このわたくしが、婚約者になるはずでしょう!?

碧井 汐桜香

文字の大きさ
2 / 7

エピソード2

しおりを挟む
「わたくし、第一王子殿下ルーおにいさまと結婚して、この国の王妃になるのよ」

 花咲き誇る王宮の庭園で。身内のみといっても、王妃主催のお茶会でそんな言葉を言っても不敬とされない。むしろ、周囲もそれを応援する。
 先々代の王女が降嫁し、今代の当主が宰相を務め、一番上の兄は外務卿、その次の兄は内務卿、親戚は各大臣。そんな公爵家の姫君こそ、国内筆頭の公爵家であるルティアヌール公爵家の唯一の姫、メリアッセンヌ姫。
 そろそろルティアヌール公爵家からも王家に妃を。第一王子が生まれ、そう言われた時にちょうど生まれた唯一の姫で希望の星こそが、メリアッセンヌ姫。
 婚約者の決定は王子が成年を迎えてから、と決まっているから公表されていないだけで、メリアッセンヌ様以外に候補すらいないと噂される。成人は来年、王子が十六歳になられたときだ。そして、メリアッセンヌ自身もそのために努力を重ね、自覚を持って物事に取り組んでいる。
 勉学は優秀な成績を修め、淑女としてのマナーも完璧。流行にも敏感で、毎朝屋敷内のジョギングも欠かさず、美しく健康な身体を維持している。少し性格が我が儘で高飛車な物言いをするときもあるが、その高貴な生まれならば、当然のことだ。第一王子との関係も良好で、ルディアリア王子をルーおにいさまと呼び、まるで兄妹のように親しくしている。生まれからも才能からも容姿からも政局からも当然に、次期王妃と期待されているのが、メリアッセンヌだ。

「メリア。来ていたのかい?」

 優しくメリアッセンヌに声をかけるのは、第一王子だ。メリアッセンヌの二つ年上の第一王子も品行方正で優秀。性格も穏やかでどんな者にも優しい。メリアッセンヌと共に良き君主になると期待されている。

「ルーおにいさま! わたくしが来てはいけないのかしら? せっかくルーおにいさまに我が家のマドレーヌを持ってきましたのに」

「ごめんごめん、メリア。僕がルティアヌールのマドレーヌが好物なことは、メリアも知っているだろう?」

 そう言って、王子はメリアッセンヌの頭を優しく撫でる。

「もう……! よ、よ、よろしければ、ルーおにいさまの騎士の方にも差し上げてちょうだい!」

 そう言って、メリアッセンヌは可愛らしくラッピングされたマドレーヌの籠を王子に差し出した。少し朱に染まった頬が、メリアッセンヌの愛らしさを引き立てる。

「ありがとう。ジュドーたちも喜ぶよ」

 王子がそう言って、メリアッセンヌの頭を撫で続けた。

「べ、べべ、べつに、ジュドーだけのためじゃないのですから! わたくしは、ジュ、ジュドーのためじゃなくて、ルーおにいさまを守る騎士たちみんなが、しっかりとルーおにいさまを守ってくれるように、と思って!」

 顔を真っ赤に染めて反論するメリアッセンヌに、王子は優しく笑いながら頷く。外交の場や他の貴族たちがいる場ではしっかりと淑女の仮面を身につけるメリアッセンヌも、和やかなこの場ではころころと表情を変えて自然に振る舞う。王子が来て、メリアッセンヌは新たに準備された席に移動しており、席にはメリアッセンヌと王子しかいない。そんなメリアッセンヌを愛おしそうに見つめる王子に、二人の従者たちは複雑な心境になりながら控える。

「ジュドー。ほら、メリアにお礼を言って」

 突然後ろを振り返った王子が、騎士を呼ぶ。そして、呼ばれた騎士は素直に現れた。

「従僕の身である我々にまで、お気遣いをいただきありがとうございます。姫様」

「ほら、ジュドー。姫様じゃなくてメリア姫だろう?」

「……殿下。この私を不敬罪で投獄したのですか?」

 表情をほとんど変えないジュドーが軽く王子を睨み、反論する。メリアッセンヌはさらに顔を赤くしたが、扇を取り出し、顔を隠しながら口を開いた。

「べ、別に、ジュドーのためだけじゃないわ! 皆のためよ! しっかりとルーおにいさまをお守りしてちょうだい! ……で、でも、だからと言って、あなたが怪我をしていいわけじゃないのよ、ジュドー」

 ちらちらと騎士を見上げながらそんなことを言うメリアッセンヌの様子を見て、王子は笑いを堪えたようにメリアッセンヌに声をかける。

「ほら、メリア。おにいさまがマドレーヌを食べさせてやろう」

「もう! ルーおにいさまったら。わたくし、もうそんな子供じゃないのよ!」

 小さくちぎったマドレーヌを王子が差し出すと、口ではそんなことを言いながら、メリアッセンヌは素直に口を開いた。

「美味しいだろう? メリア」

 王子はそう言って騎士の方を見るが、騎士は別の騎士に声をかけ、生垣の向こうに様子を見に行ったところだった。

「うちの料理人が作ったマドレーヌですもの! 美味しくて当然ですわ!」

 胸を張るメリアッセンヌの頭を優しく撫でながら、王子は小さく呟いた。

「……逃げたか。つまらない男め」

「ん? ルーおにいさま? 何かおっしゃいました?」

 小首を傾げるメリアッセンヌを見て、王子は口を開いた。

「メリア。無理して僕と結婚しなくても、他に好きな男ができたら、そっちに行けばいい。僕が手伝ってあげるからね?」

 王子のそんな言葉に小さく笑いながら、メリアッセンヌは返答した。

「もう! ルーおにいさまったら。わたくしがルーおにいさまと結婚するのは、わたくしが生まれる前から皆が望んでいたことなのですよ? たとえ、ルーおにいさまに他に好きな方ができても、わたくしたちは結婚しなければなりませんわ。でも、わたくしもルーおにいさまの幸せを願ってますから、そうなったらお教えになってくださいね? きっとその方を側妃にするお手伝いができますわ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫は私を愛していないらしい

にゃみ3
恋愛
侯爵夫人ヴィオレッタは、夫から愛されていない哀れな女として社交界で有名だった。 若くして侯爵となった夫エリオットは、冷静で寡黙な性格。妻に甘い言葉をかけることも、優しく微笑むこともない。 どれだけ人々に噂されようが、ヴィオレッタは気にすることなく平穏な毎日を送っていた。 「侯爵様から愛されていないヴィオレッタ様が、お可哀想でなりませんの」 そんなある日、一人の貴婦人が声をかけてきて……。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

「商売する女は不要」らしいです

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリアナ・ヴァルトハイムは、第二王子の婚約者だった。しかし「女が商売に口を出すな」と婚約破棄され、新しい婚約者には何も言わない従順な令嬢が選ばれる。父にも見捨てられたエリアナは、自由商業都市アルトゥーラへ。 前世の経営コンサルタントの知識を武器に、商人として成り上がる。複式簿記、マーケティング、物流革命——次々と革新を起こし、わずか一年で大陸屈指の豪商に。 やがて王国は傾き、元婚約者たちが助けを求めて土下座してくるが、エリアナは冷たく突き放す。「もう関係ありません」と。 そして彼女が手に入れたのは、ビジネスでの成功だけではなかった。無愛想だが誠実な傭兵団長ディアンと出会ってーー。

死んで初めて分かったこと

ルーシャオ
恋愛
ヴィリジアの王女ロザリアは、大国アルデラ王国のエアル王子の婚約者として王城で暮らしていたが、エアル王子には罵倒され遠ざけられ続け、次第に周辺の人々も近づかなくなっていた。 しかし、エアル王子が故郷ヴィリジアを滅ぼしたことをきっかけに、ロザリアは何もかもを諦める。「殿下。あなた様との婚約は、破棄いたします」、そう宣言して、ロザリアは——。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

あなたは何も知らなくていい

Megumi
恋愛
「あ、じゃあ私がもらいます」 婚約破棄された夜、死のうとしていた俺を、公爵令嬢が拾った。 「あなたの才能は、素晴らしい」 生まれて初めて、俺のすべてを肯定してくれた人。 だから—— 元婚約者の陰謀も、妬む貴族たちの悪意も、俺が処理する。 証拠は燃やし、敵は消し、彼女の耳に届く前に終わらせる。 「あなたは何も知らなくていい」 彼女は知らない。 俺がすべてを終わらせていることを。 こちらは『女尊男卑の世界で婚約破棄された地味男、実は顔面SSRでした。私が本気で育てたら元婚約者が返せと言ってきます』のヒーロー視点のスピンオフです。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/82721233/538031475 本編を読んでいなくても、単体でお楽しみいただけます。

処理中です...