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悪女の手引き

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 テントの中にはランタンとそして、クロスを引いた台がある。
 ケープを頭からかぶった私は、台の上で指を組みながら淡々と告げる。

「干ばつが続いているのは、神への祝福とそして聖女への生贄が足りないのです」
 ランタンの光がクロスの上に、模様を描く。今回やって来たのは帝国側の官吏だ。これまで何度か帝国からの遣いを受け入れている。
 一方で、ルートグリム小国からの遣いも来ていた。

 手作りのタロットカードですらない適当な絵柄のカードをめくって見せ、
「南南東の森に聖女の魔力を感じます。生贄には軍部所属の名前の頭文字がSの者が好ましいでしょうね」
 と告げる。
 カードの絵柄には、本来場所をしめす象意すらない。蜥蜴だか蛇だか判別も難しいつたない絵だ。
 けれどそんなことは、目の前の官吏には分からない。
「ありがとう」
 と告げて去って行く姿を見送り、帝国の欄に一本線を足す。


 この頃、ルドキアは干ばつや食物の不作に悩まされているようだ。何度目かの人生で経験したのは、聖女の力を振るって土地に栄養を行きわたらせることだった。
 かつてはその力が素晴らしいと持ちあげられ王皇太子妃になったが、結局領地の取り合いになり、帝国と小国連合により戦争が起こる。帝国軍の侵略に負け、戦争を起こしたのは聖女だと言われて、磔刑に処された。

 自然災害由来の困りごとに、聖女の力を使うことが多い。国民には罪はないからだ。
 現在は山を切り崩し採掘に採掘を重ねた結果、山が変形し気流が出来ずに雨雲が発生しにくくなっているらしい。

 テントでのジプシー暮らしをしながら、少しずつ信頼を得てきていた。聖女の力を使って、裏工作をすればいい。例えば、鉱脈や嵐の気配を察知するのはお手の物だ。聖女の力は自然の摂理と不可分だから、こっそり利用すれば自然と予知能力となる。

 街の外れにテントを張り、預言者じみたことを繰り返していた。
 帝国の官吏が来たとなれば、そろそろだと思う。その日、生贄を捧げたことで帝国に久方ぶりの雨が降る。

 翌日、
「お前が噂の預言者か。ジェリーと言ったか?」
 帝国の宰務官が呼んでいると言って遣いが来た。じろじろとこちらを品定めするような男だったので、呼んでいる?あなたがご本人ではないの?と私は思う。
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