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第35話 説明に
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【ケント視点】
陛下に謁見する日がやってきた。
前髪をきっちりと上げて固め、ダークグレーの正装を身に纏い、厚手のコートを上に羽織る。
玄関ホールへ向かうと、執事のセスや使用人たちとともに、リナが待っていてくれた。
彼女はそわそわと落ち着かない様子で、不安げに瞳が揺れている。
陛下に何を聞かれるのか、これからどうなるのか、不安で仕方がないのだろう。
僕だって不安で仕方がない。
だが、これ以上、リナを不安にさせるわけにはいかない。
僕がしっかりしないと……
今朝のリナは鼻の頭が赤い。
冷たい玄関ホールで僕を待ってくれていたから?
そう思うと、鼻を赤くした彼女が愛しくてたまらない。
リナの赤い鼻を人差し指でツンっと軽く触れ、
「寒い中、見送りに出てくれてありがとう。行ってきます」と挨拶する。
彼女は急に目の前に僕の指が迫り、びっくりしたのだろう。
ギョッと目を見開き、次の瞬間、顔全体が真っ赤に染まった。
そんな彼女の変化に、僕を意識してくれたのかなと嬉しくなる。
「もっ、もうっ、びっくりしたー。ケント様、いってらっしゃい」
(なんて、なんてかわいいんだ……リナは……)
「リナ、ちゃんと話してくるから、心配しないで。今朝は寒いね。風邪をひかないよう温かくして過ごすんだよ」
コクンと首を縦に振る彼女はとても頼りない。
本当に大丈夫かと心配になる。
なかなか前に歩き出せない僕をリナ付きの侍女 ロナが急かす。
「ケント様、リナ様のことは私たちにお任せくださいっ。いってらっしゃいませ」
普段の彼女はこんなことをしない。
父を馬車で待たせている、王宮へ出発する時間が迫っていると知って、僕を急かしたのだろう。
本当に物怖じせず、よく気が利く侍女だ。
僕が歩き出したのを見て、セスが、みんなが「「「いってらっしゃいませ」」」
元気よく送り出してくれた。
その声には、『しっかり説明してきてくださいよ』『自信を持ってください』『負けちゃダメですからね』といった励ましの気持ちが込められているように感じられ、僕は勇気をもらった気がした。
今朝はやけに冷えると思いつつ外へ出ると、風に粉雪が舞っていた。
今季初めての雪。
馬の吐く息が白く、はっきりと見えたので、僕もはぁーっと息を吐いてみたら、同じように白く見えた。
あー、こんな寒い日に出かけるのは嫌だな。
重い足を引きずるように馬車へと乗り込む。
「ケント、おはよう。やけに遅かったな。お前大丈夫か?」
なかなか出てこない僕を馬車で待っていた父は心配していたようだ。
空は雪雲に覆われ、薄暗い。
それがだんだん僕の気持ちを重くしていく。
雪で進めなくなれば、引き返せるのに……
地面に落ちた雪は、すぐに溶けてなかなか積もってくれない。
こんな雪では障害にならない。
僕が王宮へ行くのは久しぶりだ。
部屋に引きこもるようになってから、一切顔を出していなかった。
今は父に仕事を引き継いでもらっている段階で、本来なら僕も父とともに顔を出し、顔繋ぎをしないといけないのだが、復帰したばかりだからと父から猶予をもらっている状態だ。
王太子である第一王子は、隣国ガデナルの王女を娶り、彼女との間に娘がいる。
第二王子、第三王子は、まだ独身だったな……婚約者はいるはずだ。
第二王子は確か僕より1つ下で、第三王子は3つ下だったような……
ああ、時間が経つのが早い。
もう王宮は目の前だ。
久しぶりの王宮を見上げる。
王宮の圧倒的な大きさに尻込みしたくなる。
激しさを増した雪がうっすら積もっている。
父と2人、謁見の間で陛下の到着を待つ。
陛下が姿を見せ、父が挨拶の口上を述べると、「よく来たな。面をあげよ」と頭を上げる許しが下りた。
陛下はがっちりとした体躯、するどい目つきで圧倒的なオーラを放っている。
目が会うと思わず平伏したくなる。
「息子ケントと我が家に滞在中であるリナさんの婚約について、説明に参りました」
「我が家に滞在中のリナさんか……その者は〈神贈り人〉なる特別な存在の女性であるらしいな。なぜ今まで黙っておった」
陛下は機嫌が思わしくないようだ。
「申し訳ございません。彼女がそういった存在ではないかと私共も耳にしたばかりで……決して隠していたわけではございません」
「そうか?ワシは急に婚約が決まったと聞いたんたがな。リナさんといったかな……彼女はこの国に現れて1年足らずというじゃないか。この国を、人々を、知らない状態で、急いで居場所を決める必要はないと思うぞ。彼女が後で後悔するかもしれん。そう思わんかね?」
有無を言わさぬ目力で言われ、この国で反論できる人はいるのだろうか。
僕は悔しさで拳をギュッと握りしめた。
父も悔しそうに顔を歪めた後、僕を申し訳なさそうに見た。
それはまるで、『ケント、相手が悪い。今は引きなさい』と語りかけられたように感じた。
「………確かに陛下が仰せのとおりでございます」と父が返答するのに合わせ、2人揃って頭を垂れるしかなかった。
「そう、そうか、そうじゃのう。では、この婚約は保留じゃ。そして彼女にはこの国のことをもっと知って、最善の選択をして欲しいものだ。その為にはどうすればいいかなぁ……宰相よ」
陛下の斜め後ろに待機していた宰相が足を踏み出し、前に出てきた。
「リナさんには王宮に滞在していただき、その道一番の講師らの教育を受けていただくのがよろしいかと。それから各地への視察に同行していただく必要もありますな」
「そうじゃ、さすがは宰相、名案じゃ」
何が名案だ。
ただの横暴じゃないか。
まるで猿芝居を見せられたようだった。
陛下に謁見する日がやってきた。
前髪をきっちりと上げて固め、ダークグレーの正装を身に纏い、厚手のコートを上に羽織る。
玄関ホールへ向かうと、執事のセスや使用人たちとともに、リナが待っていてくれた。
彼女はそわそわと落ち着かない様子で、不安げに瞳が揺れている。
陛下に何を聞かれるのか、これからどうなるのか、不安で仕方がないのだろう。
僕だって不安で仕方がない。
だが、これ以上、リナを不安にさせるわけにはいかない。
僕がしっかりしないと……
今朝のリナは鼻の頭が赤い。
冷たい玄関ホールで僕を待ってくれていたから?
そう思うと、鼻を赤くした彼女が愛しくてたまらない。
リナの赤い鼻を人差し指でツンっと軽く触れ、
「寒い中、見送りに出てくれてありがとう。行ってきます」と挨拶する。
彼女は急に目の前に僕の指が迫り、びっくりしたのだろう。
ギョッと目を見開き、次の瞬間、顔全体が真っ赤に染まった。
そんな彼女の変化に、僕を意識してくれたのかなと嬉しくなる。
「もっ、もうっ、びっくりしたー。ケント様、いってらっしゃい」
(なんて、なんてかわいいんだ……リナは……)
「リナ、ちゃんと話してくるから、心配しないで。今朝は寒いね。風邪をひかないよう温かくして過ごすんだよ」
コクンと首を縦に振る彼女はとても頼りない。
本当に大丈夫かと心配になる。
なかなか前に歩き出せない僕をリナ付きの侍女 ロナが急かす。
「ケント様、リナ様のことは私たちにお任せくださいっ。いってらっしゃいませ」
普段の彼女はこんなことをしない。
父を馬車で待たせている、王宮へ出発する時間が迫っていると知って、僕を急かしたのだろう。
本当に物怖じせず、よく気が利く侍女だ。
僕が歩き出したのを見て、セスが、みんなが「「「いってらっしゃいませ」」」
元気よく送り出してくれた。
その声には、『しっかり説明してきてくださいよ』『自信を持ってください』『負けちゃダメですからね』といった励ましの気持ちが込められているように感じられ、僕は勇気をもらった気がした。
今朝はやけに冷えると思いつつ外へ出ると、風に粉雪が舞っていた。
今季初めての雪。
馬の吐く息が白く、はっきりと見えたので、僕もはぁーっと息を吐いてみたら、同じように白く見えた。
あー、こんな寒い日に出かけるのは嫌だな。
重い足を引きずるように馬車へと乗り込む。
「ケント、おはよう。やけに遅かったな。お前大丈夫か?」
なかなか出てこない僕を馬車で待っていた父は心配していたようだ。
空は雪雲に覆われ、薄暗い。
それがだんだん僕の気持ちを重くしていく。
雪で進めなくなれば、引き返せるのに……
地面に落ちた雪は、すぐに溶けてなかなか積もってくれない。
こんな雪では障害にならない。
僕が王宮へ行くのは久しぶりだ。
部屋に引きこもるようになってから、一切顔を出していなかった。
今は父に仕事を引き継いでもらっている段階で、本来なら僕も父とともに顔を出し、顔繋ぎをしないといけないのだが、復帰したばかりだからと父から猶予をもらっている状態だ。
王太子である第一王子は、隣国ガデナルの王女を娶り、彼女との間に娘がいる。
第二王子、第三王子は、まだ独身だったな……婚約者はいるはずだ。
第二王子は確か僕より1つ下で、第三王子は3つ下だったような……
ああ、時間が経つのが早い。
もう王宮は目の前だ。
久しぶりの王宮を見上げる。
王宮の圧倒的な大きさに尻込みしたくなる。
激しさを増した雪がうっすら積もっている。
父と2人、謁見の間で陛下の到着を待つ。
陛下が姿を見せ、父が挨拶の口上を述べると、「よく来たな。面をあげよ」と頭を上げる許しが下りた。
陛下はがっちりとした体躯、するどい目つきで圧倒的なオーラを放っている。
目が会うと思わず平伏したくなる。
「息子ケントと我が家に滞在中であるリナさんの婚約について、説明に参りました」
「我が家に滞在中のリナさんか……その者は〈神贈り人〉なる特別な存在の女性であるらしいな。なぜ今まで黙っておった」
陛下は機嫌が思わしくないようだ。
「申し訳ございません。彼女がそういった存在ではないかと私共も耳にしたばかりで……決して隠していたわけではございません」
「そうか?ワシは急に婚約が決まったと聞いたんたがな。リナさんといったかな……彼女はこの国に現れて1年足らずというじゃないか。この国を、人々を、知らない状態で、急いで居場所を決める必要はないと思うぞ。彼女が後で後悔するかもしれん。そう思わんかね?」
有無を言わさぬ目力で言われ、この国で反論できる人はいるのだろうか。
僕は悔しさで拳をギュッと握りしめた。
父も悔しそうに顔を歪めた後、僕を申し訳なさそうに見た。
それはまるで、『ケント、相手が悪い。今は引きなさい』と語りかけられたように感じた。
「………確かに陛下が仰せのとおりでございます」と父が返答するのに合わせ、2人揃って頭を垂れるしかなかった。
「そう、そうか、そうじゃのう。では、この婚約は保留じゃ。そして彼女にはこの国のことをもっと知って、最善の選択をして欲しいものだ。その為にはどうすればいいかなぁ……宰相よ」
陛下の斜め後ろに待機していた宰相が足を踏み出し、前に出てきた。
「リナさんには王宮に滞在していただき、その道一番の講師らの教育を受けていただくのがよろしいかと。それから各地への視察に同行していただく必要もありますな」
「そうじゃ、さすがは宰相、名案じゃ」
何が名案だ。
ただの横暴じゃないか。
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