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「皆様、ごきげんよう!」
フィラルディーアをエスコートして馬車を降りたシジャールの後を、ルリアーナが慌てて追う。
シジャールの手を持ったまま、フィラルディーアは満足げに周囲の男子生徒たちに挨拶をした。
「お早うございます、フィラルディーア様」
「本日も、女神ドルテダニアが嫉妬してしまいそうなお美しさですね」
「おい」
フィラルディーアを褒め讃える男子生徒に、思わず声をかけようとしたシジャールを、フィラルディーアが止めた。
「お義兄様? わたくしをほめていただいたのですよ? 喜んではくださらないのですか?」
「すまない、少し狭量だったな」
「ふふ、お義兄様ったら、妹思いなんですから」
そう笑うフィラルディーアに、周囲の男子生徒たちはなんてお優しいんだと声を上げる。フィラルディーアを囲う男子生徒たちは、身分の差があるものの、全員が整った顔立ちをしていた。
「あら? 本日もアストライオス様はいらしていらっしゃらないのですね? お義兄様の親友でいらっしゃるのに」
頬を膨らませたフィラルディーアに、シジャールが頭をなでて窘める。
「こら、フィラルディーア。アストライオスは、私の友人だが、公爵令息だ。身分が下の私を、こんなにも人目の多い場所で待つことなんて、できないに決まっているだろう?」
「ふふ、そうでしたわ」
そう言ったフィラルディーアが、待ちぼうけをくらっていたルリアーナに振り返った。
「あ、そうでしたわ! 皆様。ご紹介いたしますわ。お義兄様の婚約者のルリアーナさんです!」
そう言って、ルリアーナの手を取ったフィラルディーアは、ぐいっと引っ張り、シジャールの横にルリアーナを押し付けようとした。馬車の中でも屋敷の中でも、あんなにもルリアーナをシジャールに近寄らせないようにしていたフィラルディーアの予想のつかない行動に、小柄なルリアーナは吹き飛ばされてしまった。思わず、シジャールがルリアーナを抱き留め、それを見たフィラルディーアが笑顔を浮かべた。
「もう! 婚約者同士と言っても、人前で触れ合うなんて、はしたないですよ? ねぇ」
そう言って、横にいた男子生徒の一人の肩に手を置き、フィラルディーアが笑ったのをきっかけに、周囲にいた男子生徒たちが同意する。
「シジャール様は、いつまでも妹離れできていないと思っていましたが、婚約者をお迎えになったんですね。仲睦まじいご様子でなによりです」
「フィラルディーア様の婚約者はお決まりになったのですか?」
「それは、」
声を出そうとしたシジャールに笑みを向けたフィラルディーアは、言葉を被せるように言った。
「まだですわ。お義兄様のように素敵な方が現れたら、婚約したいですわ」
「ディー」
異議をあげようとするシジャールの腕に、笑顔で巻き付いたフィラルディーアが、歓喜の声を上げた。
「あ! アストライオス様!」
フィラルディーアの視線の先には、馬車から降りてくる一人の男性がいた。翡翠色の長髪を一つに束ね、白銀の瞳を持つその人は、ひどく整った顔をしているからか、冷たい印象を与える。
「早いな、アストライオス」
「あぁ、シジャール。……ところで、義妹君に名を呼ぶ許可を与えた記憶はないのだが?」
冷たく言い放つアストライオスに、フィラルディーアが頬を膨らませて、たたた、っと駆け寄る。
「お義兄様のお友達なのですから、わたくしに名を呼ぶ許可をくださいといつも言っているではありませんか! お義兄様がアストライオス様とお呼びになるから、わたくしもついそう呼んでしまうのです」
「……悪いが、君の取り巻きになるつもりはないから、名を呼ぶ許可も出せない。……シジャールが義妹以外の女性を近くに置くなんて、珍しいな……彼女は?」
そう言ったアストライオスの言葉を受けて、フィラルディーアが嬉しそうに声を上げた。
「お義兄様の婚約者のルリアーナさんですわ! ……ですから、お名前でお呼びしてもよろしいでしょう? アストライオス様! わたくしのこともディーとお呼びください?」
「フィラルディーア! それは愛称は婚約者同士しか許されないものなのだぞ?」
焦った様子のシジャールと笑うフィラルディーアを冷たい目で見たアストライオスが、冷たく言い放つ。
「君の義兄に婚約者ができたからといって、私の名を呼ぶ許可も与えられないし、君を名で呼ぶことはない」
そう言って、アストライオスは独り言つ。
「……義妹を愛するシジャールが婚約者を迎えるなんて、奇妙なこともあるものだ」
そして、アストライオスはシジャールに声をかけた。
「シジャール、先に行っているぞ?」
「あ、アストライオス様ぁ!」
「あ、待て、フィラルディーア」
入学初日なのに、馬車付き場に置いて行かれたルリアーナは、顔を引き攣らせて小声で言った。
「なにあれ……」
フィラルディーアをエスコートして馬車を降りたシジャールの後を、ルリアーナが慌てて追う。
シジャールの手を持ったまま、フィラルディーアは満足げに周囲の男子生徒たちに挨拶をした。
「お早うございます、フィラルディーア様」
「本日も、女神ドルテダニアが嫉妬してしまいそうなお美しさですね」
「おい」
フィラルディーアを褒め讃える男子生徒に、思わず声をかけようとしたシジャールを、フィラルディーアが止めた。
「お義兄様? わたくしをほめていただいたのですよ? 喜んではくださらないのですか?」
「すまない、少し狭量だったな」
「ふふ、お義兄様ったら、妹思いなんですから」
そう笑うフィラルディーアに、周囲の男子生徒たちはなんてお優しいんだと声を上げる。フィラルディーアを囲う男子生徒たちは、身分の差があるものの、全員が整った顔立ちをしていた。
「あら? 本日もアストライオス様はいらしていらっしゃらないのですね? お義兄様の親友でいらっしゃるのに」
頬を膨らませたフィラルディーアに、シジャールが頭をなでて窘める。
「こら、フィラルディーア。アストライオスは、私の友人だが、公爵令息だ。身分が下の私を、こんなにも人目の多い場所で待つことなんて、できないに決まっているだろう?」
「ふふ、そうでしたわ」
そう言ったフィラルディーアが、待ちぼうけをくらっていたルリアーナに振り返った。
「あ、そうでしたわ! 皆様。ご紹介いたしますわ。お義兄様の婚約者のルリアーナさんです!」
そう言って、ルリアーナの手を取ったフィラルディーアは、ぐいっと引っ張り、シジャールの横にルリアーナを押し付けようとした。馬車の中でも屋敷の中でも、あんなにもルリアーナをシジャールに近寄らせないようにしていたフィラルディーアの予想のつかない行動に、小柄なルリアーナは吹き飛ばされてしまった。思わず、シジャールがルリアーナを抱き留め、それを見たフィラルディーアが笑顔を浮かべた。
「もう! 婚約者同士と言っても、人前で触れ合うなんて、はしたないですよ? ねぇ」
そう言って、横にいた男子生徒の一人の肩に手を置き、フィラルディーアが笑ったのをきっかけに、周囲にいた男子生徒たちが同意する。
「シジャール様は、いつまでも妹離れできていないと思っていましたが、婚約者をお迎えになったんですね。仲睦まじいご様子でなによりです」
「フィラルディーア様の婚約者はお決まりになったのですか?」
「それは、」
声を出そうとしたシジャールに笑みを向けたフィラルディーアは、言葉を被せるように言った。
「まだですわ。お義兄様のように素敵な方が現れたら、婚約したいですわ」
「ディー」
異議をあげようとするシジャールの腕に、笑顔で巻き付いたフィラルディーアが、歓喜の声を上げた。
「あ! アストライオス様!」
フィラルディーアの視線の先には、馬車から降りてくる一人の男性がいた。翡翠色の長髪を一つに束ね、白銀の瞳を持つその人は、ひどく整った顔をしているからか、冷たい印象を与える。
「早いな、アストライオス」
「あぁ、シジャール。……ところで、義妹君に名を呼ぶ許可を与えた記憶はないのだが?」
冷たく言い放つアストライオスに、フィラルディーアが頬を膨らませて、たたた、っと駆け寄る。
「お義兄様のお友達なのですから、わたくしに名を呼ぶ許可をくださいといつも言っているではありませんか! お義兄様がアストライオス様とお呼びになるから、わたくしもついそう呼んでしまうのです」
「……悪いが、君の取り巻きになるつもりはないから、名を呼ぶ許可も出せない。……シジャールが義妹以外の女性を近くに置くなんて、珍しいな……彼女は?」
そう言ったアストライオスの言葉を受けて、フィラルディーアが嬉しそうに声を上げた。
「お義兄様の婚約者のルリアーナさんですわ! ……ですから、お名前でお呼びしてもよろしいでしょう? アストライオス様! わたくしのこともディーとお呼びください?」
「フィラルディーア! それは愛称は婚約者同士しか許されないものなのだぞ?」
焦った様子のシジャールと笑うフィラルディーアを冷たい目で見たアストライオスが、冷たく言い放つ。
「君の義兄に婚約者ができたからといって、私の名を呼ぶ許可も与えられないし、君を名で呼ぶことはない」
そう言って、アストライオスは独り言つ。
「……義妹を愛するシジャールが婚約者を迎えるなんて、奇妙なこともあるものだ」
そして、アストライオスはシジャールに声をかけた。
「シジャール、先に行っているぞ?」
「あ、アストライオス様ぁ!」
「あ、待て、フィラルディーア」
入学初日なのに、馬車付き場に置いて行かれたルリアーナは、顔を引き攣らせて小声で言った。
「なにあれ……」
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