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1巻
1-3
しおりを挟む「普通に、従者をもっと雇うとかすればいいと思いますけど。もしくはやっぱり、自警団を組むとか。村ごとに多少戦える人がいればいいんですし」
「人を雇うのにはお金かかるっすよ! 自警団を作るって言っても、やっぱり戦うのに慣れた人が一人はいないとお話にならないっす!」
ミツバの口から飛び出した言葉に、キョウジはたじろぐ。ミツバは妙なときにだけ頭の回転が速くなるらしいのだ。
「んだよ! 全然ダメじゃねぇーか! しっかり考えろよキョウジよぉ!!」
「そうっす! 考えるのはキョウジさんの仕事っす!」
ケンイチとミツバの勢いに押されるキョウジ。
「いや、でも、戦いに慣れた人を雇ったらそれはそれで、家を乗っ取る準備をしてるんじゃないか、とか因縁つけられそうじゃないですか」
「そこをどうにかするのが、キョウジの仕事だろうがぁ!」
「そうっす! 悪巧みを考えるのはキョウジさんっす!」
圧倒的に理不尽な理屈で鼻息荒く迫って来る二人に、キョウジは観念した様子で溜め息を吐いた。
「ま、まあ。手がない訳じゃないんだけど。あんまりお勧めできるような方法じゃないんだよなぁ」
「いいから、とりあえず言ってみろやぁ!」
「そうっす! 男は勢いっす!」
二人に促され、キョウジは渋々ながら口を開く。
キョウジの言った方法とは、今、牧場で働いているゴブリン達に頼むというものであった。
彼らは元来奴隷とされているので、書類上は兵員に換算されない。つまり、彼らを雇い入れて警備に当たってもらったとしても、番犬のような扱いになるのだ。
コレならば、「兵力を準備している」といった因縁もふっかけづらいはずである。
それに、ケンイチの牧場で彼らが働いていることもあってか、だいぶ街にも馴染んで来ている。
街中をゴブリン達が歩いていたとしても、なんら問題はないだろう。
ハンスの実家も文句を付けづらく、街にも馴染んだ自警団として、なかなか優秀な人員となるはずだ。
「なるほどなぁ。人種差別を逆手に取るってか! キョウジ、お前いっつもそんなこと考えてんのか!」
「流石キョウジさんっす! 悪巧みの天才っす!」
「褒めてないですよね、それ」
二人の物言いに、キョウジは表情を引きつらせた。
「ただ、問題がないわけじゃないんですよね。給料面とか」
兵員として見なされないゴブリン達であるが故に、それは人員とも扱われないため、国から給料が支給されないのだ。
「だから、普段は牧場で働いて、交代で街の警備に当たるってことでどうでしょう。ケンイチさんの牧場から人手を貸してるって形にすれば、お給料は気にしなくていいですし」
「黒い! キョウジさん黒いっす! 極悪っす!」
「そうだなぁ。俺はハンスさんには返しきれねぇ借りがあるからよぉ。金は俺が持つんで、どうってことねぇ」
キョウジの提案に、ケンイチは大きく頷いた。こういった気前の良さは、ケンイチの美徳の一つだ。
「問題は連中が何て言うかだ。後で話してみるか。しっかしホント、悪知恵は働くな、キョウジはよぉ」
「アクラツっす! 鬼っす! 悪魔っす!」
「そこまで言う!? 考えろって言うから考えたのに!」
あまりの言われように、キョウジは半泣きになる。不満を口にしようとするが、言葉は続かなかった。そのとき、突然ぶち破るように開け放たれたドアの方に、意識が持って行かれたからだ。
「話は聞かせてもらいました!!」
そこに並んでいたのは農場で働くゴブリン達であった。どうやら、三人の話を盗み聞きしていたらしい。
「俺達も、ハンスさんには恩があるんです」
そう言って、ゴブリン達はハンスにしてもらったことを話し始めた。
街の人達は無知から来る恐怖心で、初めゴブリン達の存在をとても怖がっていた。街に買い物に出れば避けられるし、農場に品物を受け取りに来る人々にも怖がられた。
そんな街の人達とゴブリン達の溝を埋めてくれたのが、ハンスだったのだ。
ゴブリン達が農場から出て街に行くときには一緒に付き添い、農場に村人達が入るときも立ち会ってくれた。ハンスという信頼できる人物が仲介することで、人々は安心してゴブリン達を受け入れられたのだ。
ハンスは双方が理解し合う、架け橋になってくれたのである。
この世界のゴブリンやオークは、理性と感情を持った生き物だ。お互いにきちんと話し合うことができれば、わかり合える隣人なのだ。
この街に住む人々は、底抜けに明るく善良である。その一方で、ゴブリンやオーク達も、とても穏やかで気持ちのいい連中であった。
話し合いのきっかけと、その場所をハンスが作ったことで、街の人々のゴブリン達に対する偏見や恐怖はなくなったのだ。
「マジか。ハンスさん、そんなことしてたのか」
ゴブリン達の話を聞き、驚きの声を上げるケンイチ。キョウジやミツバも知らなかったのか、目を丸くしている。
「それだけじゃないんすよ」
そう言うと、ゴブリン達はさらに話を続けた。
ハンスは彼らの様々な悩みや要望にも親身に耳を傾けてくれたのだという。
例えば、一緒にいた仲間が、死んでいったときの話である。
彼らはもともと、傷ついたり病気を持ったりして部族から逸れた者達だ。だから仲間が死んだとしても、ほとんど丁重に弔ってやれなかったという。
それも、無理からぬことだろう。ただ生きていくだけで、精いっぱいだったのだ。せめて立派な墓を立ててやりたい。どのゴブリン達も、そう考えていた。ゴブリン達にとって、墓はとても大切なものだった。彼らの考え方では、魂を天の世界に還すには、生きている者の祈りが必要なのだ。
山奥の一部の地域でしか産出されない希少な石材で墓を作り、そこに死者の遺品などを入れ、祈りを捧げる。そうすることで初めて、死んだ者達は輪廻転生の輪に加われるのだそうだ。
だが、食うや食わずの生活を送っていた彼らには、墓を用意する余裕などあるはずがなかった。
それを聞いたハンスは、何と単身山に入り、その石材を手に入れてくれたのだ。
「ハンスさんは見回りの途中、たまたま見つけたって言ってましたけど、そんなに簡単に見つかるもんじゃありません」
「なにせ、墓石を目当てにゴブリン族の村を襲う輩までいるぐらいですから」
「ハンスさんは、お礼も受け取らずに俺達にその石材をくれたんです」
「なのに、牧場長達には言わなくていいって言うんです。きっと余計な気を使うからって」
ハンスが彼らにしてくれたのは、それだけではなかった。
ゴブリンやオークは、皆首飾りを着けている。石に穴をあけ紐を通したそれは、自分がどの部族に所属するかを示すものだ。彼らにとってみれば、身分証明に等しい。
奴隷にされたゴブリンやオークは、首飾りを奪われた瞬間に最初の涙を流す。そんな言葉があるほど、彼らにとって重要なものなのだ。
ところが、ケンイチの農場で暮らすゴブリン達は、皆首飾りをしていなかった。皆部族から離れたときに、首飾りを外したからだ。それは故郷を捨てたことを意味し、誰とも繋がりのない者であることを示す行為なのである。
そんな彼らに、ハンスは袋いっぱいの石と、人数分の紐を持って来てくれたのだという。
紐は最上級の強度を誇る、蛾の魔蟲のマユから作ったものであった。有力な群でも、めったに使えない高級品である。
それを見ただけで驚いたゴブリン達であったが、袋に入っていた石を目にして、さらに驚愕した。
ハンスが持って来た石の大半は、「希望」を表す石だったからだ。
首輪を作る石には、一つ一つに意味が込められていた。平原や山といった具象を意味するものから、怒りや悲しみといった感情を意味するもの。その組み合わせは群によって異なり、同じものはないのだという。
ハンスはこの石を使い、自分達の群を表す、新しい首飾りを作るようにと言ってくれたのだ。
「それから、みんなでどんなものを作るか、話し合ったんです」
「俺達が今している首飾りの石の並びには、新しい希望を得て日々を生きていくもの、という意味が込められているんですよ」
「ケンイチさんやハンスさん達のおかげで、俺達はこんな立派な首飾りが作れるようになったんです」
その話を聞き、日本出身者三人の涙腺は完全に崩壊した。
ケンイチは壁を殴りつけながら啜り泣いている。
キョウジは机に突っ伏し、体を震わせて号泣しているようだ。
ミツバに至っては、何故か夕日に向かって吠えながら滂沱の涙を流していた。
三人とも、この手の話に弱いらしい。
「なんだよそれ! なんだよもーっ! その話マジなのかっ! いい人すぎるだろうハンスさん!」
「おかしいっす! 実在の人物のすることじゃないっす!」
涙を流しながら、不穏当なことを口走るミツバ。言い方は悪いが、要するにそのぐらい、いい人だと言いたいらしい。
「だから俺達、ハンスさんのために何かしたいんですよ」
「牧場の仕事もありますけど、それでも何かの役に立てればって、ずっと思ってたんです!」
そんな風に語るゴブリン達に、ケンイチは涙やら鼻水やらを垂れ流しながら大きく頷く。
「んだよもぉーよぉー! 牧場なんてどーだっていーんだよぉー! てめぇーら全員手伝いにいきゃーいいんだよ、俺だってあの人には、マジでシャレになんねーぐれぇー、世話んなってんだしよぉー!」
「いや、牧場はどうでもよくないですし、全員はまずいですよ」
冷静に突っ込みを入れるキョウジだが、もちろん誰も聞いていなかった。
「そうっす! みんなでハンスさんを手伝えばいいんすよ!」
「いやいや、農場がやばいだけじゃなくてですね? いくらゴブリンさん達でも多過ぎたらマズイんですって」
確かにゴブリン達とはいえ、一気に増えるのは具合が悪かった。兵員としては数えられないが、戦力であることには変わりがないからだ。
少人数ならともかく、牧場にいるゴブリン達全員となれば大事である。ハンスの実家にも、どう解釈されるかわからない。理想としては、十数人といったところだろう。だが、ケンイチもミツバもゴブリン達も、今すぐ飛び出していきそうな勢いがある。
「そんなこと言ったって、早くしないとハンスさんが過労死しちゃうっす! 大事件っす!」
「今日明日で死にはしませんよ、流石に!?」
「くっそ、でもそーか。軍備はマズイのか。貴族とかよっくわっかんねーけど、なんかねちっこそーだしなぁー、チクショウ!」
「いや、軍備って言うと大げさですけど」
すっかりツッコミ役に回っているキョウジが、ケンイチの言葉に顔を顰める。突然出て来たいかめしい単語に、面食らったのだ。
そのやり取りを聞いて何か思いついたのか、ミツバは腕を組んで唸り声を上げ始めた。
「軍備はダメ。軍備……ん? 軍備? そうだ! 自分にいい考えがあるっす!」
「いや、なんかセリフ的にすごく信用できない」
凄まじい嫌な予感に、キョウジは表情を歪める。
だが、ミツバの言う「いい考え」とは、キョウジの予想の斜め上を行くものであった。
全力で反対するキョウジだったが、残念ながらミツバの「いい考え」は、その場のノリと勢いで採用されてしまう。
こうして、大混乱のうちに「第一回日本出身者会議」は終了したのであった。
「そんなわけで自衛隊を結成することになったっす、ハンス隊長!!」
「「「うをぉおおおお!!!」」」
ハンスが常駐する駐在所の前で、そんな雄叫びが上がった。発生源は、横一列に並んだ十名のゴブリンと、六名のオーク。そして、ミツバである。
その様子を見て、ハンスは困惑した表情で硬直していた。朝起きて職場で仕事をしていたら、突然この状況になっていたからだ。
ゴブリンとオーク達は訓練された兵士のように、びっちりと直立不動の姿勢で整列している。
「た、隊? 隊って……。言っただろう、騎士団なんて作らないって」
「大丈夫っす! 自衛隊は、あくまで外からの脅威に対抗するための備えっすから、軍隊じゃないんす! だから軍拡とかもかんけーないんすよ! 自分、自衛隊に就職志望だったから間違いないっす!」
「言ってる意味が全くわからないんだが。別にそんなものいらないぞ?」
この辺り一帯には、脅威と呼べるようなものはほとんどなかった。奪うものがないので盗賊なども出ないし、時折、人里に降りて来る魔獣もハンスが一人で撃退できる程度でしかない。
その魔獣の類も、最近ではケンイチが掌握している狼魔獣達が人里に近づく前に食べてくれている。
住民同士のいざこざもあるにはあるが、なにせ狭い街だ。大半が顔見知りなので、大事になる事件はまず起きない。
今現在この地方は、世界中を見回しても珍しいほど平和なのだ。
「なに言ってんすか! そんなこと言ってたら、ハンス隊長が死んじゃうんすよ!?」
「死ぬ!?」
ミツバの言葉は「このまま働き通しで休む暇もなかったら、ハンスは過労死する」という意味である。
しかしハンスには「軍備を整えなかったら死ぬ」という意味に聞こえた。
自分はいったい、いつの間にそんな危険な立場になったのだろうか。最近では実家からのちょっかいもなくなり、穏やかな生活を送っているはずなのに。そんな疑問が、ハンスの頭の中を駆け巡る。
「そうっす! でももう安心っすよ! これからは自衛隊のみんなが力を合わせて、街と農村を守るっす! だからハンスさんは駐在所でどーんと構えていてほしいっす!」
ミツバの言葉の意味は「自分達が警備や巡回の仕事をするから、ハンスはゆっくり休んでいてくれ」という意味だ。
もちろん、ハンスにはそういう意味には聞こえない。
というか、意味が全く把握できなかった。いったいこの従者は何を言っているのか。ハンスの混乱は深まるばかりである。
「ハンス隊長のために、がんばるっすー!」
「「「うをぉおおおおお!!!」」」
まるで突撃をかける寸前の兵士達のような雄叫びが、朝の街に響き渡る。混乱して硬直するハンスをよそに、ミツバ達のボルテージはマックス状態だ。
そんな駐在所に、街で見かけない一人の老人が歩いて来た。にこやかな笑みを浮かべた老人は、ハンスの前で立ち止まる。
「皆さんに聞いたら、あなたに相談するようにと言われましてねぇ。お聞きしたいことがあるのですが」
「あ、はい。何事ですか?」
老人に話しかけられ、ようやくハンスは我に返る。だが、その髪と目の色を見た瞬間、凄まじく嫌な予感がハンスの体を駆け巡った。その老人の髪と目は、どちらも黒かったのだ。
「散歩をしていましたら、知らぬ間に山の中に迷い込んでしまったようでしてねぇ。静岡というところに戻りたいのですが」
「あれ! おじいちゃんも日本人なんすか!?」
老人の口から出た地名に、ミツバが反応を示した。
「おやおや。随分外人さんが多いと思ったけど、可愛らしい娘さんもいるんですねぇ。ここは外国なのかい? それにしては、言葉が通じるようだけれど」
「自分のステータス欄に言語翻訳っていうのが付いてたから、きっとそのおかげっすよ!」
「ま、まてまてまて」
ミツバと老人の会話に、ハンスは割って入った。どうしても確認しなければならないことがあるからだ。
「ご老人。もしやと思いますが、あなたの出身国は、『にほん』というところではありませんか?」
「はい。そのとおりです。いや、そう聞かれるということは、ここは本当に海外なのですかな。これは参った。神隠しですかな」
ハンスは思わず頭を抱えた。ただでさえ訳がわからない状況なのに、何故ここでさらに日本人が。
そんなハンスの様子を見て、別の捉え方をする者がいた。ミツバ達である。
「た、た、大変っす! ついにハンス隊長の疲労が有頂天に達したっす! 頭抱えてるから、きっと脳溢血っす! キョウジさんを呼んで来るっすよー!!」
「ちっがっ! 落ち着け!」
「すぐに呼んできます!」
「タンカだ! タンカもってこい!」
ミツバ達の混乱は、街にも伝染していった。
「た、大変だ! ハンスさんが倒れたって!」
「なんだって!? いっつも仕事してると思ってたけど、ついにか! 急げ、薬と滋養があるものと、あとなんか酒とかだっ!」
「店にあるもんあるだけもってこい!」
「いや、だから別に俺べつに何もっ!!」
何故、自分がこんな災難に。そんな風に嘆くハンスだったが、その認識は甘いと言わざるを得ない。彼に降りかかる受難は、まだまだコレからが本番なのだ。
3 ご老人登場
ハンスの駐在している街は、恐ろしく辺鄙なところにある。周囲は山と森だけで、ほかの街へ続く道は一本しかない。そんな土地の山の中に、突然放り出された異世界の日本人三人が無事に人里へ辿り着けたのは、ひとえに何故か手にしていた不思議な能力のおかげだ。
ケンイチは、魔獣を従えられる「魔獣使い」の能力。キョウジは、どんな傷も病も癒せる「回復魔法」の能力。ミツバは、人間の肉体の限界を超越した「超身体能力」。
四人目の日本人、フジタ・コウシロウと名乗るこの老人も、やはり特殊な能力を持ってこの世界にやって来たのだという。
コウシロウ老人への事情説明と、今後の身の振り方を決めるため、ハンスはとりあえず日本出身者達を呼び集めた。四人目ともなれば、もはや対応も慣れたものである。
集まった日本出身者達は、さっそくこの世界について説明を始めた。といっても、しゃべっているのはキョウジだけである。ほかの二人は、肉体労働担当なのだ。
「まあ、そんなわけで。ここは地球じゃないみたいなんですよ」
「はぁはぁ。なるほどねぇ。ファンタジー映画かなんかの世界に、迷い込んでしまったということですか」
コウシロウ老人に対する説明は、思いのほかスムーズに進んでいた。ジャンルを問わず、良く映画を見ていたため、剣と魔法の世界への理解も早かったのだ。異世界に迷い込んでしまうという設定も時たまあるそうで、特に違和感もなく受け入れたようだった。
「こういうのは最近のマンガや小説に多い話なので、ご年配の方にはなじみがないかと思ったんですが」
「はっはっは。人間の考えることなんて、大昔からあまり変わりませんからねぇ」
「なるほど。確かにそのとおりかもしれませんね」
納得した様子で、キョウジは頷く。コウシロウ老人はにっこりと笑うと、「それに――」、と続けた。
「自衛隊の方々や、ケンイチ君の乗って来た動物やなんかを見ればねぇ。納得するしかないよ」
その言葉に、キョウジは引きつった笑いを返すしかなかった。
自衛隊の方々というのは、ゴブリン達のことだ。コウシロウ老人が駐在所へやって来たとき、丁度彼らがそこにいたのである。
ケンイチが乗って来た動物も、ここが異世界だということに説得力を持たせるものだっただろう。なにせ、人間を楽に乗せられる大きさの狼魔獣だったのだから。
それを見た後での、キョウジによる状況説明だ。説得力はかなりのモノだっただろう。
「しっかしあれだなぁ。年寄りだとこーゆーのはついてけねぇーのかと思ったけどよぉ。コウシロウさんすげぇーなぁー」
「はっはっは。そうだねぇ。暇に飽かして、いろいろな映画を見たからねぇ」
「つまり、コウシロウさんは元祖オタクってことっすね! キョウジさんの大先輩っす!」
「せんぱい!? いや、僕は別にオタクってわけじゃないですよ!?」
ひとまず事情説明が終わった様子だったので、ハンスは自分の質問をすることにした。ケンイチ達三人は、放っておくと延々好き勝手しゃべっているのだ。
まずは、老人がどんな能力を持っているのか、確認する必要がある。それを確認するためには、本人しか見えないらしい「ステータス」を開かなければならなかった。
ほかの三人は自力で見つけたらしいのだが、コウシロウ老人はどうやら発見していないようなのだ。
幸いなことに、コウシロウ老人はキョウジの説明を聞くと、すぐに扱いを覚えて内容を確認し始めた。
「いや、なんだかパソコンに似ていますねぇ。これはいよいよ、妙なことになったものです」
「コウシロウさん、パソコンつかってたんすか?」
「その年にしちゃ、めずらしーんじゃねぇっすか? 俺も実家の仕事で使ってただけだけどよ」
「ええ。現役で仕事をしていましてねぇ。帳簿やなんかを、パソコンでつけていたんですよ」
コウシロウ老人がそう言うと、ケンイチとミツバは驚いたように声を上げる。
「すげぇーっす! 自分なんて学校の授業でやらされた課題も全然できなかったっす!」
「それはダメなパターンなんじゃ……」
「何やってんだよミツバよぉ。俺なんてアレだぜぇ? 農業高校行くまで中学とかまともに行ってねぇーぞ?」
「それもダメですよね?」
すっかりツッコミが板について来たキョウジであった。
三人が話している間に、コウシロウ老人はステータスを調べていく。そして、目的である「特殊能力」と書かれた項目を発見した。その文字を確認し、コウシロウ老人は納得した様子で口を開いた。
「はぁはぁ。そういうことでしたか」
「ご老人、何という能力だったのですか?」
真剣な表情で聞くハンスに、コウシロウ老人はにっこりと笑顔を作ってみせる。
「千里眼のようですねぇ。道理で目がよく見えるわけです」
「なんと。それは……」
コウシロウ老人の答えに、ハンスは思わず言葉を詰まらせた。
千里眼と呼ばれる能力を持つ者は、ハンスの世界には僅かながら存在している。
遠く離れた場所や壁の向こう側。本来見えないものを見通すその能力は、国が保護するほどの希少な能力だ。王都には千里眼を持つ者が数人いて、戦争のときや貴族の秘密を暴くときなどに動員されている。
「それは、いったいどの程度のことができるのですか?」
「はい。とりあえず、壁の向こうは見られるようですねぇ。この建物を透かして向こう側も、見られるようです。それと、上空から地面を見下ろすように見ることもできますねぇ」
「無茶苦茶じゃないですかそれっ! 僕ら三人の能力が霞みますよ!?」
青ざめた顔で、キョウジが悲鳴を上げる。どうやら、いち早く千里眼の恐ろしさに気がついたらしい。ケンイチとミツバはいまいちピンと来ないのか、「すっげー!」などと叫んではしゃいでいる。
「ハンスさん。流石に千里眼て、しかもいまコウシロウさんが言ったとおりだとしたら、大変なことになりませんか」
不安げに言うキョウジに、ハンスは表情を険しくして頷く。
「ああ。権力争いに躍起になってる連中は、黙っていないだろうな。情報が伝わって、それを信じれば、だが」
「どういうことです?」
「あまりにも信憑性がないのと、ここが田舎すぎるのが原因だよ」
首を傾げるキョウジに、ハンスは説明を始める。
千里眼というのは、実在はするものの非常に希少な能力だ。国から手厚く保護され、重宝される能力であるためそれを自称する詐欺師も多いのだとか。
そのせいか、ドコソコに千里眼の持ち主がいる、という話は、デマだと思われるのがオチなのだという。もし噂が立ったとしても、この街は王都との人の往来がほとんどない。あったとしても、徴税官や行商人程度だ。そもそもその噂自体が、王都などには届かないらしい。
「なるほど。陸の孤島って訳ですか」
「言い得て妙だな」
的確なキョウジの譬えに、ハンスは苦笑交じりに頷く。
「そもそもからして、お前達『にほんじん』の能力は常識外だからな。俺も自分で目撃しなければ信じられなかった」
「日本人だからそういう能力があるわけじゃないんですけどね」
日本人があらぬ誤解を受けているような気がする、キョウジであった。
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