。
「もう……! よ、よ、よろしければ、ルーおにいさまの騎士の方にも差し上げてちょうだい!」
そう言って、メリアッセンヌは可愛らしくラッピングされたマドレーヌの籠を王子に差し出した。少し朱に染まった頬が、メリアッセンヌの愛らしさを引き立てる。
「ありがとう。ジュドーたちも喜ぶよ」
王子がそう言って、メリアッセンヌの頭を撫で続けた。
「べ、べべ、べつに、ジュドーだけのためじゃないのですから! わたくしは、ジュ、ジュドーのためじゃなくて、ルーおにいさまを守る騎士たちみんなが、しっかりとルーおにいさまを守ってくれるように、と思って!」
顔を真っ赤に染めて反論するメリアッセンヌに、王子は優しく笑いながら頷く。外交の場や他の貴族たちがいる場ではしっかりと淑女の仮面を身につけるメリアッセンヌも、和やかなこの場ではころころと表情を変えて自然に振る舞う。王子が来て、メリアッセンヌは新たに準備された席に移動しており、席にはメリアッセンヌと王子しかいない。そんなメリアッセンヌを愛おしそうに見つめる王子に、二人の従者たちは複雑な心境になりながら控える。
「ジュドー。ほら、メリアにお礼を言って」
突然後ろを振り返った王子が、騎士を呼ぶ。そして、呼ばれた騎士は素直に現れた。
「従僕の身である我々にまで、お気遣いをいただきありがとうございます。姫様」
「ほら、ジュドー。姫様じゃなくてメリア姫だろう?」
「……殿下。この私を不敬罪で投獄したのですか?」
表情をほとんど変えないジュドーが軽く王子を睨み、反論する。メリアッセンヌはさらに顔を赤くしたが、扇を取り出し、顔を隠しながら口を開いた。
「べ、別に、ジュドーのためだけじゃないわ! 皆のためよ! しっかりとルーおにいさまをお守りしてちょうだい! ……で、でも、だからと言って、あなたが怪我をしていいわけじゃないのよ、ジュドー」
ちらちらと騎士を見上げながらそんなことを言うメリアッセンヌの様子を見て、王子は笑いを堪えたようにメリアッセンヌに声をかける。
「ほら、メリア。おにいさまがマドレーヌを食べさせてやろう」
「もう! ルーおにいさまったら。わたくし、もうそんな子供じゃないのよ!」
小さくちぎったマドレーヌを王子が差し出すと、口ではそんなことを言いながら、メリアッセンヌは素直に口を開いた。
「美味しいだろう? メリア」
王子はそう言って騎士の方を見るが、騎士は別の騎士に声をかけ、生垣の向こうに様子を見に行ったところだった。
「うちの料理人が作ったマドレーヌですもの! 美味しくて当然ですわ!」
胸を張るメリアッセンヌの頭を優しく撫でながら、王子は小さく呟いた。
「……逃げたか。つまらない男め」
「ん? ルーおにいさま? 何かおっしゃいました?」
小首を傾げるメリアッセンヌを見て、王子は口を開いた。
「メリア。無理して僕と結婚しなくても、他に好きな男ができたら、そっちに行けばいい。僕が手伝ってあげるからね?」
王子のそんな言葉に小さく笑いながら、メリアッセンヌは返答した。
「もう! ルーおにいさまったら。わたくしがルーおにいさまと結婚するのは、わたくしが生まれる前から皆が望んでいたことなのですよ? たとえ、ルーおにいさまに他に好きな方ができても、わたくしたちは結婚しなければなりませんわ。でも、わたくしもルーおにいさまの幸せを願ってますから、そうなったらお教えになってくださいね? きっとその方を側妃にするお手伝いができますわ!」
花咲き誇る王宮の庭園で。身内のみといっても、王妃主催のお茶会でそんな言葉を言っても不敬とされない。むしろ、周囲もそれを応援する。
先々代の王女が降嫁し、今代の当主が宰相を務め、一番上の兄は外務卿、その次の兄は内務卿、親戚は各大臣。そんな公爵家の姫君こそ、国内筆頭の公爵家であるルティアヌール公爵家の唯一の姫、メリアッセンヌ姫。
そろそろルティアヌール公爵家からも王家に妃を。第一王子が生まれ、そう言われた時にちょうど生まれた唯一の姫で希望の星こそが、メリアッセンヌ姫。
婚約者の決定は王子が成年を迎えてから、と決まっているから公表されていないだけで、メリアッセンヌ様以外に候補すらいないと噂される。成人は来年、王子が十六歳になられたときだ。そして、メリアッセンヌ自身もそのために努力を重ね、自覚を持って物事に取り組んでいる。
勉学は優秀な成績を修め、淑女としてのマナーも完璧。流行にも敏感で、毎朝屋敷内のジョギングも欠かさず、美しく健康な身体を維持している。少し性格が我が儘で高飛車な物言いをするときもあるが、その高貴な生まれならば、当然のことだ。第一王子との関係も良好で、ルディアリア王子をルーおにいさまと呼び、まるで兄妹のように親しくしている。生まれからも才能からも容姿からも政局からも当然に、次期王妃と期待されているのが、メリアッセンヌだ。
「メリア。来ていたのかい?」
優しくメリアッセンヌに声をかけるのは、第一王子だ。メリアッセンヌの二つ年上の第一王子も品行方正で優秀。性格も穏やかでどんな者にも優しい。メリアッセンヌと共に良き君主になると期待されている。
「ルーおにいさま! わたくしが来てはいけないのかしら? せっかくルーおにいさまに我が家のマドレーヌを持ってきましたのに」
「ごめんごめん、メリア。僕がルティアヌールのマドレーヌが好物なことは、メリアも知っているだろう?」
そう言って、王子はメリアッセンヌの頭を優しく撫でる。
「もう……! よ、よ、よろしければ、ルーおにいさまの騎士の方にも差し上げてちょうだい!」
そう言って、メリアッセンヌは可愛らしくラッピングされたマドレーヌの籠を王子に差し出した。少し朱に染まった頬が、メリアッセンヌの愛らしさを引き立てる。
「ありがとう。ジュドーたちも喜ぶよ」
王子がそう言って、メリアッセンヌの頭を撫で続けた。
「べ、べべ、べつに、ジュドーだけのためじゃないのですから! わたくしは、ジュ、ジュドーのためじゃなくて、ルーおにいさまを守る騎士たちみんなが、しっかりとルーおにいさまを守ってくれるように、と思って!」
顔を真っ赤に染めて反論するメリアッセンヌに、王子は優しく笑いながら頷く。外交の場や他の貴族たちがいる場ではしっかりと淑女の仮面を身につけるメリアッセンヌも、和やかなこの場ではころころと表情を変えて自然に振る舞う。王子が来て、メリアッセンヌは新たに準備された席に移動しており、席にはメリアッセンヌと王子しかいない。そんなメリアッセンヌを愛おしそうに見つめる王子に、二人の従者たちは複雑な心境になりながら控える。
「ジュドー。ほら、メリアにお礼を言って」
突然後ろを振り返った王子が、騎士を呼ぶ。そして、呼ばれた騎士は素直に現れた。
「従僕の身である我々にまで、お気遣いをいただきありがとうございます。姫様」
「ほら、ジュドー。姫様じゃなくてメリア姫だろう?」
「……殿下。この私を不敬罪で投獄したのですか?」
表情をほとんど変えないジュドーが軽く王子を睨み、反論する。メリアッセンヌはさらに顔を赤くしたが、扇を取り出し、顔を隠しながら口を開いた。
「べ、別に、ジュドーのためだけじゃないわ! 皆のためよ! しっかりとルーおにいさまをお守りしてちょうだい! ……で、でも、だからと言って、あなたが怪我をしていいわけじゃないのよ、ジュドー」
ちらちらと騎士を見上げながらそんなことを言うメリアッセンヌの様子を見て、王子は笑いを堪えたようにメリアッセンヌに声をかける。
「ほら、メリア。おにいさまがマドレーヌを食べさせてやろう」
「もう! ルーおにいさまったら。わたくし、もうそんな子供じゃないのよ!」
小さくちぎったマドレーヌを王子が差し出すと、口ではそんなことを言いながら、メリアッセンヌは素直に口を開いた。
「美味しいだろう? メリア」
王子はそう言って騎士の方を見るが、騎士は別の騎士に声をかけ、生垣の向こうに様子を見に行ったところだった。
「うちの料理人が作ったマドレーヌですもの! 美味しくて当然ですわ!」
胸を張るメリアッセンヌの頭を優しく撫でながら、王子は小さく呟いた。
「……逃げたか。つまらない男め」
「ん? ルーおにいさま? 何かおっしゃいました?」
小首を傾げるメリアッセンヌを見て、王子は口を開いた。
「メリア。無理して僕と結婚しなくても、他に好きな男ができたら、そっちに行けばいい。僕が手伝ってあげるからね?」
王子のそんな言葉に小さく笑いながら、メリアッセンヌは返答した。
「もう! ルーおにいさまったら。わたくしがルーおにいさまと結婚するのは、わたくしが生まれる前から皆が望んでいたことなのですよ? たとえ、ルーおにいさまに他に好きな方ができても、わたくしたちは結婚しなければなりませんわ。でも、わたくしもルーおにいさまの幸せを願ってますから、そうなったらお教えになってくださいね? きっとその方を側妃にするお手伝いができますわ!」
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