ばか狼(いぬ)が迎えに参りました。

12時のトキノカネ

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20. 帰路。

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「あ、今日はキャベツが安い」

5時からのバイトは3時間勤務で8時には帰してもらえる。普通のレジのバイトだと閉店までで10時以降までシフトが組まれたりするとのことだが、趣味でやってる喫茶店だから8時で閉店なの。と店長は12時に開店と遅めの開店から8時まででお店を閉めてしまう。家から近いバイト先なので家に帰り着くのはまっすぐ帰れば8時30分でつく。ぎりぎり最寄の9時で終わるスーパーの時間にも間に合うので駆け込みで買い物をするのも御馴染みになりつつあった。

バイトを始めたのは高校に入ってからなのは当然だがそれでも弟が高校に入ってからだ。だから今年からでまだ数ヶ月しか経ってない。

「俺ももう高校生だし、ねーちゃんも高校生もっとエンジョイしろよ」

と弟の後押しがあって始めたことだ。
それまでは家の家事だとかで学校と家の行き来以外は殆どしないこもりきりに近い生活だったと弟の言葉で実感した。
それでもそれが苦痛だったわけではない。楽しかったのだ。

自分にやらなければならないことがある。誰かの助けになる。
日課があって動いて、くるくると掃除をしたり夕飯を考えたり、するのは苦痛ではなかった。母を失ったことは悲しかった。だが何故かその時、すごく誰よりも自分が先にまっすぐ前を見て進まないといけないと思った。

何故かと思ったが蘇った記憶で合点がいった。

「タラも安いっ買っちゃおっと」

前世は何もできないベッドの上での生活だった。何か自分でできることが楽しいと思うのはだからだと思う。前世は編み物をよくしたがそれだって好きだったかは疑問だ。ただベッドの上でできるもので時間をつぶせると言う意味では有効だった。
病人と言えど普通の人間と同じ時間が流れている。
それをただ動けないために狭い空間に止まるしかない。そこで思い悩む時間がないでもない。長く感じる時間を時に集中してつぶせる何かがあるのは気分として良かった。何時間でも単調な、編むことの繰り返し。網目を均一に、時々柄の部分で編み方を変えながら元と成る見本の紙を眺めて編み進める。

そんな毎日だった。それさえもできない時は一日中、白い天井を見ていた。

「母さんも頑張ったんだ。今なら前よりずっと気持ちが分かる…」

スーパーの籠にいくつか選んだ食材を入れてさっさとレジへと向かう。
ただでさえ閉店間際なのだ、食材選びも即断即決で時間をかけずに遅くならない前に出て家でこれから夕飯を作るのだ。

部活を終えた弟はすでに帰ってきている時間だ。
お風呂にも入ってちょうどテレビを見ているだろう頃に菫が家に着くのが多い。

父親は深夜12時を過ぎることもあるのでその頃には自分たちの部屋にいることが菫たちは多い。そして父親が一息つく頃にはそれなりに多忙な子供たちは翌日に備えて早く眠ってしまうのだ。


家の前の通りまで来て菫は足を止める。
いるはずはないと分かっていてその影を探す。

『あれだけきつく言ったんだから待ち伏せなんかしてるわけないのに』

頭では分かっているが長身の男の影がないか菫は確認してしまう。
もちろん、その影があの日以来あったことはない。
強い拒絶で相手を拒絶した自覚があった。あれでひょうひょうと菫の元にこれるわけがないと思う。
止めとばかりに帰り際にも釘をさしたのだ。
もう、会いにきてくれるなと、菫自身の言葉で。

でも、万一があるかもしれないし。

その万一がないことに菫は分かっていながら行うその意味を自覚していなかった。


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