【完結】 婚約破棄された弱小令嬢の仕返し

碧井 汐桜香

文字の大きさ
7 / 23

しおりを挟む
「皆様、ごきげんよう!」

 フィラルディーアをエスコートして馬車を降りたシジャールの後を、ルリアーナが慌てて追う。

 シジャールの手を持ったまま、フィラルディーアは満足げに周囲の男子生徒たちに挨拶をした。

「お早うございます、フィラルディーア様」
「本日も、女神ドルテダニアが嫉妬してしまいそうなお美しさですね」
「おい」

 フィラルディーアを褒め讃える男子生徒に、思わず声をかけようとしたシジャールを、フィラルディーアが止めた。

「お義兄様? わたくしをほめていただいたのですよ? 喜んではくださらないのですか?」

「すまない、少し狭量だったな」

「ふふ、お義兄様ったら、妹思いなんですから」

 そう笑うフィラルディーアに、周囲の男子生徒たちはなんてお優しいんだと声を上げる。フィラルディーアを囲う男子生徒たちは、身分の差があるものの、全員が整った顔立ちをしていた。

「あら? 本日もアストライオス様はいらしていらっしゃらないのですね? お義兄様の親友でいらっしゃるのに」

 頬を膨らませたフィラルディーアに、シジャールが頭をなでて窘める。

「こら、フィラルディーア。アストライオスは、私の友人だが、公爵令息だ。身分が下の私を、こんなにも人目の多い場所で待つことなんて、できないに決まっているだろう?」

「ふふ、そうでしたわ」

 そう言ったフィラルディーアが、待ちぼうけをくらっていたルリアーナに振り返った。

「あ、そうでしたわ! 皆様。ご紹介いたしますわ。お義兄様の婚約者のルリアーナさんです!」

 そう言って、ルリアーナの手を取ったフィラルディーアは、ぐいっと引っ張り、シジャールの横にルリアーナを押し付けようとした。馬車の中でも屋敷の中でも、あんなにもルリアーナをシジャールに近寄らせないようにしていたフィラルディーアの予想のつかない行動に、小柄なルリアーナは吹き飛ばされてしまった。思わず、シジャールがルリアーナを抱き留め、それを見たフィラルディーアが笑顔を浮かべた。

「もう! 婚約者同士と言っても、人前で触れ合うなんて、はしたないですよ? ねぇ」

 そう言って、横にいた男子生徒の一人の肩に手を置き、フィラルディーアが笑ったのをきっかけに、周囲にいた男子生徒たちが同意する。

「シジャール様は、いつまでも妹離れできていないと思っていましたが、婚約者をお迎えになったんですね。仲睦まじいご様子でなによりです」

「フィラルディーア様の婚約者はお決まりになったのですか?」

「それは、」

 声を出そうとしたシジャールに笑みを向けたフィラルディーアは、言葉を被せるように言った。

「まだですわ。お義兄様のように素敵な方が現れたら、婚約したいですわ」

「ディー」

 異議をあげようとするシジャールの腕に、笑顔で巻き付いたフィラルディーアが、歓喜の声を上げた。

「あ! アストライオス様!」

 フィラルディーアの視線の先には、馬車から降りてくる一人の男性がいた。翡翠色の長髪を一つに束ね、白銀の瞳を持つその人は、ひどく整った顔をしているからか、冷たい印象を与える。

「早いな、アストライオス」

「あぁ、シジャール。……ところで、義妹君に名を呼ぶ許可を与えた記憶はないのだが?」

 冷たく言い放つアストライオスに、フィラルディーアが頬を膨らませて、たたた、っと駆け寄る。

「お義兄様のお友達なのですから、わたくしに名を呼ぶ許可をくださいといつも言っているではありませんか! お義兄様がアストライオス様とお呼びになるから、わたくしもついそう呼んでしまうのです」

「……悪いが、君の取り巻きになるつもりはないから、名を呼ぶ許可も出せない。……シジャールが義妹以外の女性を近くに置くなんて、珍しいな……彼女は?」

 そう言ったアストライオスの言葉を受けて、フィラルディーアが嬉しそうに声を上げた。

「お義兄様の婚約者のルリアーナさんですわ! ……ですから、お名前でお呼びしてもよろしいでしょう? アストライオス様! わたくしのこともディーとお呼びください?」

「フィラルディーア! それは愛称は婚約者同士しか許されないものなのだぞ?」

 焦った様子のシジャールと笑うフィラルディーアを冷たい目で見たアストライオスが、冷たく言い放つ。

「君の義兄に婚約者ができたからといって、私の名を呼ぶ許可も与えられないし、君を名で呼ぶことはない」

 そう言って、アストライオスは独り言つ。

「……義妹を愛するシジャールが婚約者を迎えるなんて、奇妙なこともあるものだ」

 そして、アストライオスはシジャールに声をかけた。

「シジャール、先に行っているぞ?」

「あ、アストライオス様ぁ!」

「あ、待て、フィラルディーア」

 入学初日なのに、馬車付き場に置いて行かれたルリアーナは、顔を引き攣らせて小声で言った。

「なにあれ……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

『皇族を名乗った伯爵家は、帝国に処理されました』 ―天然メイドは、今日も失敗する―

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を経て、静かに屋敷を去った令嬢。 その後に残された伯爵家は、焦燥と虚勢を抱えたまま立て直しを図ろうとする。 だが、思惑はことごとく空回りする。 社交界での小さな失態。 資金繰りの綻び。 信用の揺らぎ。 そして、屋敷の中で起こる“ちょっとした”騒動の数々。 決して大事件ではない。 けれど積み重なれば、笑えない。 一方、帝国では新たな時代が静かに始まろうとしている。 血筋とは何か。 名乗るとは何か。 国家が守るものとは何か。 これは、派手な復讐劇ではない。 怒号も陰謀もない。 ただ―― 立場を取り違えた家が、ゆっくりと現実に追いつかれていく物語。 そして今日も、屋敷では誰かが小さな失敗をする。 世界は静かに、しかし確実に動いている。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

幸せな婚約破棄 ~どうぞ妹と添い遂げて~

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を宣言された私。彼の横には、何故か妹が。 私……あなたと婚約なんてしていませんけど?

婚約破棄された令嬢は平凡な青年に拾われて、今さら後悔した公爵様に知らん顔されても困ります

exdonuts
恋愛
婚約者に裏切られ、社交界から笑い者にされた侯爵令嬢セシリア。すべてを失い途方に暮れる中、彼女を救ったのは町外れのパン屋で働く青年リアムだった。 「もう無理に頑張らなくていい」――そう言って微笑む彼の優しさに、凍りついていた心が溶けていく。 しかし、幸せが訪れた矢先、かつての婚約者が突然彼女の前に現れて……? これは、失われた令嬢が本当の愛と尊厳を取り戻す、ざまぁと溺愛の物語。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...