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友達と結ばれた部屋
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しおりを挟む私がぼんやりと物思いにふけっていたら、インターフォンが鳴った。
振り返れば、すぐにドアが開いて、花菜野が入って来る。
「あ、やっぱりここにいたんだ」
と言われた。
花菜野からのメッセージに連絡をし返さないでいたことを思い出し、私は気まずくなる。
とはいえ、今の私は緋々来の姿を持っているだけで、中身は矢車碧衣なのだ。
「ごめん、返事するの忘れてた」
と私が言ったら、花菜野はこちらを見あげてくる。
キャラメルブラウンの艶髪に、ブラウンとオレンジベースのメイク。くっきりと顔立ちの花菜野に赤いリップは似合っている。
いつもよりも身長差を感じ、この距離感が緋々来と花菜野の距離感なんだ、と思った。
恋人同士としてちょうどいい身長差だな、と思うと、心の中に影が差したように思うのだ。
「いつもそうだから、気にしてない」
と言いながらしげしげと見あげてくる花菜野の視線に、私は少しだけ気まずくなってきた。
「どうした?」
と緋々来の口調を思い出しながら、尋ねる。
「何でもない。会いたかった」
と花菜野は言う。
そして、
「もう何か食べた?食べに行く?」
と言うのだった。
いつもこうやって過ごしているのかな?と私は、花菜野の口ぶりから探る。
「何か食べたいものある?」
と私が聞くと、花菜野は目を丸くした。
「作ってくれるの?」
と言うのだ。
「え、そんなつもりで言ったわけじゃないけど」
花菜野は私の家に来ると、私や姉が作る炒め物レベルの料理を喜んで食べてくれる。ただ、それは私たちの付き合い方だ。
そもそも私は、普段花菜野と緋々来とがどんな風な付き合いをしているのかは知らない。
「買い物行って、何か作る?」
と私は聞く。
緋々来の身体であることを、一瞬だけ忘れてしまっていた。
「珍しい。緋々来が料理するなんて」
と花菜野に言われて、自分の姿を思い出したのだ。
下手なことをしたかな、と思う。でも嬉しい、と言われたので、前言撤回は出来なかった。
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