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ただ、求めて、望む
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右頬に深い傷跡のある男性が現れ出る。紫地に雨の文様のある着物を流し着していた。長い髪を編んで肩に垂らしている。その髪がまるで蛇のように見えた。
男は手の平をくるりと回して、番傘を出してくる。白と紫の番傘をくるくるとまわして雨粒を飛ばして来るのだった。雨粒が飛んだ場所に、万華鏡のように色々な人たちの、記憶の光景が見える。年齢も性別も様々な人たちが、喧嘩をしていたり、空を眺めていたり、美味しいものを食べていたり、病床に伏していたり、人生の様々な場面に直面していた。
「あなたがあの広告から、あやとりしていたのね」
と私は尋ねる。男は頷いた。
「皆さん、喜んでいらっしゃいますよ。かりそめの邂逅であっても」
と嘯くのだ。
私はごくりとつばを飲み込む。
「あなたは、きっと。人ではないんでしょ。甲子童子、鵺の弟子のどれか」
と言ったら、くすくすと笑う。
「まだ弟子を名乗っても構わないと、師匠はおっしゃっているのですか?だとしたら、相変わらず甘くて愚かですね」
と言うのだ。
「私は甘くはないですよ。もし、あなたが禁書を奪っているなら。私があなたを殺します」と私は告げた。
はははははと笑うその声が耳障りで、私は思わず睨みつけてしまう。
「人間の挑文師はただ禁書の器になればいいんです。表の人間には、何も分からないのですから。人知れず人柱になっていただけばいい。それに、あなたには、私は殺せませんよ、私たちは人間ではありませんから」
「禁書はどこに?」
「この方々の元を離れ、新たな器の元に」
とその人は言う。
「返して」
「無理ですね」
と言って番傘をまわす。番傘の柄の部分に、記憶の糸を巻き取ろうとするので、私は番傘を扇で弾いた。
男は手の平をくるりと回して、番傘を出してくる。白と紫の番傘をくるくるとまわして雨粒を飛ばして来るのだった。雨粒が飛んだ場所に、万華鏡のように色々な人たちの、記憶の光景が見える。年齢も性別も様々な人たちが、喧嘩をしていたり、空を眺めていたり、美味しいものを食べていたり、病床に伏していたり、人生の様々な場面に直面していた。
「あなたがあの広告から、あやとりしていたのね」
と私は尋ねる。男は頷いた。
「皆さん、喜んでいらっしゃいますよ。かりそめの邂逅であっても」
と嘯くのだ。
私はごくりとつばを飲み込む。
「あなたは、きっと。人ではないんでしょ。甲子童子、鵺の弟子のどれか」
と言ったら、くすくすと笑う。
「まだ弟子を名乗っても構わないと、師匠はおっしゃっているのですか?だとしたら、相変わらず甘くて愚かですね」
と言うのだ。
「私は甘くはないですよ。もし、あなたが禁書を奪っているなら。私があなたを殺します」と私は告げた。
はははははと笑うその声が耳障りで、私は思わず睨みつけてしまう。
「人間の挑文師はただ禁書の器になればいいんです。表の人間には、何も分からないのですから。人知れず人柱になっていただけばいい。それに、あなたには、私は殺せませんよ、私たちは人間ではありませんから」
「禁書はどこに?」
「この方々の元を離れ、新たな器の元に」
とその人は言う。
「返して」
「無理ですね」
と言って番傘をまわす。番傘の柄の部分に、記憶の糸を巻き取ろうとするので、私は番傘を扇で弾いた。
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