地方騎士ハンスの受難

アマラ

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閑話 四

閑話 十六式四足歩行特殊車両

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 ケンイチの牧場。
 その地下の一画に、十数名の兵士が集まっていた。
 明るく広いその部屋には、テーブルやイスが並べられている。
 兵士達はそれらに腰掛、手元の資料を確認したり、なにやら話し込んでいる様子だった。
 この部屋は、イツカのダンジョンの一画だ。
 天井までは3mほどあり、壁と天井が白く塗り固められている事から、かなり明るい印象を受ける。
 実際、天井近くには光源となる妖精も大量に飛び交っており、内部は日中のように明るかった。
 ガチャリ、という金属がかみ合うような音が響き、兵士達が一瞬で静まり返る。
 全員が一斉に、音源へと視線を向けた。
 そこにあったのは、ドアノブの取り付けられた大きな扉だ。
 扉を開いて入ってきたのは、紙束を抱えた眼鏡。
 こと、作業着に白衣という出で立ちのキョウジだった。
 その後ろには、パンツスーツ姿で、小脇にジャビコと酒瓶を抱えたイツカが続く。

「あ、どうも」

「こんちゃーっす」

 軽く挨拶をしながら、二人は兵士達の前に並べられたテーブルに着いた。
 それを見た兵士達も、席へと着いていく。
 テーブルの上に書類をいくつか並べたキョウジは、おもむろにドアのほうへ顔を向け、何かしら手でサインを送った。
 すると、外から緑と茶色の迷彩柄の服を着込んだゴブリン、自衛隊の隊員が入ってくる。
 そのゴブリンはスタスタとキョウジ達の方へと近づくと、テーブルの上においてあるものに手を伸ばした。
 素早く反応したのは、イツカだ。
 血相を変えて、ゴブリンが持ち上げたものへと飛び縋る。

「ちょっ! やめてぇえええ!」

 それは、酒瓶だった。
 一升瓶サイズのそれに入っているのは、言うまでも無く酒だ。
 ゴブリンは、酒を没収しに来たのだ。
 いつに無く機敏に動いたイツカだったが、ゴブリンのほうが一枚上手だった。
 酒瓶を引っつかみ素早く身を翻すと、背中を盾にイツカの動きを阻んだ。
 イツカはゴブリンの背中にかじりつくと、必死の形相で、酒を取り戻そうと手を伸ばした。

「それはないでしょうがぁ! それはっ! ないでっ! しょうがぁ! その子と私のことをひきはなさないでぇ! その子は何も悪くない! わるくないのぉ!!」

 悲鳴のような叫びだが、ゴブリンは微動だにしない。
 元々体格差もあることから、イツカがゴブリンをどうこうするのは不可能に思われた。
 だが、イツカは諦めない。
 なぜなら、そこに酒があるからだ。

「ちょ、まじ、やめっ! まだ、まだのんでるでしょうがぁあ!! イツカがお酒飲んでるでしょうがぁ! っていうか口すら付けてないじゃない! まじ、なにこれつよい、マジびくともしねぇ!」

 兵士達の視線が、そんなイツカに集まる。
 皆、なんともいえない表情をしているが、イツカはお構い無しだ。
 キョウジはゆっくりとした動作で、テーブルの下へと手を伸ばした。
 ごそごそと手を動かし、おもむろに立ち上がる。
 その手に握られていたのは、恐らく履いていたのだろう、丈夫そうな靴だった。
 キョウジはそれを振り上げると、イツカの頭へと勢い良く振り下ろす。
 スパンっといういい音が響き、イツカの頭が激しく揺さぶられた。

「いってぇっ! なに、乙女のあたまに何してるの!? 暴力反対! 男女差別反対! でも重い荷物は男が持つべきだよねっ、あとキツイのとクサイのも男の仕事だと思うっ! って、はっ!?」

 はたかれた頭をさすりつつ、強烈な勢いでイツカは抗議する。
 だが、そんなことをしている間に、ゴブリンはさっさと酒瓶をもって退場してしまったようだった。
 キョウジは咳払いをすると、靴を履きなおし、先ほどと同じ場所に座りなおす。
 それを見たイツカも、心底納得が行かないというような顔で、席に着いた。
 静まり返る室内を見回し、キョウジはわざとらしく咳払いをする。
 テーブルの上に転がるジャビコに顔を近づけ、なにか小声で囁く。
 すると、ジャビコは音も無く空中に浮き上がった。
 キョウジは再び咳払いをすると、隣で絶望の表情で突っ伏しているイツカを突く。
 イツカがゆっくりと起き上がるのを確認して、キョウジは兵士達のほうへ顔を向けた。

「えー、少し早いですが、始めようと思います。今日はご多忙の中わざわざお越しいただき、有難う御座います。ケンイチ牧場の獣医、この街の街医者、自衛隊の外部アドバイザーのスドウ・キョウジです」

「あ、はい。ケンイチ牧場の施設課課長、自衛隊外部アドバイザーのスヤマ・イツカです。苗字は似てますけど、別に親戚とかではありません」

「皆さんご承知とは思いますが、一応確認という事で。この街には、ゴブリンさん達から成る自警団「自衛隊」があります。成り立ちや設立理由などに関しては事前に説明していますので、省略します。お配りした書面にもある程度記載されていますので、宜しければあとでそちらをご参照ください」

「どれそれ。何ページ?」

 机の上の書類をめくりながら、イツカはキョウジに耳打ちする。
 キョウジは無言で手を伸ばすと、イツカの書類を引ったくり、あるページを開いて渡した。
 メンゴメンゴ、とでも言うように両手を合わせるイツカに、キョウジは細かく、素早く頷いてみせる。

「今日皆さんにご説明するのは、自衛隊の装備の中でも特に目立つもの。他の自警団とは一線を画する、特殊車両についてです」

 部屋の内部が暗くなるのと同時に、キョウジの後ろに光の膜のようなものが広がり始めた。
 ジャビコが空中に投影したモニタだ。
 映し出されているのは、「自衛隊 総特殊車両説明会」の文字であった。



 イツカの影響で、ハンス達が暮らす街にはゴーレムが着実に増えていっていた。
 力仕事に特化したゴーレムは、言うなれば重機に近い。
 その運用方法は様々あり、荷物の運搬から建築の手伝いなど、多岐にわたる。
 この世界には元々ゴーレムが存在しているため、街の住民達も受け入れやすかった、というのもあり、ゴーレムの普及は比較的早かったのだ。
 だが、この世界のゴーレムは、作り出した魔法使いが操作することが殆どだった。
 そのため、領主であるロックハンマー侯爵は、この「イツカが作ったゴーレム」がどんなものなのか、確認をすることにしたのだ。
 まずは、ダンジョンの直接査察にあわせ、百人長であるセブエル・ブラハンが視察。
 はじめのうちはそれだけで十分と思われたゴーレムの確認であったが、ここで問題が発生した。
 セブエルが、自分だけでは「武装したゴーレム」の戦力は測りかねる、と報告したのだ。
 街にあるゴーレムは、大きく三つに分けられる。
 一つは、農作業や運搬などに使われる、一般に貸し出された非武装のゴーレム。
 もう一つは、自衛隊用に作られた、武装、装甲強化されたゴーレム。
 そして、ダンジョン用に有らん限りの技術とノウハウを詰め込んだ戦闘用ゴーレムだ。
 この三つのうち、セブエルは「一般貸し出し用」のゴーレムはまったく問題が無いと判断、報告した。
 だが、残りの二つ。
「自衛隊用」「ダンジョン用」のものは、自分では測りかねるとしたのである。
 視察を担当するものとして、普通ならば資質を問われるだろう。
 だが、ロックハンマー侯爵はこの判断を聞き、「流石、百人長ブラハンだ」と高く評価した。
 何しろ、ものは「にほんじん」がらみの、未知の理論で作り上げられた「兵器」なのだ。
 簡単に結論を出していいものではない。
 そこで、様々な専門分野を持つ人材を集め、ゴーレムの調査をすることと成ったのだ。
 今行われているのは、自衛隊用ゴーレムの性能説明だった。
 実物を見る前に、どういった性能で、どういったことが出来るのか。
 いってみれば、カタログスペックのプレゼンと言った所だろう。
 ただ、イツカにはジャビコという、優秀な能力にして相棒がある。
 ジャビコの機能であるモニタを使えば、映像を交えながら説明が出来るのだ。
 いきなり実物を見るよりも、まずは説明。
 そう考えていた説明する側、キョウジにとって、この機能は渡りに船だった。



 モニタに映し出された文字が横方向に流れる。
 代わりに現れたのは、四本の足を持つ、金属で覆われた物体であった。
 その外見は、犬か何かのように見える。
 ただ、その前方と思われる部分には、首に該当する部位が見当たらなかった。
 その隣には、大きさを比較するためなのか、迷彩服を着込んだ自衛隊員が立っている。
 高さは、おおよそ自衛隊員と同じ程度。
 馬の体と同じぐらいだが、それよりも胴体が幾らか太いようだった。

「えー。これはゴーレムの目を通した、現在の映像です」

 ダンジョンの機能については既に説明が終わっており、実際に見せていたりもしていた。
 なので、ジャビコのモニタ機能についても不思議に思っている兵士はいない。
 キョウジはそれを確認すると、説明を続けた。

「写っているのは、現在自衛隊に配備されている中型特殊車両。十六式四足歩行特殊車両。通称ヒトロクです」

 キョウジがジャビコに合図を送る。
 すると、四本足のゴーレム、ヒトロクが動き始めた。
 大きさと質感に見合わぬ素早い動きで、ぐるりと一回りしてみせる。
 その機敏な動きに、兵士達からどよめきが起こった。

「ちなみに、自衛隊ではゴーレムを馬車や荷車と同じ備品である、という風に認識していることから、識別を車両としています。大雑把に言って、ものを運ぶ道具は全て車、というわけですね」

「まあ、要するにですね。これ戦争用の兵器なんじゃねぇーの? って言われた時にですね。何いってんすかお客さん。これ、ただの特殊な馬車みたいなもんっすからね? って言い訳するための逃げ道なわけですにゃ。にゃってちょっとかわいくない? いまの」

 若干ドヤ顔で尋ねてくるイツカを完全に無視し、キョウジは手元の書類を一枚めくった。

「この十六式四足歩行特殊車両、ヒトロクは、主に装備の運搬や、矢避け、罠の有無の確認などを目的とした特殊車両です」

 モニタの中に、大きな荷物を抱えた自衛隊員が現れた。
 自衛隊員が口を開け声をかけると、ヒトロクは足を曲げて地面に伏せる。
 それを確認した自衛隊員達は、荷物を手にヒトロクへと近づいた。
 すると、ヒトロクの側面が開き、台の様な形状へと変化する。
 自衛隊員達はそこに、手に持っていた荷物を置いた。
 荷物には固定具が取り付けられており、自衛隊員達はそれをヒトロクへとかませていく。
 どうやら、それはヒトロクに荷物を積む専用装備のようだ。

「自衛隊員が持って来たのは、専用のカーゴバックです。ヒトロクは通常の馬よりもはるかに力がありますので、多くの荷物を輸送可能です。それでありながら、四足歩行であるため、悪路でも問題なく進めます」

 ヒトロクは立ち上がると、スムーズに歩行を開始した。
 隣の自衛官が小走りをしているのも見え、中々に速度が出てきることがわかる。
 地面も映っているのだが、舗装されていないらしくぬかるんでおり、穴や岩なども転がっていた。
 だが、ヒトロクはそういったものを物ともせず、悠然と進んでいる。

「今はこの程度の速度で走っていますが、もっと速く走ることも可能です。また、ヒトロクは人の動きに合わせて行動をするように設計されています」

 自衛隊員が、その足を突然止めた。
 すると、ヒトロクもぴたりと動きを止める。
 ふたたび、今度はゆっくりと歩き始めると、ヒトロクもそれにあわせてゆっくりとしたペースで進み始めた。

「今は前を進ませるように設定していますが、指示によっては前後左右、どこに居ても人の動きに合わせて走行します。たとえば、山、森の中を隊列を作って進む時。前後にヒトロクを立たせるだけで、大きく負担を減らす事ができます」

「荷物はこんでくれるのベンリですしね。荷馬車とかじゃこうは行きませんよ」

 ヒトロクには、かなりの量の荷物が載せられていた。
 馬でも運べる量ではあったが、アレだけの荷物を載せた馬は、これほど機敏に動く事はできないだろう。
 そのあたりは、常日頃馬と親しく接している兵士達が一番良く知っている。
 自衛隊員は立ち止まり、ヒトロクを伏せさせた。
 乗せられていた荷物、布製の袋の拘束を解き、中を広げて見せた。
 兵士達が、感嘆の声を上げる。
 袋の中に詰まれていたのは、木材だったのだ。
 かなりの重量があるのは間違いない。

「食料や装備。おおよそ必要だろう装備を載せるのに十分な積載量を、ヒトロクは有しています」

「あ、ちなみにこの映像、ヒトロクが見たものでーす」

「イツカさんが言ったように、今映っているヒトロクの横に、もう一台ヒトロクが居て、それが見た映像が映っています」

 画面が切り替わり、中央にヒトロクが大写しになった。
 片前脚を上げ、左右に振っている。
 再び画面が切り替わると、画面の前に金属の棒のようなものが揺れている。
 どうやら、前脚を振っていたのヒトロクの視界を移しているという、証明をして見せたかったらしい。

「さて、お分かりの通り、ヒトロクは視覚を持っています。そのため、視界が悪い場所で前を歩かせても、ある程度自分の判断で行動をします。たとえば敵が現れた場合、体格を生かして後ろに居る人物を守るように行動します」

「人命第一ですからね。人を守るように、自分を盾にするわけですねぇー。この子達見た目通りカタイですから。弓とかぐらいならへっちゃらですよ」

「その通りです。つまり、荷物運搬だけでなく。自ら動いて人命を守る、文字通り壁としても機能するというわけです」

 その有用性は、計り知れないだろう。
 本職の兵士達が、それを理解できないわけも無い。
 ざわざわとささやき合う声が、室内に響く。
 キョウジは軽く咳払いをして注目を集めると、説明を再開する。

「えー、ヒトロクには、あと二つ。大きな機能があります。一つは、人を乗せる事ができるというものです」

 画面に映っているヒトロクの左右から、荷物が降ろされる。
 立ち上がったヒトロクは、後方に当たる部分を画面のほうに向けた。
 隣に経つ自衛隊員が手を上げて合図をすると、なんとその後方、尻にあたる部分が展開し始める。
 タラップのようなものが下がり、開いた鉄扉の中には、取っ手のようなものが現れた。
 そこまで映したところで、画面がゆっくりと横に動き始める。
 どうやら、映像を撮影しているヒトロクが、横に回りこんだらしい。
 画面に映っているヒトロクの後方に、自衛隊員が近づいていく。
 下がっているタラップに脚をかけ、展開した内部に手を伸ばす。
 先ほどの取っ手を握ったらしいのだが、その様子は見えなかった。
 左右に展開した鉄扉が、自衛隊員の身体を守るような形になっているからだ。

「先ほど内部に見えた取っ手を掴み、身体を固定します。少し前屈みになるような姿勢になっているのですが、あとで実物をごらん頂ますので、そのときに細かくご確認ください」

「えっとですね。バイクとか、乗馬の姿勢? に、近い感じですにゃ。にゃっていっちゃった。にゃっていっちゃった。素で出るとハズいな、これ」

 なにやら一人で恥ずかしがっているイツカに、キョウジは思わずドン引きした目を向ける。
 それに対して、何を勘違いしたのかイツカはドヤ顔で親指を立てて見せた。

「えー。はい。このように、乗車姿勢でも身体を守ることが可能です。前面はヒトロク本体が。左右は展開した部分が盾となる構造です。後ろは空いていますが、まあ、その辺は仕方ないところでしょうか」

 ヒトロクが立ち上がり、旋回を始める。
 前面を向けると、ヒトロクの本体が盾になり、自衛官の顔の一部が見えるだけになった。
 ヒトロクの車体はかなり太く大きいため、大柄の自衛官が乗っても十二分に隠せているようだ。

「では、最後にもう一つの機能。戦闘能力についてご説明します」

 ヒトロクの前面装甲部分が稼動し、上下に二つずつ、計四つの穴が現れた。

「えー。少し特殊なので、内部構造を略式図にしたものを横に映します」

 キョウジは手元の書類を、ジャビコのほうへと差し出した。
 すると、モニタの横に、もう一つのモニタが現れる。
 映し出されたのは、兵士達にも配られた絵図面の一つだ。

「ごらん頂くとわかるのですが、ヒトロクにはクロスボウが内蔵されています」

「ちなみに、このクロスボウもヒトロクの一部でーす。なので、弓を引く作業も自動。中に入ってるアーム、あ、腕ですね。これによって、矢の装填も自動でやってくれまーす」

「装填作業は、完全に自動化。また、ゴーレムの力で行いますので、人間が行うよりもはるかに速く行えます」

 画面に映し出される絵図面が、切り替わっていく。
 クロスボウの弓が引かれ、矢が装填される様子が、図で説明されているものだ。

「ただ。発射は、人間が手で直接操作したとき以外、行われないようになっています。安全策の一つですね。先ほど見えた取っ手に付いた引き金。これを引かない限り、発射は絶対に行われません」

「調整するの苦労したんですよ、これが」

「また、照準ですが、これも手元の取っ手でかなり細かく行えます。実際の操作感覚は、後ほど実物を触っていただけますので、そのときにご確認いただければと思います」

 絵図面のモニタが消え、ヒトロクが大写しになった。
 立ち上がったヒトロクは、その前面をどこかに向けている。
 画面が引きの絵になると、前方に標的と思われる巻き藁が設置されているのが見えた。

「クロスボウは連射性を重視しているため、射程は軍で使われている軽量型のものと同じ程度です」

 ヒトロクの前面から、何かが射出され始める。
 一つ一つの穴から順々に打ち出されるそれは、巻き藁に突き刺さっていく。

「内部には二百程度の矢が収納でき、大体一秒間に二発程度の連射が可能です」

 命中率はなかなかいいようで、打ち出された矢の大半が巻き藁に命中してる。
 その性能に、兵士達が驚きの色を隠せない様子だった。
 身を守りつつ、行軍可能。
 さらに、クロスボウによる攻撃力ももっている。
 有用に使う方法は、現役の兵士達ならいくらでも思いつくだろう。
 そんな兵士達を見て、キョウジはニヤリとほくそ笑んでいた。

「これで驚いているようだと、主力二足歩行特殊車両を見たときどんなリアクションなんでしょうね」

「うん。驚くとは思うけど。いいの? 逆に兵隊さん達警戒させない?」

 兵士達に、ゴーレムを危険だと思われるのはまずいのではないか。
 暗にそういいたいのだろうイツカの言葉に、キョウジは顔を顰めた。

「なにいってるんですか。元々ゴーレムはどうやったって危険なんです。下手に隠し立てしないほうがいいんですよ」

「そーおー?」

「そうなんです」

 キョウジの表情は、最近では珍しいぐらいに輝いていた。
 要するにこういうミリタリー的なものが、嫌いではないのだろう。
 自分で設計に携わったものを披露するのも、恐らく楽しくないわけは無いのだ。
 キョウジはこのヒトロクを設計するために、ハンスやコウシロウ、またはロックハンマー侯爵が派遣した兵士達から、かなり入念な情報収集を行っていたようだった。
 その上でいくつもの試作を重ね、ようやく量産にこぎつけたのだ。
 十六式というナンバリングは、大きく改良をした回数を示している。
 細かいところまで言えば、その倍は下らないだろう。

「まあ、最近色々タイヘンだったし。いいストレス解消か」

 最近いろいろあったから、いい気晴らしになるだろう。
 気晴らしとしてはちょっとアレな気もしないでもないが、その辺は今更だ。

「さあ、次ぎ行きましょうか」

「へいへい」

 ぽきぽきと指を鳴らすキョウジに、イツカはなにやら楽しげに肩を竦めるのであった。
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ちなみに、もう一種類の特殊車両紹介の予定はとくにありません
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