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妊活契約

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「オレと子どもを作って欲しい。無事に産むまでが契約だが、達成されたら報酬を約束する」
 軽く見積もって約一分間。

 私は輝夜の顔を見つめていた。まばたきは忘れていたと思う。告げる口調は業務連絡そのものだからこそ、話の内容が全く頭に入ってこない。

 条件を整理しようと、一度耳に入って来た言葉をくり返す。
「子どもを作って欲しい、無事に産むまでが契約期間、その後報酬がある?これで間違いない?」

 輝夜はうなずいた。
 内容は看過できないけれども、金勘定はしっかりしておきたい方だ。

「成功報酬のほかに、給与が支払われるってさっきは言っていたけれど。それは月給なの?」
「環の希望に沿う。自分にとって一番の好条件を提示してくれればいい」
 たまき、そう呼ばれて、身体が硬直した。


 一年間一度だって、忘れたことがない。
「子どもが必要な理由は?」
「父の研究にとって遺伝的な検体が必要だと言われてきている。オレと血のつながった子どもである必要があるんだ」

 遺伝的な検体、と言われて喉の奥に出かかったのはリストのことだ。リストの製作は守秘があった。例えば、元所長の息子である輝夜にも話せない。

「結婚していたはずだし、その人と子どもを作るのが一番スムーズだったと思うけれど」
 冬茜あやせ。その名前はリストに載っていた。

 残酷な言葉は私自身を傷つける。きっと、輝夜は無傷だと思ったけれども、意外にも表情に重々しい影が落ちた。

「中身のない結婚に、子どもは不要だ。彼女と子どもを作ることはあり得なかった」
 と言う。

 上手くいかない原因があって、別れている?
 そんな風に推測する余裕もなく、
「イエスかノーかだけだ。この話に乗るかどうか、それだけを聞かせて欲しい」
 と問われる。
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